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コメント
1件
すごく上手ですね!! これ初めて書いたんですか? 私も夢小説書いてるんですけどこんなに上手く書けなくて、これからも頑張ってください!!
名前はランダムにしました
同じ名前の方がいたらすみません
凛sideで進んでいきます
では、本編へどうぞ!
桜の花びらが舞う、四月
近くの公園に、今年も満開に咲いた桜
その桜から舞い落ちる花びらを見つめながら思い出すのは、あなたと出会ったあの日のこと
太輔
凛
太輔
凛
思えばあの日から、私の恋ははじまってたのかもしれない
太輔
偶然にも同じクラスになった、太輔くんにそう言われて、心臓がどきどきしたのを覚えてる
太輔くんはかっこよくて、おもしろくて、すごく優しくて
他の男子とは比べものにならないくらい、特に女子に優しかった
太輔
へへ、ってかわいい笑顔に見とれながら、なんて素敵なご両親なんだろうって思った
思春期で周りの男子が幼稚に見える中、太輔くんはすごく大人に見えた
だから、太輔くんはすごくモテて
二年生とか三年生の先輩まで太輔くんを見に教室まで来てた
私なんか相手にならないくらい、綺麗でかわいい人がたくさんあなたの周りに集まって…
絶対無理だろうな、なんて思いながらも、太輔くんへの想いを消せずに
…密かに恋心を抱いて、毎日太輔くんの笑顔に癒されてたの
太輔
放課後、部活をやってる友達を教室で待ってた私の元にやってきた太輔くん
あまりに突然のことで、自分でもびっくりするくらい心臓が高鳴ったこと今でも覚えてる
太輔
凛
太輔
凛
……
凛
太輔
がさがさと焦ったように机を漁る太輔くんを見つめながら、自然と笑みが零れた
心の中で、部活終わるの待ってて、って言ってくれた友達にすごい感謝した
太輔
凛
太輔
凛
そう言った私の目の前
太輔くんは座り込んで、殺人級な上目遣いで覗き込んだ
太輔
そう呟いた太輔くんに、私は全力で違うよっ、て答えた
そんな私を無邪気な笑顔で笑いながら、「そっか、よかった」って太輔くんは言った
太輔
その上目遣いのまま、ゆっくりと私に視線を合わせて
太輔
嘘でしょ?って
頭の中はてなマークでいっぱいになっちゃった
太輔
凛
太輔
凛
太輔
私達は恋人同士になった
太輔、って呼ぶ度に照れてしまう私を、かわいいと言って優しく頭を撫でてくれた
はじめてのデートで見る私服姿
あなたのかっこよさに釘付けになってる私を見て、かわいい、似合ってる、って手を繋いでくれた
太輔の優しさに日に日に好きが増していった
もともと優しかったあなたが彼女の私に見せる優しさは半端なくて
こんな人が私の彼氏でいいの?ってくらい素敵な人だった
周りからはよく羨ましがられた
太輔
凛
あなたとのキスは毎回どきどき ふわふわして
キスをする時は必ず愛の言葉をくれた
凛とするキスが好き、って
そう言ってくれた
太輔と過ごした高校の三年間
同じ大学へ進学することを約束して、成績の良い太輔に指導してもらってがんばった私
無事に合格し、涙を流して喜ぶ私をその場で抱き締めてくれた
大学生活がはじまって、同じ大学だけど専攻が違う太輔と食堂で待ち合わせしてランチしたり
お互いに新しく出来た友達を紹介しあったり
太輔と同じクラスの女子が太輔にベタベタしていたから、嫉妬して、今まで大きな喧嘩なんてしたことなかった私達が初めてお互いに言い合った
もうダメかも、ってなって、夜中にベッドでわんわん泣いて
そしたら太輔が私に会いにきてくれて、ごめんな、って優しい声で謝ってくれた
太輔だけが悪いわけじゃないのに、
いつもいつも太輔は私に優しくて
私のことをいつも一番に考えてくれて、まるで優しさの塊みたいな人
大学生活も一年を過ぎ、再び春がやってきた
以前に同棲をはじめた親友の話を太輔にしたことがあって、羨ましいな~、って話したりしてた
そしたら数日後にたくさんのアパートやマンションの資料を持った太輔が私の部屋にやって来てこう言った
太輔
たくさんの資料をテーブルに並べながら、大好きな笑顔でそう言った太輔に抱き付いて
二人であーでもないこーでもないって真剣に部屋を探すのが楽しくて仕方がなかった
