お前が泣くなんて珍しい…。
私は今、飲み友達の彼の車にいる。
駅を出ようと思うと、雨が降っていて、どうしよう。と思っていると、たまたま通りかかったようで
乗ってく?なんて言われちゃって。
雨の中傘もなく帰るのも…と彼の優しさに甘えて、彼の車に乗って家まで送ってもらっている。
雨の中びしょ濡れで帰るのも、涙を雨のせいに出来ていいかもな、なんて思ったけど、
傘無しでびしょ濡れで静かに帰っていたら、それはそれで変な目で見られるだろう。と思っての判断だった。
なんで泣いてんだよ
その言葉に、ふと顔を背けて別に。と呟く。
泣くなんて珍しい
そりゃそうだ。普段泣くようなことなんて 滅相ないんだから。
だけど今回は特例で。
少しキレたような口調で呟いた彼。
少し話し出すと、もう止まらなくなって、一気に話し出す。
隣でうん、うん。と相槌を打つ彼。
そう言って、信号が赤なのを確認した彼は、ティッシュを私に差し出す。
何故か分からなくて、首を傾げると、彼は私の目元までティッシュを運んで 優しく拭く。
その時、自分が泣いているということに気がついた。
あぁ…駄目だ。
今そんな優しい言葉をかけられたら…
信号が青に変わり、ゆっくりと動き出す車。
窓の外はいつもと同じ景色なのに、涙で滲んで見える。
涙が落ち着いてきて、また浮気現場に遭遇した話を続ける。
彼の言うことが分からなくて首を傾げると、彼は私の首元を指さして、
俺はここで絆創膏なんて女子みたいに出せないけど。と、口元を緩ませた。
コクンと頷くと、もうすぐで家着くから、と言ってまた車を発進させた。
彼のその言葉が気になって、車を降りる気にはなれない。
何それ、と頬を膨らませると「でも」と言葉を付け足した。
思わずクスっ、と笑ってしまった。
バタン、と車のドアを閉めると、直ぐにエンジン音を出して進んでいく車。
なんだかんだ、長い間仲良くしている人だ。
彼の考えることは、言葉や表情でわかったりする。
だけど、自意識過剰になっちゃうから、これは彼が言ってくるまで気付かないふりをしておこう。
…なんて、私は狡い女だ。