__午前二時。
望遠鏡を担いで、踏切前のベンチに腰をかける。
星を見るのに最適な時間だった。
君と俺だけの、誰にも邪魔されない時間だから。
ベルトに結んだラジオは、雨は降らない、と自信気に言っていた。
雨に邪魔されることはないそうだ。
__ほうき星。
別名、ハレー彗星とも言う。
滅多に見れるものじゃないから、見たいと言った時は驚いた。
二分後、君が走ってやってきた。
大袈裟な荷物を背負って。
絶対不必要だろ。って物も入ってそうな、本当に大袈裟な荷物。
はぁ、とため息を着くと、白い息が広がった。
ロボロ
大きく頷いた彼女は、大きめの1歩を踏み出して、観測場所へと歩いていく。
『いい観測場所があるの!』
この前、自慢気に言ってきた彼女。
特に場所も教えられず、彼女の背を追うだけ。
方向音痴な彼女だ。半分不安な気持ちを抱えながらも、歩いていく。
星なんて、彼女が好きだなんて全く知らなかった。
それにこんな遅い時間だ。普通の人は迷惑に感じるだろう。
それでも、一緒に星を見よう。という約束を引き受けたのは、
友達関係や家族問題で酷く苦しんでいる彼女を目の前で見てきたからだろう。
そんな不安や絶望の中で藻掻く彼女に、俺は手を差し伸べようとしたんだ。
差し伸べようと、してたんだ。
ちらりと覗いた望遠鏡には、幾つものきらきらと輝いた星が映っている。
彼女と俺しかいない、静かな夜。
私にも見せてよ!と俺の右腕を引く彼女に、望遠鏡を譲ると、『わぁ!』と子供のように声を上げる彼女。
いずれやって来る明日になんて見向きもしないで、ただひんやりとした空気の漂う空の下で、口を開けたまま突っ立っている。
ロボロ
ロボロ
___知ってる。
約70年後、俺らはここの地に立って、星を見れないこと。
それは年齢的な事じゃなくて、
...あぁ、もう少しで。
また、帰ってしまう。
ロボロ
ロボロ
ぱちっ、と目を開けると、いつもと変わらない和室。
ロボロ
いつもだ
いつもあんな夢を見る。
彼女に星を見ようと誘われて、見て、楽しく笑って、でももうすぐ夢が覚めるって、あぁ、嫌だなって。
妙にリアリティのある夢。
♢ 現実のこの世界で、俺は何かを探したいんだ。
俺はからっぽだから。
まだ何も、現実のこの世界のことを何も知らないから。
幸せの意味だって、哀しみの置き場だって。
きっと、生まれてから死ぬまで、何も分からないんだと思う。
ずっと悩んでばっかで、何が楽しいんだろう、って思うこともあるけど
あの夢を見ると、いつも後ちょっとだけ生きてみよう、なんて思ってみたり。
もうどうでも良くなってしまったり。
ロボロ
ロボロ
夢の中でいつも目指すほうき星は、現実では暫く見れないはずだ。
それは何かを表しているのか、ただ夢の中でよくある謎の設定なのか。
よく分からないけど、別に深く知る必要もないか。
夢の余韻に浸ってる内に、時間は過ぎていって、時計が午前7時を報告してきた。
ロボロ
今日は1日、ぼーっと過ごしていた気がする。
特にやることも無く、ただぼーっと。
久々に引っ張り出してきた星座図鑑も、ただ呆然と見つめるだけ。
あの夢の影響で、購入した図鑑は、片手で数えられるくらいしか読んでいないだろう。
日が暮れていることに気づくと、適当に料理を作る。
...って言っても冷凍食品なんだけど。
心でツッコミを入れながらもレンジのボタンをポチッと押す。
ロボロ
こんなだらだらした生活に、ため息が出る。
何をしたいのかも分からず、何かを見つけようとして、でも気づいたらそんな気持ちがそれていって
気づいたらこうしてぼーっとしている
チーン、とレンジが仕上げを知らせて、あちっ、と声を上げながらも机に運んでいく。
___俺って死ぬまでこんな性格なんかな
ふと、頭に浮かんだ。
探しているものは、夢の世界にあるのかもしれない。
彼女が持っているのかもしれない
きっとそうだ。
そう思うことで、気持ちが楽になった気がした。
そんなこと考えても埒が明かないから、夢の中でまたあの星を探そう。
誰にも邪魔されない、何も考えなくていい世界で。
ロボロ
あの日から、暫く...というかずっと、あの夢を見なくなった。
