桜花咲き誇る春も過ぎ去り本丸の
上空には雨雲が立ち込める日々が続き
本格的な梅雨が訪れた
審神者
あ〜あ……

審神者
桜の季節も過ぎちゃったし、じめじめするし
やだな〜

こんのすけ
あるじさまっ!
そんな事ぼやいている場合ではありません!

審神者
はいはい……

こんのすけ
もうすぐで長期遠征に向かった第二部隊が帰還します!

審神者
そう、だったね

こんのすけ
稲葉江さんを無事お迎えする為にも手入れ部屋の確保並びに武具の調整を……

審神者
はいはい

審神者
さぁ〜て、お仕事お仕事

重い腰を上げて執務室を出る
こんのすけの言う事は本当だ
長きに渡った遠征から、今日第二部隊が帰ってくる
審神者
稲葉さん……

審神者
心配、しすぎだよね
あの人は強いもん

審神者
やっぱり、初陣の時の
怪我した時のこと
まだ引きずってるなぁ…

重い気持ちで審神者は着々と午前中に課せられた仕事をこなしていく
審神者
あ……あれは!

審神者
予定より随分早いな…

審神者は玄関に向かって駆け出す
玄関は内番や馬当番の休憩がてら
遠征部隊を出迎える為に人だかりが
できていた
審神者
稲葉さん…

稲葉
……

審神者
っ……

審神者
(う…好き……)

しかしその後は素っ気なく玄関の先
へと向かって行ってしまった
審神者
はぁ……

審神者
あの人だかりの中で抱きつく程私もバカじゃないし……

審神者
とりあえず
報告聞かなきゃ
執務室に戻ろ……

乱藤四郎
(残念だったねあるじさん♡)

審神者
うわっ!

乱藤四郎
えへへ〜
ボク期待してたのに〜
皆の前で感動の再会の
抱擁するトコ♡

審神者
する訳ないでしょ!

乱藤四郎
そんな大声出さないでよ〜
ホラ、皆見てるよ?

審神者
うっ……

審神者
私は遠征部隊の報告を聞かなきゃいけないから
またねっ!

乱藤四郎
はいは〜いっ
頑張ってね主っ!

そう言って訝しげな男士達の視線から逃げるように審神者は執務室へ急いだ
稲葉
───報告は以上だ

審神者
お疲れ様です、稲葉さん

審神者
今日は手入れ部屋の準備も整っているのでゆっくり休んでくださいね

稲葉
我は無事だ
手入れなど無用
それより……

審神者
な、なんですか

稲葉
折り入って頼みがある

審神者
はいっ!遠征帰りの労りも審神者の勤め!
何なりと!

稲葉
良くぞ言った
では……

稲葉
我と暫し本丸を離れてはみないか?

審神者
え……

審神者
そ……そそそれはどういう事ですか!?

稲葉
狼狽えるな
邪念など無い

審神者
わ……分かってます!

審神者
それで離れるっていうのは……?

稲葉
つまりは……旅…今で言う旅行、というやつか

審神者
ああ!なるほど!

審神者
で……でも、審神者の私が本丸を離れるなんて…
いいのかな…?

稲葉
やはり無理な願いであったか?

審神者
うーん…ちょっと政府の人と相談しないと何も…

稲葉
何、無理にとは言わぬ

稲葉
だが、貴殿は祖父より審神者の任を受け継がれてからというもの、この本丸を出た事がないと聞いたのでな

審神者
あ……そんな事知ってたんですね

稲葉
遠征前に三日月宗近から聞いたのだ
不憫な娘だから気を使ってやれ、と

審神者
三日月おじいちゃん……
そんなお節介な…

稲葉
しかし驚いたぞ

審神者
何がですか?

稲葉
年端もいかぬ娘である貴殿が祖父から継いだ任を実に良く遂行しているか、ということだ

審神者
そ……そんな、当然ですっ!

稲葉
祖父の代より顕現していた刀剣男士達に対しても気丈に振舞っていたと聞く

審神者
た…確かに…三日月さんや乱ちゃんも元々は私の祖父が顕現した刀剣男士だから…

稲葉
そうか……

審神者
そ…その

審神者
ありがとうございますっ!

審神者
旅行の件、政府の人としっかり話し合ってみます!

稲葉
許諾してくれるか

審神者
私も、是非行きたいです!

審神者
ただ…季節柄、どこいっても雨に当たることになりますが…

稲葉
何、それも一興というものだ

審神者
旅行…楽しみだな……

稲葉
ああ……
