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好きすぎる!続き楽しみです!
のあさん
じゃぱぱ
えと
放課後の、ホームルームが始まる少し前の時間。
今日やった体育の授業で、じゃっぴが盛大に転んだことの話題をして、私は思わず爆笑した。
気が付いたら、私はこの教室で、ちゃんと心から笑えるようになってきてた。
窓側の自分の席。 ここから見えるグラウンドの景色も、 もう“知らない景色”じゃない。
ここが、『私の新しい居場所』なんだって感じがちゃんとする。
のあさん
ふいに、のあさんがそんなことを言った。
悪気のない、ごくごく当たり前のテンションで。
えと
笑ってた口元が、しゅん…と落ちるのが、自分でもわかった。
のあさん
くりくりの目で、まっすぐに私を見てくる可愛いのあさん。
全てのことを話せない罪悪感が襲ってくる。
思わずちょっとだけ下を向いたその時、 ゆあんくんが大きい声で言った。
ゆあんくん
それは、めっちゃ嬉しくて、元気な笑みで。
優しくて、あったかい空気をまとっていた。
えと
自然と、私もまた心からの笑顔に戻ることができた。
また教室が楽しい空気に包まれたとき、ふと思った。
えと
放課後にチョコの話で盛り上がってくれた子。
移動教室でいつも隣の席になって、 絵を描きあいっこしてた子。
――『えとちゃんっ…!』
ぎゅって、暖かい体で、 冷えた私を思いっきり抱きしめてくれた人。
えと
ちゃんと伝えられないまま、こっちに来ちゃった。
これからも仲良くしようね、って話してたのに…。
そのことを思い出すたびに、胸の奥に罪悪感が生まれる――。
下校中、とぼとぼと帰り道を歩いていた。
じゃっぴとのあさんは掃除があるって言ってたし、 ゆあんくんはいつの間にかいなくなってた。
最近はじゃっぴとのあさんとゆあんくん、 私含めた四人で行動することが多くて、登下校も一緒だったから、静かなのは久しぶり。
えと
事故のこと、じゃっぴたちにはまだ伝えられてない。
深刻な話だし、変に気を遣わせるかもしれないから、 打ち明けるつもりもないんだけど。
でも…誰かに、話を聞いてもらいたい、とも思う。
ゆあんくん
えと
足音、全然気づかなかった。 私、考え事すると周りが見えなくなっちゃうタイプなのかもしれない。
ゆあんくん
…ギク、ってした。
違和感ないように笑ってたのに、バレたとか。
びっくりしたし、信じられない。
…一瞬、脳裏によぎった。
ゆあんくんなら、話しても大丈夫なんじゃないかって。
全部ぶちまけたら、少しは楽になれるかもって。
……でも。
えと
ゆあんくん
あたたかい声で、少し微笑みながら言った言葉に、
えと
私の胸の奥にたまっていた重さが、 少しだけ、軽くなった気がした。
次の日の、放課後。
のあさん
じゃぱぱ
のあさん
のあさんとじゃっぴが、いつも通りのテンションで騒いでいて
私とゆあんくんは、その横で、いつも通りに笑ってた。
ゆあんくん
じゃぱぱ
ゆあんくん
じゃぱぱ
たまにゆあんくんもじゃっぴと絡んで、 冗談言ったりするけど、
『今日、いっしょに帰ろ』
あの時の言葉、優しさが含まれてたの、ちゃんとわかってる。
えと
そんなことを思いながら、ふわりと笑ったとき――
ゆあんくん
のあさん
じゃぱぱ
のあさん
…家族の、話。
その瞬間、心臓がひゅっ…と縮んだ。
じゃぱぱ
じゃっぴの何気ない質問。
でも、声色とか、表情とか。
離れて暮らしてるってだけで、気を遣わせてるってことがなんとなく伝わってきた。
えと
えと
ぽつりと、小さくこぼれ出た本音。
ゆあんくん
のあさん
近くにいたゆあんくんには、ばっちり聞こえてたのかも。 表情が思いっきり変わってる。 じゃっぴとのあさんも…言ったら、こんな顔するのかな。
