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第一印象は、なんだこいつ、だった。
そいつは、めちゃくちゃおもろい、の太鼓判と共にやってきて、 すべての活動者が喉から手が出るほど欲しがるであろう地位を、何の労もせず手に入れてしまった。
みっともないことに、嫉妬したし、羨んだし、恨んだ。 こいつは楽してていいな、と思ったりもした。
いざ話してみてわかったのは、噂に違わず、本当に面白い奴だったってこと。
それから、こいつなりに存外苦労していて、俺と少し重なる境遇にいるってこと。
礼儀に欠けるところはあるが、割といい奴だってこと。
こいつなりの目標とか、譲れないプライドとか、信念ってやつだとかがあるってこと。
熱く夢を語り合った日もあった。
同じ活動者として、上を目指す同志として、打ち解けるまではあっという間だった。 今や俺にとって、一番親密な活動者は彼と言えるほど。
今もこれからも、良い友人であり仕事仲間であり、研鑽し合う仲間でありたいと思っている。
なのに、どうして。
はとね
はとねの恋
やあみんな、俺の名前ははとね。 最強無敵連合所属の配信者、25歳。活動7年目。 ひょんなことから、友人のその友人としてデビューした新人youtuber、シードに出会い、共に活動していくうちについうっかり惚れてしまった、この世で最も愚かな男さ!
はい、俺の好きな奴はシードでした。 みんな、わかったかな?なーんて。
本当にどうしよう。 俺、25年間女の子だけを追いかけて生きてきたんだけど。人生25年目、青天の霹靂。
しかも酷いのが、男ってだけじゃなくて、万年金欠のヒモで、ギャンブルとニコチン中毒者で、過激思想の持ち主で、実家暮らし。 いや並べ立ててみると本当に酷いな、こいつ。 たとえ俺が女だとしても、さすがにこいつはないだろうと思う。 いくらこいつがイケメンだといえど、客観的に見て絶対に不良物件だ。
本当に、どうして惚れちゃったんだか、と思う。 不良物件すぎるのはもちろん後悔の物種なんだけれども、それ以上に、色々障害が多すぎて、あまりにも報われない恋すぎる。
今までの人生で男同士なんて趣味は全くなかったし、きっとシードもないだろう。 それに、友人として活動仲間として、一本線を引いて付き合っていくべきであって、今の、良い友人としての関係は崩しちゃいけない。
そんなこんなのしがらみや障害で、俺の恋は不時着に終わりそうだった。
最近は、せめてこの恋を捨てられるまで、活動に支障がない程度に距離を離そうかな、なんて考えたりしている。 している、のだが。
シード
はとね
今日突然我が家に訪問してきたシードは、客人とは思えない態度でベッドを占拠していた。
ふてぶてしすぎだろ、こいつ。 ひょっとしてここを自分ちだと思っていらっしゃる?
シード
はとね
シード
はとね
うぜえ〜、だとか、ウケる、だとかを思うと同時に、かっこよかった、という言葉を聞いて、ちょっと気分が良くなる自分がいた。 完全な虚影の言葉に騙されるなんて、恋は盲目にもほどがあると思う。馬鹿になっている。完全に。
はとね
シード
はとね
耐えきれずに突っ込むと、シードはふふふと笑った。
シード
くすくすと笑いながら言葉を撤回するシードを見ると、何だかもう全部何でも良くなってしまった。
どころか、俺の頭は、かわいい!のピンク色で埋め尽くされて、控えめに笑うシードの顔が、壊れたビデオテープのように繰り返し再生されていた。
お茶を持っていってやると、ありがとー、と気の抜けた声で言われ、俺の頭はやっぱり、かわいい!のコールを繰り返していた。
かわいい。頭が沸騰して馬鹿になっているような気がする。 こいつのせいで俺の頭は取り返しのつかないぐらいおかしくなってしまった。
シード
はとね
かわいさに酔いしれていたところに突然会話を投げかけられて、配信者として情けなさすぎるほどのどもりを披露する。本当に情けない。童貞の名は返上できなさそうだ。
シード
はとね
シード
はとね
枕元に置かれた小型プロジェクターを四つん這いになって眺めるシードを、つい見やる。 なんだそのセクシーポーズは。誘惑しているのか。俺には刺激が強いぞ。
シード
はとね
シード
はとね
シード
はとね
シード
シードはご機嫌に鼻歌を歌いながら配信サイトを開いたりしている。 まるで俺が彼氏になって彼女を眺めているような気持ちになってしまって、一層愛らしく思った。 シードは男だから彼女という表現はちょっとおかしいんだけども。
シード
そう言って、いかにもな萌えアニメの作品詳細を突きつけてきた。 シードはどうやら俺のことをアニメオタクだと思っている節があるけど、別にそんなことはない。 この作品は全く知らないから、予告映像の段階では特に何の批評もできそうになかった。
はとね
シード
アニメの導入部が流れ始めた。女子高生らしき女の子が快活に何かを喋っている。 編集用の椅子に座って適当に映像を眺める。 ……本当に全く知らないな、これ。
シード
シードが怪訝そうな顔をして自分の隣を叩いた。
そっ、それは、隣で見たいな♡ってことなのか? 俺に気があるのか、すごい寂しがりやかの、どっちかみたいなムーブじゃないか?それは。 俺、誘惑されてるのか?