太輔との同棲生活がはじまって、太輔も私も学校の合間にバイトして
お金も二人で工面したりして、二人での生活が楽しくて仕方なかった
太輔
凛
太輔
太輔の作ってくれるパスタが大好きで
朝も私より早く目が覚めた日は、太輔特製パンケーキを作ってくれて
とびっきりのキスで起こされて、まるでお姫さまになったかのような気分の朝を迎えるのが幸せ
凛
太輔
凛
照れたようにはにかむ太輔が可愛かった。
太輔
そう言いながら私の前髪を掻き分けて、優しくおでこにキスをくれた
感謝の気持ちをいつも大事にする太輔のおかげで、私もいつもその気持ちを大事に出来るようになれた
太輔と過ごす日々の中で、太輔から貰ったものがたくさんあって…
そのひとつひとつが今、日々の生活で大切なものになってる
太輔
同棲開始から約一年
この頃太輔が頻繁に鼻血を出すようになった
太輔
そんなふうにおちゃらける太輔を見て、特に気にしてなかった
太輔
凛
太輔
凛
太輔
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
毎日が幸せで、きっと私は浮かれてたから…
太輔の身体の変化に気付けなかったこと、今でもすごく後悔してる
ある日太輔が、身体が怠い、って辛そうに帰って来た日があった
ちょうど夏に差し掛かる季節の変わり目だから、風邪でも引いたのかな~、なんて思ってた
太輔
そう言って柔らかく微笑んで、私がふーふーしたお粥をうれしそうに口を開けて待ってた
俺これ嫌いなんだよな~、って言った冷えピタ
貼らなきゃダメだよ、って私がちょっと怒って言ったら、嫌そうな顔しつつもちゃんと貼ってくれた
でもあの日から、数日高熱が続いた太輔
さすがに病院行った方がいいかもね、って思い始めた
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
私も
太輔のこと、愛してるよ
太輔
太輔
太輔
それから太輔は、毎週休日の日にどこかへ行きたがった
二人でいろんな所に出かけたし、いろんなこともした
太輔のキラキラとした笑顔で、私も笑顔が絶えなかった
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
一瞬だけ、言葉に詰まった太輔の顔
その表情は少し強張ってた
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
太輔が病院に行ったあの日から三ヶ月程が経っていた
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
本当に欲しいものなんて何もなかった。
毎日が幸せだったから
太輔
凛
そして迎えた21回目の誕生日
二人で食べきれない程の大きさのホールのいちごのケーキにろうそくをつけて
太輔
凛
太輔
照れて俯く私の顔を覗き込むようにして、手を叩きながら歌を歌ってくれた
太輔
凛
ろうそくを吹き消した私を笑顔で見つめて、立ち上がって何か大きなモノを持ってきた太輔
なになにっ!?って興奮する私に、太輔はその包みのリボンを解いてくれた
凛
太輔
包みから顔を出す、おっきくてふわふわのテディベア。
…そう、
今も私の隣にいるこの子
茶色のふわふわの毛に、くりくりのつぶらな瞳。
赤いリボンを首に巻いたおっきなその子を私の目の前に置いた、太輔
太輔
凛
太輔
凛
さっぱり良い名前が浮かんでこなかった私に、太輔がテディベアの後ろからひょっこり出て来てこう言ったの
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
そのあと太輔は、自分の子供に付けたいって思ってた名前だったんだよな、ってポツリと呟いた
なんて答えたらいいかわからなくて、私はなにも言わなかったけれど
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
凛
太輔
あの時あなたがどんな気持ちでそう言っていたのかわからないけれど
ララは今でも私の隣にいる
太輔の言う通り、やっぱり太輔がするようなチューはしてくれないけれど(笑)
