嵌永優莉
はぁ…
嵌永優莉
( 疲れた )
ひとり溜息をこぼしながら 歩く秋の夜。
簡素な住宅街の中にある、 新しめなアパート。
それが私が絶賛 一人暮らし中の住まいだ。
そう、一人暮らしのはず… なんだけど。
嵌永優莉
なんでいんの
禪院甚爾
おう、やっと来たか
禪院甚爾
帰ってくんの遅せぇよ
玄関の前に立つ大男。
嵌永優莉
お巡りさんコイツですー
禪院甚爾
やめろコラ
このヒモ男、また オンナ 家に捨てられたらしい。
禪院甚爾
帰り遅くね?送迎は?
嵌永優莉
今日は忙しいから1人で帰れって時雨さんが
禪院甚爾
薄情な奴だなぁ
嵌永優莉
とっとと帰れ不審者
禪院甚爾
そう言わずに泊めてくれよ
禪院甚爾
一日だけ、な?
そうわざとらしく 手を合わせるこの男は、
仕事で知り合ったヒモ男、 禪院甚爾である。
腕利きの殺し屋で、フィジカル ギフテッドがなんちゃら。
女に捨てられては 私を宿にするクズだ。
嵌永優莉
次の女捕まえれば済む話でしょ
禪院甚爾
今日はだりぃ
嵌永優莉
頼めばホテル代出してくれるって
禪院甚爾
抱くのがだりぃ
嵌永優莉
最低だな
耳に小指を突っ込んで 上の空のその男に、
舌を出して中指を立てる。
嵌永優莉
いやほんとに早く帰って
禪院甚爾
帰るところねえんだって
嵌永優莉
知らんわ
嵌永優莉
こっちも疲れてんの
禪院甚爾
ひでぇ女だな
禪院甚爾
お前もそうやって俺を捨てるんだな
嵌永優莉
ちょ、
そうまあまあな声量で 話し出す甚爾は、
たまたま通りかかった 近所のおばさんの目につく。
嵌永優莉
分かったからやめろマジで
ご近所トラブルや 下手な噂はなるべく避けたい。
何せ私は近所で今のところ、
どんな職業をしているのかも 分からない変な女だ。
夜に出たり昼に出たり、 きっと謎めいた存在。
殺し屋なんてバレたら 人生終わるので、
悪目立ちしないように 良い感じに生きたいのだ。
禪院甚爾
おっ、いいのか?
禪院甚爾
太っ腹〜
嵌永優莉
はよ入れ
素早くドアの鍵を 開けた私は、
件の大男を部屋に押し入れて バタンと扉を閉めた。