とても、息苦しい世界だったと思う
俺はスラムで育ち、スラムの常識で生き残った
ある時は同じように飢えに苦しむ仲間を殺し
ある時は裕福なきらきらしたものを付けまとう奴も殺した
地面を這いずり回るドブネズミと同じ役回りを強いられ
それに反発する勇者はいつだって強いものがまるでおもちゃを壊すように簡単に消していった
この世界はきっと「弱肉強食」ほど似合う言葉は見つからないだろう
強いものに気に入られ、自分より弱いものを上手く使い潰す
例えその自分より弱いものが
友人だったり
愛人だったり
恩師だったり
兄弟だったり
仲間だったり
親だとしても
殺す
それがスラムでの常識であり、正しい生き残り方だった
でも、こんな俺でも転機が訪れた
俺が路地でうずくまって寝ているところに
そのお方はとても短く、息を吐くように俺に言った
「ともにこないか」と
差し延ばされた右手に、拒む理由などなかった
なぜなら、そのお方はとっても一目見てわかるほど裕福だったから
俺は寝起きで回らない思考をフル回転し
その「お方」と新しい人生を歩むことにした
鬱先生
鬱先生
鬱先生
鬱先生
いそいそと支度をすませている俺の名前は鬱
今日で社会人多分5年目
普通に小学校、高校、大学を卒業した
鬱先生
鬱先生
鬱先生
そこらへんにいるごく普通のサラリーマンである
鬱先生
上司
上司
鬱先生
上司
上司
鬱先生
上司
鬱先生
ボスッと音を立ててシングルベッドへと飛び込んだ
鬱先生
鬱先生
鬱先生
チラッとベッドの横にある時計に目をやる
鬱先生
鬱先生
鬱先生
スーツを簡単に脱ぎ散らかしてベッドへともぐりこんだ
そうして脳の機能を全てシャットダウンするかのような勢いで眠りについた
鬱先生
その日俺は夢を見た
俺がいた場所は崩壊した町のような所だった
人気は全くと言っていいほどない
すぐ横に目をやれば屋根が壊れた建物、地面を描くひび割れの数々
とてもじゃないが綺麗とは言えなかった
鬱先生
鬱先生
鬱先生
俺は目の前の方向を行く当てもなくただ足を進めた
コツ、コツと音が鳴る靴の音とたまに擦れる衣服の音以外は何も聞こえなかった
鬱先生
そう疑問を抱いているそんな時
ふと、前から自分の靴の音とは違うカサ、と革製品が擦れる音がした
その音はだんだん近くなり、俺はその音の方向を見つめた
そこにいたのは、見覚えのない紫のヘルメットを深くかぶった青年だった
けだるげそうな目をしていた彼は、こちらに目をやるととてもびっくりとした表情を浮かべた
鬱先生
ここはどこなのか、と相手に尋ねようとしたところ
???
この一言で俺の質問はさえぎられた
俺は少しびっくりして、何も言わなかった
少しの間に訪れた静寂を破るように彼は言った
???
鬱先生
???
???
じとっ...と睨んでくる彼の手には拳銃が握られていた
ぶわっと全身の毛が逆立ち、生存本能が警告を告げた
これはやばい、と
鬱先生
俺はその時どんな表情をしていたのか気になる
多分とても怯えていただろう
拳銃を向けた彼を背に逃げるように走った
あまり普段走らない俺にはこの後体にとても負担がかかることが目に見えた
鬱先生
ダッシュで走っているときふと彼の方を見てみると
???
彼は両ポケットに手を突っ込んでこちらをボーっと眺めていた
彼に追ってくる気配はなかった
どこか、懐かしさを感じるのは気のせいだろうか
鬱先生
鬱先生
ベッドから跳ねるように飛び起きたので、ベッドのスプリングが少しガタンと揺れた
ぺた、と右手を頬にあてると全身汗だくなのが分かった
いったいあれは何だったんだろうか
そんなことを考えていると、今は朝の4時という事を確認した
鬱先生
鬱先生
鬱先生
そういって、僅かに着ていた服を脱ぎ風呂へと直行した
…ここはどこだろう
俺が目覚めた場所はどうやら図書館...らしき建物だった
俺は、見たことのない景色に不思議に思いつつもあたりを見渡した
少しほこりっぽくて、空気が充満していたのでもう整備されなくなったのだと思った
所々本棚が倒れて本が散乱していたりして足の踏み場が少なくなっていた
鬱先生
鬱先生
そういって、自分の感覚に任せてそこらに散乱している本を一冊手元にとった
鬱先生
大分ほこりをかぶっていたので、ポンポンと表紙を叩いて埃を大雑把に落とした
その本に被っていたほこりが宙に舞って、おもわずまたむせてしまった
鬱先生
鬱先生
もう一度見てみると、何個所か破れていて題名が読めなかった
そのままその本をペラペラとめくり、適当なページで止めた
鬱先生
鬱先生
国内とでもいうので、どうやらこの本はとある国の資料だと思う
この国はいちいち観光客の名前まで記録しているのか と思い随分暇な国だと思った
鬱先生
鬱先生
鬱先生
ふと1ページめにある観光客の名前を見た
名前 ○○・○○ 記録 a国からの観光客 性別 男性 国内の最重要機密情報を持ち出そうとした模様 速やかに拘束し、情報を聞き出すことに成功 我々の国の記念すべき一人目の観光客
鬱先生
鬱先生
鬱先生
ふと、悪寒が背中にはしり頭をぶんぶんとふって考えるのをやめた
様々なページを順にペラペラとめくっていると ふと目に留まる名前が出てきた
鬱先生
聞いたことも
見たこともない
はずなのに
鬱先生
#80241 名前 レイラー・ウツ r国からの観光客 性別 男性 記録 国内の軍の幹部にまで上り詰めた 軍の最重要機密情報を盗み、総統を殺害未遂 そこから国外へ逃亡した模様 いまだ拘束出来ておらず、速やかな回収を目標とする
おもわず顔から血の気が引くほど嫌悪感を感じた
多分今の俺の顔はとても真っ青だろう
そんななかポン、と自分の方に誰かの手が乗ったことを確認する
鬱先生
びっくりして小さな悲鳴を上げ、後ろを振り向いた
振り向いた瞬間ほこりが舞い上がり俺の視界をぼやけさせた
涙ぐみながらも目をこじ開けるとそこには フードを被った男がいた
???
…お前は一体だれなんだ