それでもララを抱き締めると、不思議と安心出来るの
まるで太輔に抱き締められてるかのように…
太輔は結構無理してたと思う
普通に見た感じじゃわからないけれど、やっぱり一緒に生活してれば気付くことだってある
凛
太輔
凛
太輔
いつも太輔は私の前で"平気だよ"って笑って見せた。
そしてそれが無理して笑ってることに、鈍感な私でもなんとなくわかってきた頃…
太輔
いつものように、おやすみ、って笑って眠りについた夜
いつも通りの夜だった
隣にいる太輔から聞こえる小さな唸り声と、震える背中で目が覚めた
凛
起き上がって声をかけた私に、ビクッと反応させる太輔
凛
太輔
ほら、またその笑顔
太輔
太輔はそう言って笑った
太輔
そう言って目を瞑った
でもね、
その後少しして、また太輔から唸り声が聞こえたこと、私は知ってるよ
ある朝起きると、隣に太輔がいない
またパンケーキ作ってくれてるのかな、って再び目を閉じる
きっともうすぐ起こしにきて、優しいキスをくれるはず…
そう信じて、私は太輔を待っていた
凛
けれども一行に姿を現さない太輔に、私はベッドを降りた
ーガチャ…
誰もいないリビング
静かなキッチン
あれ?って思って目をこすりながらあたりを見回すと、テーブルの上の一枚の紙に目が止まった
凛
彼の字で、一字一字丁寧に書かれたその手紙
最初の三、四行を読んだところで、私は寝室へと走った
凛
太輔の服がしまってあるクローゼットの中はもぬけの殻で
お気に入りのアクセサリーやバッグまで、太輔の私物がゴソッと無くなっていたんだ
凛
パジャマ姿のまま玄関を飛び出して、アパートの周りをがむしゃらに探し回った
多分この時の私、相当、気が動転してたと思う
凛
太輔の名前を呼び続けるパジャマ姿の私を、周りの人は好奇の目で見ていた
やがてアパートに戻った私は、すがるような思いでもう一度彼の手紙を開いた
涙を流し、愛しい人の名前を呼びながら…
この日、世界で一番大切な人が
私の前から姿を消した
凛へ
久しぶりに凛に手紙を書きます
誤字脱字があったらごめんね
突然だけど、俺はこの部屋を出て行きます
理由は、俺が凛のことを幸せにすることが出来なくなったから
凛には、俺じゃない他の誰かと幸せになって欲しい
そう心から思います
自分勝手でごめんな
凛と過ごした5年間は、ずっと俺の宝物だよ
すごくすごく幸せだったよ
ありがとう
太輔
目の前の手紙が涙で霞む
流れてくる涙が、手紙の所々を濡らし、滲んでいく文字
なんで?
どうして?
その言葉しか頭に浮かんでこなくて
優しかった太輔が、突然こんな風にいなくなるなんてこと
そんなの絶対にあるわけ無い、って…
夜になれば、"ごめん、こんなの嘘だよ"って笑って帰ってくるかもしれない
"びっくりしたでしょ?"って頭撫でてくれるかもしれない
今なら許してあげるよ、太輔
こんな手紙書いたこと、もうしないって約束してくれるなら
でも、そんな私の思いとは裏腹に
太輔はその日から家に帰ってくることは無かった
太輔の携帯に何度も電話をかけた
『おかけになった電話番号は、電波の届かないところに…』
でも、何度かけても返ってくる言葉は一緒で
太輔の仲の良かった友達にも連絡したし、家族にも会いにいった
それでも、誰一人として今の太輔の居場所を知る人はいなかった
凛
ララを抱き締め、太輔の名前を呼びながら毎晩枕を濡らした
それほど私にとって太輔がいなくなったことは大きかったんだ
学校もバイトも一週間は休んだと思う
このころの私は抜け殻のようだった
…そして、ある日の朝。
prrrr…prrrr…
太輔の一番の親友だった渉くんからの着信
この頃の私は、もう学校にもちゃんと行っていた
凛
渉
凛
渉
凛
太輔がいなくなって、約一ヶ月。
忘れた方がいいのかな、って
自分の中で整理をつけようとし始めた矢先の事だった
渉
通話
00:30
そのまま家を飛び出した私は、まだ何か言ってる渉くんとの電話も強制終了。
でもこの時は、渉くんが神様に思えたの
すぐにタクシー捕まえて、電話で聞いた病院まで向かって
窓に映る景色を見つめながら急激に心臓がどきどきした
太輔はなんで病院にいるの?