何度願っても、何度眠っても、夢の中で彼女に出会う事はなかった。
どうしても、必死に藻掻く彼女に、手を差し伸べることが出来なくなった。
夢の世界に彼女を置き去りにしてしまった。
ズキン、と胸が痛む感じを覚える。
ぽろり、と頬を伝った涙が、溢れて止まらなくなってしまった。
ゾム
ロボロ
少しだけ、探していたものを見つけた気がした。
多くの仲間と、楽しそうにゲームしたり、イベントやったり...、
光を探して、探して、探しまくって
ようやく見つけたもの。
それでも、今でも夢の世界に彼女を置いて言ってしまったことが、手を差し伸べられなかった事が、今でも胸をチクリと刺してくる。
...俺は今でも、あの夢の世界に行けていない。
月日が経つに連れて、彼女に伝えたいことも増えていった。
名前も知らない彼女に聞きたいこと。
宛名もない、彼女に対しての手紙。
崩れる程重なっていった。
メンバーに言ったら、馬鹿にされるかもしれないし、ネタにされるかもしれない。
この夢の世界の話は、俺と彼女だけが知っていればいい。
なぁ、今元気にやってるか? なんか不安なことはないか? 俺は現実世界でなんだかんだ上手くいってる。 心配事もあんまない。 お前はまだ星が好きなんか? ...今日は、オリオン座が綺麗に見えるで。 ほうき星は、当分見れんけどな。 ...とにかく、元気でやってるで安心して。 あ、一つだけ言わせて。 ...俺はまだ、お前の事を思い出すんや。
♢ ___ぽろり、と頬を伝った涙が、溢れて止まらなくなってしまった。
つい最近まで目の前にあった夢を、見失ってしまった。
目を覚ましたのは、朝じゃなくて、午前二時前。
考える前に体が動いていた。
望遠鏡を担いで、急いで家を出る。
ロボロ
あの日と同じ、午前二時。
彼女が教えてくれた観測場所。
凄く星が綺麗に見える場所。
さぁ、あの日のように星をまた見よう。
二分後に君が来なくても。
遅れてきても大丈夫だよ。いくらでも待つから。
空に浮かぶ光る星。
ほうき星は見れないけど。
どこかから、俺がこうして元気に生きてること、見守ってくれてるだけでいいからさ
でも欲を言えばさ
また隣で、『綺麗だね!』って笑ってて欲しいなぁ。
もう1回、一緒に天体観測、やらんか?
end
我々だが出てきてびっくりした方も多いでしょう
最近見るようになってきたので、書いてみました
実は前にも天体観測書いてたんですよね。もう削除したんですけど。
覚えてる人いますかね?
リメイク版、的なやつです これからも時々昔のをリメイクして書いてきます
そして、この天体観測という超有名曲を書いた、藤原基央さんが、本日4月12日、誕生日なんですよね
正直、これに合わせて書きました((
この小説、ちょーっとだけ工夫を施してるんですよ
ロボロが夢の世界に行けなくなったシーンあったじゃないですか
あの日から、暫く...というかずっと、あの夢を見なくなった
というセリフのところですね
その前に、何回か和室の背景が繰り返し表示されると思うんですよ
それが、時の流れを表している...
...っていう工夫をやってみました
すいません語彙力ないっす
あと、ゾムさんが出てくる前に、なんかふにゃふにゃした画面が出てくるんですけど
あれも、長い時の流れを表しています。
ちなみに最後の方はちょっと時を戻したというか...
ロボロが天体観測に行くシーン。
その前に、夢を見なくなったシーンがもう一度描かれているんですよ。
あれ、もう長い時が経ってるはずなのになんでまた夢を見なくなったシーンを書いてるの?
って思った方いるのでは?
それは、夢を見なくなったシーンからもう一度描いてるからですね
まぁ...なんて言うんだ、回想シーン的な?
実はあの時こんなこと(星を見に行っていた)をしてたんですよ。
っていうシーンで終わるんです。
これは工夫というか、曲に合わせてるって感じです
まじ語彙力ないんであんま気にしないでください
それでは。160タップピッタリでさようなら。
参考曲 『天体観測』 BUMP OF CHICKEN
コメント
5件
あ、好きですね。はい。 そもそも、天体観測が好きでよく聞いてるんですよ。神ですね。