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戸和 真梨江
坂口 愛望
野沢 麻衣香
月曜の朝、教室はざわざわしていた。
廊下で誰かが言った噂が、教室中を駆け巡っている。
その噂の中心にいたのが───
杏璃だった。
時田 杏璃
机の上に視線を落としたまま、杏璃は静かにため息を吐いた。
視線の先には、何も変わらない教科書と筆箱。
でも、自分の中では“何か”が変わった気がしていた。
小茂田 千琴
隣の席の女子が、珍しく話しかけてくる。
時田 杏璃
小茂田 千琴
一瞬、言葉に詰まる。
だけど、約束は守らないといけない。
杏璃は、小さくうなずいた。
時田 杏璃
それだけで、その子は「へぇ〜〜」と妙に納得した顔をして自分の席に戻っていった。
教室の前のほう、数人に囲まれて笑っている雄大の姿が見える。
変わらず、明るくて、クラスの中心にいる彼。
でも───。
時田 杏璃
“付き合ってる”はずの彼は、杏璃のことなど見向きもしなかった。
その日の、放課後。
杏璃は誰よりも早く教室を出ようとしていた。
カバンを肩にかけて、立ち上がろうとしたその時。
ふと、後ろの席に座っているはずの彼に、声をかけた。
時田 杏璃
雄大は、少しだけ驚いたような顔をして振り向く。
井阪 雄大
時田 杏璃
時田 杏璃
言葉にすることで、自分の気持ちがはっきり見えてくる。
時田 杏璃
雄大は少しだけ黙った後、目をそらして答えた。
井阪 雄大
時田 杏璃
それだけ。
彼はそれ以上、何も言わなかった。
杏璃はそのまま、教室を出た。
昇降口で靴を履き替えながら、心の中で自分に問いかける。
時田 杏璃
でも、不思議と「やめたい」とは思えなかった。
───仮でもいい。少しでも、近くにいられるなら。
そんな気持ちが、杏璃の中に芽生えはじめていた。