入院してるってこと?
たくさんの疑問が頭の中に浮かんで、理解できなくて苦しんで
太輔のこと整理しようと思ってたけど、やっぱり、って気付かされて
自分の中で太輔の記憶を無くすことなんて絶対無理なんだ、ってことがわかったの
ー 病院 ー
凛
辿り着いたその病院の受付で息を切らす私を見て、受付の人がびっくりしてた
家族でもない私が来たこと、確認してみます、って一人取り残されて
その時間でさえもそわそわして、落ち着かなかった
太輔 母
やがて、廊下の向こうの方から聞こえた私を呼ぶ声
咄嗟に顔を上げると私の目に映る、愛しい人の面影を持つ人
凛
ハンカチで口元を覆う、太輔の母親の姿
勢いよく立ち上がって駆け寄る私の目からは、涙が溢れて流れ落ちていた
太輔 母
太輔のお母さんは何度も私に頭を下げた
知ってたんだ、ってショックだったけど、それよりもはやく太輔に会いたかったんだ
凛
そう呟く私を見つめるお母さんの顔が、今でも忘れられない
よく見ると、泣きはらしたような腫れぼったい赤い目
いつも綺麗だった太輔のお母さんは、化粧すらもして無かったんだ
太輔 母
太輔 母
…太輔…、
太輔 母
太輔 母
時間が止まったようだった
太輔が消えた真実を知った
テレビの中で何度も目にした
病院のベッドの上で、抗がん剤とか、放射線とか、辛そうに治療を受ける白血病患者の姿
実際どんな症状なのかとか、詳しい治療法とか何も知らなかった
凛
太輔が白血病?
意味がわからなかった
だって私といた時の太輔は元気だったじゃない、って
目の前で涙を流す太輔のお母さんに怒りを覚えるほど、私は混乱していたんだと思う
私はきっと、現実から目を逸らそうとしていたんだ
太輔 母
そう言って歩き出すお母さんを追いかけることが出来なくて
さっきまであんなに会いたかった、大好きな太輔…
太輔に会うことが怖くなってたんだ
太輔 母
俯く私の元に戻ってきたお母さんは、私の手を握ってこう言った
太輔 母
太輔の笑顔を見てるようだった
ふいに見せたお母さんの笑顔は、私の強張った表情を溶かし、心まで暖かくしたんだ
太輔 母
案内されたその部屋
ガラスの向こうに見える、白いベッドと白い布団
繋がる点滴の管と、透明のカーテンのようなもの
その向こうに見えたのは、少し痩せた太輔の横たわる姿だった
凛
思わず息を飲んだのを覚えてる
やっと太輔に会えたうれしさと、驚き、困惑
そして、
頭の中にチラついた"死"という言葉
太輔 母
声の出ない私の隣で太輔を呼ぶお母さん
呼んでも太輔は、ただ苦しそうな表情でベッドに横になっていて
私は、ただただ涙を流してた
凛
やっと、
やっと呼ぶことができた、あなたの名前
凛
その声に反応するかのように
あなたは、真っ直ぐにこちらを見たんだ
そして…
数秒の間、じっと私を見つめた後
太輔は涙を流した
そして…
大輔は微笑んだ
私が太輔に会った、あの日から、なんだか調子がいいのよ、ってお母さんが嬉しそうに笑ってた
ガラス越しに私を見つめる太輔の笑顔
今でも目を閉じると、瞼の裏に浮かんでくる
ララを抱きしめながら、今日も瞼を閉じる
あの日から毎日のように太輔の元へ通った
何度も強力な抗がん剤を投与される太輔は、それに伴う、点滴の管がたくさん腕に繋がってた
それでも私の姿を発見する度に見せてくれる笑顔は、変わらない太輔の優しい笑顔だった
凛
ある日お母さんがこう言った
太輔のいる無菌室に入ることができるかもしれない、と
太輔 母
うれしかった
太輔の近くに行けること
それに、太輔が回復に向かってること
一週間後が待ち遠しかった
