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心にグッとくるものがあった作品でした こんなに平和な日々が続く保証なんてどこにもなくて、大切だと思ってる人が地震じゃなくても事故などで亡くなった時は桃さんのように生きる希望を見失いそうですが支えてくれる仲間や家族がいることで少しずつ前を向くこともできるんだな、と強く痛感しました…🥲 これからも楽しみにしてます‼️
まじで泣けました😭 特に橙さんの言葉にどれだけの重さがあるんだろうって考えたらめっちゃ悲しいし、青さんがどれだけ喧嘩しても最初に助けを求めるのは桃さんなんだなって愛を感じました笑 あとお久しぶりですね!! これからも楽しみにしてます💕
どうして俺は
あの日に限って
喧嘩をしてしまったのだろう
あの日に限って
挨拶さえしなかったのだろう
今日という日が当たり前だと
生きていることが当たり前だと
そう思っていたのだろう
黄
黄
桃
橙
橙
桃
赤
桃
黄
黄
前を向く、か。
桃
桃
桃
青
桃
桃
桃
桃
青
桃
あの日
喧嘩をしたまま
挨拶もせず
顔を見ることもせず
俺は家を出た
仕事をこなしているうちに
自分にも非があると感じ始めて
青の好きなものでも 買って帰ろう、だなんて考えていた
忙しい時期だったから
営業職の俺はその日も外回りをしてた
駅に丁度着いたときくらいだった
道行くあらゆる人のスマホが
大きな不協和音を響かせた
もちろん、俺のスマホも
同じ音を鳴らしていた
“緊急地震速報”
その文字を確認した頃には
俺を囲む高層ビルの数々が ガタガタと揺れだし
子どもの泣き叫ぶ声や
どこからともなく聞こえる悲鳴が
街中を包んだ
誰もが大きな不安に襲われる中
俺は青のことを思い出した
慌ててスマホを取り出し
連絡をする
いつもならすぐに 返事が来るはずなのに
返事が来ないどころか
既読すらつかない
流石に今日のことを 怒ったのかもしれないと
最初のうちは思っていた
でも
いつまで経っても
どれだけ待っても
青から返信が来ることはなかった
駅員からの指示で
近くの避難所までやってきた
どこが震源地なのか
一番揺れたのはどこなのか
そんな情報が あちこちで行き交っていた
そして
聞こえてしまった
俺たちの住んでいる場所が
一番揺れた、という情報
そこでは 多くの建物が倒壊していること
瓦礫だらけで
消防がたどり着けていないことも
全部、聞こえてしまった
デマだろうと思った
そう思いたかった
夜が来て
また朝が来る
そんな当たり前のことが
避難所で生活する間は
すごく特別に思えた
青から返信がなく
心配で心配で、一睡もできない
青は今も ご飯を食べていないかもしれない
そう思うだけで
炊き出しの温かいご飯は
全く喉を通らなかった
数日後
することもなく
ただ天井を見つめていると
眠気に襲われた
俺はそれに抗えず
目を閉じた
閉じてしまった
地震が起きてから 眠れていなかった分と
社会人になってから 取れていなかった睡眠時間をも 取り戻すかのように俺は眠った
目が覚めると真っ暗で
節電のために 誰一人灯をつけない街の静けさが 俺を包んでいた
微かな充電が残った スマホを確認すると
“たすけて”
という4文字が目に入った
送り主は
青だった
急いでメッセージを開くと
それが送られてきていたのは
地震が起きたあの日だった
電波が回復傾向に なってきたのだろうか
数日前のメッセージが今来るなんて
何日も返事ができていなかったなんて
俺はやるせない気持ちと
大きな不安に襲われた
これがもし、 最後のメッセージだったら、と。
俺は数日後に期待をした
また数日前のメッセージが 送られてくるかもしれない
そんな甘い期待を。
そんな期待は一本の電話で 打ち砕かれた
消防からの連絡だった
青が亡くなっていた、と。
夢だと思った
きっと疲れているんだと
悪夢を見ているのだと
そう言い聞かせた
でも
手足の感覚
息の音
鳴り止まない鼓動の全てから
これは現実で
夢などではないことを思い知った
青は瓦礫に押しつぶされて 出られなくなっていたらしい
そんな情報は、後から聞いた話だ
それくらい、ショックだった
愛する人の死を
俺の未熟すぎる心では
受け止めきれるわけがなかった
俺は大切な人を失ってから
生きる気力を失った
何のために生きているのかなんて
普通に生きていても 答えなど見つからないのに
毎日毎日
そんなことばかり考えて
心の傷は増える一方だった
その頃、たまたま兄の紫ーくんが 震災に遭った俺を心配して 電話をかけてくれて
「うちにおいで」って
ただ優しくそう言ってくれた
心も体もボロボロの俺は
少し遠くにある 紫ーくんの家に向かった
「おかえり」
そう声をかけられて
自然と涙が溢れた
あの日
大切な人に言われるはずだった その言葉を
ただひたすら噛み締めた
兄は特に何か 聞いてくることはしなかった
ただただ、当たり前の生活を
共に過ごしてくれた
二週間は何も話せなかった
震災のことは、 思い出したくもなかった
やっと整理をつけようと決めて
俺は兄に全てを話した
あの日、喧嘩をしてしまったこと
挨拶もせず、 家を出てきてしまったこと
そしてそのまま話すことなく
青が亡くなったこと
それを受け入れられない 自分がいること
後悔してもしきれないこと
生きる意味を失ったこと
全てを兄に話した
自分のことを こんなにも話すのは初めてだった
話している間
兄は特にアドバイスすることも
同情もせず
ただ頷くばかりだった
でも
最後に一言だけ
言葉を口にした
「俺は桃くんが大好きだよ」
意味などないような
でも
深い意味を持っているような
そんな言葉に
少しだけ救われた気がした
でも
簡単に自責の念が消えるわけなどなく
あの日のことを後悔する日々は続いた
どうして喧嘩なんてしたのだろう
どうしてすぐに謝らなかったのだろう
どうして挨拶をしなかったのだろう
最後に交わす言葉だと知っていたなら
きっともっと考えて 言葉を紡いだはずなのに
どうして
どうして俺は
今日を当たり前だと思い
人が生きることを当たり前だと
そう勘違いしていたのだろう
今日がある保証など
誰にもないのだと
分かっていたはずなのに
本当は全然
わかってなんかなかった
どれだけ自分を恨んでも
あの日には戻れない
青がかえってくることもない
その現実が
俺の傷んだ心をさらに痛めつけた
黄の言う通り
そろそろ前を向かなければならない
それも分かっている
でも
時々思い出してしまう
4人でいると
青がいれば、って
考えてしまうこともある
兄は本当に支えになってくれていて
感謝だってしている
でも
あの日のことを
どうしても忘れられなくて
ずっとずっと、後悔し続けてるんだ
桃
赤
桃
桃
橙
橙
橙
橙
橙
橙
桃
橙
橙
橙
橙
橙
黄
黄
赤
桃
橙
橙
橙
橙
橙
橙
桃
赤
黄
黄
桃
桃
こんなに素敵な仲間がいることが
当たり前ではないことを
俺は痛いほど知っている
だから、俺は
大切な仲間とともに
当たり前ではない今日を
ゆっくりと歩いていく
大切な君を想って
歩みが止まるその日まで
ずっと。