ドキドキと高鳴る胸に、そんなわけないだろ、と言い聞かせながら、シードの隣に移動する。 わずかにシトラスの香りがして、香水をつけてきているのだと気付く。 これって俺に会うために気合い入れてきてくれたってことじゃないのか? やっぱり俺のこと好きなんじゃないのか? 広島では友達に合うときでも香水をつける風習なのか? 俺もうわかんないよ!!助けて!!
アニメが進む。序盤は緊張で目が滑って仕方がなかったが、段々と展開を掴めてきた。 主人公が微妙なボケをして、その友人がこれまた微妙なツッコミをする。ストーリーラインの定まらない、うっすいラブコメだった。
これつまんなくね?と言おうとした刹那、肩に軽い衝撃が走る。首にちくちくした感触が当たる。シトラスの香りが鼻に近づいて、小さな息遣いが聞こえた。 見ると、俺の肩にシードの頭が乗っていた。
肩 に シ ー ド の 頭 が 乗 っ て い た ! ? ! ?
シードは、甘えるかのように俺に体重を預け、退屈そうにアニメに視線を向けていた。 横から見るシードは、普段髪に隠れて全貌を見せない目や睫毛に光が集まって、どことなく輝いているように見えて、美しかった。
ひょっとして俺、シードと付き合っている世界線に来てしまったのだろうか?
それともこれは俺の夢で、朝になったら一人寂しくこのベッドで目を覚ますのかも。
シード
恋人のような距離感にドギマギしていると、シードがくすくす笑いだした。
俺の体に耳をくっつけて、はやー、ところころ笑うシードはあまりにもかわいくて、何もかもを許せる気がした。 かわいさで世界征服と流行りの歌は歌っていたけど、きっとお前にならできるだろう。
シード
そう言って、童貞ー、と俺をからかうシードに、ああそうだよ、好きだ、と心のなかで返した。
俺達のどちらかが女だったらこういうとき、好きだよって言えたのに。 付き合っていたら、口がなくなるまで愛を囁やけるのに。 人生は無情だ。
シード
はとね
え!?!?!?
聞いたことのない裏返った声が出た。こいつ、今なんて言った!?
当のシードは、え、あ、そんな驚くん、ごめん、と面食らった顔をしていた。
はとね
シード
冗談、冗談なんだよな!? 心臓に悪い冗談すぎるだろ!!!
質の悪い冗談だとわかってくると、俺の気持ちを弄びやがって、と段々ムカついた気持ちが盛り上がってきて、俺も意趣返ししてやることにした。
はとね
どうだ!お前にツッコめるか、この冗談が!俺と同じように困るがいい!!ハハハ!!!
キモ〜とか返してくるんだろうな、それとも引かれるかな。 どっちにしても、脈がないのが改めて自覚できるからいいんだけど。 ……拒絶される前提なの、なんか悲しくなってきた。
シードから返答がない。 返す言葉もないぐらい引かれたか?俺達の信頼はそんなもんなのか。落ち込むぞ、オイ。 ……って、なんか様子おかしくないか?
シード
頭を振りながら俺を非難するシードを、なんとなく、今ここで逃がしちゃいけないような気がして、肩を掴んだ。
あ、シードの顔、赤い。
はとね
俺がそう言うと、シードはぴく、と少しだけ悲しそうな顔をして、すぐになんでもないような顔をした。
シード
はとね
真面目な顔をしている俺に、シードがビビっている顔をした。 俺は二回深呼吸をして、シードを見つめて、言った。
はとね
瞬間、シードは見たことないぐらい赤い顔をして、口をはくはくとわななかせた。
シード
はとね
シードは口をパクパクさせて、目を泳がせて、少し俯いてから、言った。
シード
それからしばらく沈黙が流れて、俺がシードのかわいさを心の中で噛み締めていると、シードがばっと顔を上げた。
シード
はとね
過去の恐ろしい失態に気づいて慌てて訂正を加えて、婚活番組よろしく右手を差し出すと、シードは堪えきれなくなったように笑って、
シード
と、俺の手を握り返したのだった。