その日私は病院の帰りに手芸屋さんに立ち寄った
一週間後に太輔に直接渡したくて毛糸を買った
手芸が苦手な私が挑戦するのは、髪の無くなった太輔の頭にかぶせるニット帽
凛
凛
毎日寝る間も惜しんで編んだ、少し不恰好なニット帽
病院
そして一週間が経った
マスクに白衣を着て、無菌室へと向かった
まるで付き合いはじめた当初のように心臓はどきどきと高鳴って、ものすごく緊張した
ーコンコン
失礼します、って扉を開けた時
その先に見えたあなたの姿に……
凛
私の目からは、ぼろぼろと涙が溢れた
太輔
太輔のその目が
声が
指先が…
私を真っ直ぐに捉えて、その愛おしさに胸がいっぱいになった
太輔
凛
太輔
凛
言葉を交わすことさえもなんだか緊張してしまって、もじもじとする私に太輔はクスクス笑ってた
太輔
凛
太輔
それでももじもじと動かない私に、太輔は優しく微笑んで
太輔
ゆっくりと歩み寄る私に伸ばされた、太輔の細い腕
その手に触れた瞬間、私は太輔に抱き締められた
あったかくて、大好きな太輔の匂いに…
私は再び涙を流した
病室
太輔
ごめん、ほんとにごめん、って、太輔は何度も私に言った
謝ることなんてないのに
やっぱり太輔は、優しさの塊のような人
太輔
私の首元に顔を埋めながら呟く太輔に、私はただただ頷いていた
久しぶりに抱き締めたその身体は痩せていて、心臓がギュ、っと締め付けられるように痛い
太輔
消えてしまいそうな太輔のその言葉を聞いたとき、首元に冷たい何かが触れて
太輔が静かに泣いていた
凛
ゆっくりと顔を上げた太輔は、
私の顔を見つめて、マジで?って小さな声で呟いて
太輔
そう言っておちゃらける太輔の笑顔を見て私は思ったんだ
きっと、太輔は治るんだ、って
こんなに優しくて素敵な彼を、神様はまだ連れてくことはしない、って
凛
太輔
凛
途端にわたわたしはじめる私を、太輔は楽しそうに笑った
太輔は私に言ったの
俺、絶対治すから、って
太輔は治るよ
大丈夫だよ
そう言った私の頭を、太輔は優しく撫でてくれた
病室
ニット帽をかぶった太輔が、うれしそうに微笑む
どんなに下手で不恰好なものでも、太輔がかぶるとこんなにも素敵
太輔
凛
白い歯をみせて笑う太輔は、以前の爽やかさが戻ったようだった
それから太輔は無事に無菌室を出て、普通の病室へ移動することになって
ベッドの上で嬉しそうに笑いながら、私に甘えることが増えた
太輔
太輔
太輔
太輔がこんなに甘えるのを見るのは初めてで、実は嬉しかった
太輔の容体は医師も驚くほど順調に回復し、髪も少しずつ生えてきた頃
太輔
その日太輔の部屋の扉を開けた瞬間、キラッキラの笑顔と共にそう叫んだ太輔
あの時の太輔のうれしそうな笑顔、今でも覚えてる
太輔
すげぇ嬉しい、って笑いながら 私の身体を引き寄せて抱き締めてくれた
太輔がうれしいと、私も嬉しくて
あの日はずっと二人で騒いで、看護師さんに怒られた
太輔に与えられた三日間の外出
太輔が行きたいと言ったのは、私達二人が住んでいたあのアパートだった
自分から出てったくせに、って申し訳なさそうに言う太輔に私は言った
凛
ありがとう、って微笑んだ太輔は、私の頬にキスをくれて
照れて真っ赤になる私を笑いながら、楽しみだな、って嬉しそうな顔を見せた
…そして、外出初日
太輔
すげぇ久しぶりだな、ってきょろきょろ部屋を見渡した
お昼は二人で作ったりして、まったり過ごして
夕飯はよく二人で行ってたご飯屋さんに行った
太輔
凛
太輔
凛
太輔
太輔
そう言って真っ直ぐに私を見つめる太輔が愛おしい
太輔
眉を八の字に下げた太輔は、さみしさを隠し切れない笑顔を見せて私にそう聞いた