…もう、一生会えないんだよって言ったら。
みんなとは…どうなるんだろう。
絶対…気まずく、なっちゃうよね。
今以上に、気を遣わせるんだろうなぁ…。
えと
誰だって『親がいるのが当たり前』って思うよね。
私だって、そう思ってたし。
『お母さんと笑うことが当たり前』 『お父さんとあいさつすることが当たり前』
そんなの、当たり前だから――疑うことも、ないんだよね。
えと
急に、音が遠のいてくる。 呼吸が、うまくできない。 肺の奥が空っぽなのに、空気が入ってこない。
のあさん
のあさんの声が、すごく遠くに聞こえた。
でも、顔だけは目の前にあって、 よけいに不思議な感じがする。
じゃぱぱ
身体が傾く。じゃっぴの焦った声が聞こえる。
えと
なのに、身体がぜんぜん言うことをきかない。
視界の端が、じんわり暗くなっていく。
じゃぱぱ
ゆあんくん
のあさん
えと
言いたかった。 「だいじょうぶ」って、いつもみたいに笑いたかった。
なのに、口が震えて、声がつっかえて、 喉の奥からすすり泣きがこぼれた。
えと
でも、その願いはもう、心の奥でほどけていた。
保健室。 カーテンで仕切られた、狭い空間。
ベッドの上で、私は小さく丸くなっていた。 呼吸はもう落ち着いてる。
…けど、まだ目の奥が熱い。
となりから、小さい声が聞こえてきた。
ゆあんくん
とぎれとぎれで、よく聞こえないけど。
えと
声を出すと、その声は聞こえなくなった。 その代わりに、足音が近づいてくる。
ゆあんくん
えと
シャッ、って音がしてカーテンが開く。
やっぱり、ゆあんくんだった。
後ろにじゃっぴとのあさんが丸椅子に 座ってるのも見えるけど。
…二人とも、なんだか暗い表情だった。
ゆあんくん
紙コップを受け取って、お礼を言う。
えと
えと
ゆあんくん
…沈黙。
でも、その沈黙は、さっきまでの苦しさとは違って、 “待ってくれている”っていう、やさしい空気。
じゃぱぱ
じゃっぴの声が聞こえた。
のあさん
今度は、のあさんの声。
ゆあんくんも、じゃっぴも、のあさんも。 私が急に倒れて…目覚めるの、待っててくれたのかな。
みんなの優しさに、さっそく泣きそうになってくる。
この人たちになら――話したい。
覚悟を決めて、私は、深く、息を吐いた。
えと
声が震えてた。でも、止めなかった。
えと
言葉が空気に溶けていく感覚が、少しだけ怖かった。
えと
ぽとりと、涙がほおを伝った。
でも、言葉は少しずつ、ちゃんと自分の声になっていった。 ゆあんくんもじゃっぴものあさんも、 誰も遮ったりなんかしない。
えと
えと
えと
えと
目を閉じる。
まぶたの裏に、さっきの笑い声が浮かぶ。
えと
みんながいなかったら、私。 もしかしたら…お母さんとお父さんの後を追って、なんてこともあったかもしれない。
涙がこぼれて、そのままぎゅっと目を閉じた。
その瞬間――
のあさん
だだだって走る音が聞こえて、のあさんが飛びこんできた。
そして、それと同時に、強く抱きしめられる。
のあさん
のあさん
えと
また、目が潤み始める。
すると今度は、頭にあったかい手が置かれた。
そっと顔を上げると、のあさんの肩越しに、 ゆあんくんと目が合った。
うるんでて、よく見えないけど――ほほえんでるように見える。そのまま、ゆっくり、そっと――なでられた。
ゆあんくん
その手が本当にあたたかくて、一気に涙があふれてくる。
えと
ゆあんくん
気づけば、じゃっぴも横に座ってて―― なんか、顔を背けてた。
じゃぱぱ
のあさん
じゃぱぱ
のあさん
じゃぱぱ
のあさん
じゃぱぱ
ゆあんくん
えと
思わず笑っちゃった。
みんなの顔がにじんでて、泣いてるのに、 笑いが止まんなくて。
――みんなのこと、 大好きだよ。
心の底から、そう思った。