凛
ちょっとだけ怒ったようにそう言い返せば、ふふっ、て笑って
変なこと聞いてごめんな、ってまたすぐに私に謝った
二日目は、二人で初デートをした水族館に行った
張り切って作ったお弁当は、二人では食べ切れない程の量で
二人でたくさん写真を撮った
太輔
太輔の提案で、水族館の帰りに寄った高校
この校舎で私達は出会ったんだね、って
職員室に行って先生方に挨拶した後
二人で手を繋いでゆっくり歩いて回った
太輔
凛
太輔
凛
あの時に戻れたらなぁ、って 小さな声で呟いた太輔
太輔
そう言って太輔は、以前キスをしたその場所で再び私にキスをくれた
手を繋いで家に帰って、ベッドで横になって二人でたわいもない話をした
なぜか話は尽きることがなくて、眠るのも忘れて笑いあった
迎えた最後の三日目
夜中まで語り明かした私達が目覚めたのはお昼近くだった
凛
私の言葉に笑顔で頷いた太輔
二人でご飯作ったり、昔のアルバム引っ張り出したり
あの時はこうだった、とか
この時はあんな風だった、とか
やっぱり話が尽きなかった
凛
夜には病院へ戻らなきゃいけない太輔に聞いた私
太輔は少し考え込んで、真っ直ぐ私を見つめて
高校生のころ、私のハートを鷲掴みにしたあの殺人級上目遣いでこう言った
太輔
途端に熱くなる私の顔
そんな私を悪戯な顔で見つめながら、私の弱い耳元をロックオン
凛
太輔
凛
太輔
凛
私達はお互いの愛を確かめるように愛し合った
何度も優しく私に触れて、何度も愛おしそうに私の名前を呼んだ太輔
太輔
太輔が囁く愛の言葉に目の奥が熱くなった
泣かないように我慢してた
我慢、してたのに…
太輔
凛
太輔
堪え切れず、涙が溢れた
太輔
凛
数ヶ月後
太輔 母
私はバイトが終わった時間が遅くて、病院に行けなかった
バイト終わりに見た携帯に入ってた、お母さんからの着信
掛け直した瞬間聞こえたのは、お母さんが泣きながら私を呼ぶ声だった
太輔 母
嘘だ、
だってあんなに調子良かったじゃない
太輔、笑ってたよね
太輔 母
そこまで言ってお母さんは口を噤んだ
聞きたく無かった、そんな話
だって太輔は言ったの
絶対治すから、って
治ったら、結婚しよう、って…
病院
再びガラス越しになった太輔
凛
そっと名前を呼べば、聞こえないそれに反応するかのようにこちらを見る太輔
太輔 母
太輔の容体は相変わらずで、それに伴い私の笑顔も日に日に消えていた
太輔 母
俯いて、必死で涙を堪えてるのがわかった
太輔 母
その先の言葉が聞きたく無くて視線を逸らす
けれどお母さんは、辞めることなく話を続けた
太輔 母
ありえない…、そんな…
あと三ヶ月しか生きれないの?
太輔が……?
太輔 母
呆然と立ち竦む私にそう言いながら
涙で真っ赤に潤んだ目で、真っ直ぐに私を見つめてこう言った
太輔 母
深々と頭を下げたお母さんの足元に、ポタポタと涙が落ちた
一人帰った部屋の片隅で泣いた
どう考えたって、太輔の死を受け入れられない
太輔がこの世界からいなくなることが考えられない
太輔のいない世界って何?
凛
大切な人を失う恐怖を知った
そして、太輔は長かった闘病生活が終わり
私達の家に帰って来た
太輔は自分の病状を知っておきながらも、いつも笑顔を絶やさなかった
太輔
励まされてたのは、私の方だった
あなたのその太陽のような笑顔に、私はどれだけ救われたんだろう
こんなんじゃいけない、って
そう思わせてくれたのも、太輔だった
太輔
凛
太輔
家に帰宅して一カ月
なんだかよくわからないことを言った太輔の顔を見つめた
太輔
凛
だって死ぬってことはいなくなるってことでしょ?
太輔
私の胸を指差した太輔が、柔らかく微笑んで
なんて顔してんだよ、って眉を八の字にして私の頭を優しく撫でた
太輔
いつも太輔はそうやって、私を絶妙なタイミングで呼んで
太輔の腕に飛び込む私をぎゅ、っと抱き締めてくれた
太輔
そう言って、優しく頭を撫でながら抱き締めてくれた
……そして、
アパートに帰宅し、3ヶ月と5日目の夜
容体が急変した太輔は、救急車で運ばれた
握り締めた私の手を離さないまま…
病院
病院に着いた太輔はすぐに処置室に運ばれた
やだ…
やだよ太輔っ……
凛
医者
先生の言葉に、お母さんやお父さんが立ち上がった
太輔 母
笑って?って 太輔と同じ優しい顔を見せてくれたお母さん
涙を拭って足を踏み込んだ部屋の先には、ベッドに横になった太輔
苦しそうに肩で息をしながら、天井を見つめる太輔の目は虚ろで
凛
それでも、私が名前を呼んだ瞬間…
太輔はこっちに目を向けてくれた
ゆっくりと上げられた太輔の手は、私の頬に触れて
指先で、そっと涙を拭ってくれた
太輔
小さくて…消えてしまいそうな太輔の声
私の頬を力無く撫でる太輔に、止まらない涙
太輔
太輔
ぶわって涙が溢れたお母さん
涙を堪えるお父さん
太輔
再び私の名前を呼んだ太輔
涙で歪む視界を必死で拭いながら、ん?、ってそっと顔を寄せた
太輔
うん、うん、って もう、ただ頷くことしか出来ない
太輔
" 愛 し て る "
声にならない声だった、太輔の最後の言葉
ピーーーーーーーーーー……
部屋中に響き渡った機械的な電子音
凛
眠るように息を引き取った太輔の目から、一筋の涙が流れ落ちた
あれから、自分がどうやって帰ったのか覚えてない
お通夜もお葬式も記憶が曖昧で、ただ廃人のような私をみんなが支えてくれたことは覚えてる
太輔がいない世界は色がなくて… 目に映る景色すべてがモノクロに見える
家に帰ると、微かに残る太輔の香りが再び涙を誘って
枯れない涙が溢れてくる
見るに見かねた私の母親が、実家に帰ってくるよう私に言ってくれたけど…
まだ、太輔との思い出が残るこの部屋から離れたく無かった
凛 母
私に喝を入れてくれた母親
そうだよね、
いつもそばにいるよ、って言ってたもんね
きっとこんな私を見たら、太輔は困っちゃうよね
天国ってどんなところなのかな
もう辛い治療だって無いし、身体も自由だもんね
きっと幸せだよね
笑ってるよね
私も笑って過ごせるように、空から見守っててね
太輔の分まで、私は生きます
幸せだよ、って
太輔に胸を張って言えるように
太輔がこの世からいなくなって四日後
お葬式を終えた私が一人アパートに帰った
凛
これはララ専用な、って太輔指定の椅子にちょこんと座ったララを抱き寄せた時
ーガサッ
凛
ララの、ちょうど首に巻かれたリボンの辺り
ガサガサってちょっと硬い感触に気が付いた
凛
リボンの裏を覗いたら見えた、白い紙のようなもの
ララのリボンに巻かれるように、小さく細長く折られていた
凜へ
この手紙を見つけたころ、きっと俺はこの世にはいないんだろうな
だって凜は、俺がいるときは俺にくっついてばっかだし(笑)
ララに抱きつく時は、きっとさみしい時だよな?
凜、ごめんな
俺がいなくて、きっと寂しくて泣いてるでしょ?
今までは俺が涙を拭ってやれたけど、それももう出来ないから
凜には強くなって欲しいって思う
俺さ、
病気になっちゃって、
自分で思ってたよりすげぇはやく死んじゃうみたいだし、
自分が思い描いてた未来とか、夢とか、
全然出来なかった人生だったけど
それでも俺は、生まれて来てよかったって心から思えるんだ
凜に出逢えたことが、俺にとって人生で一番の幸せでした
凛、
俺に出会ってくれてありがとう
俺を好きになってくれてありがとう
幸せをありがとう
忘れないで、俺はいつでも凜のそばにいるよ
Love you forever.
太輔
?
あれから時は過ぎて、五年の月日が流れた
私を呼ぶ愛しい声に、空を見上げてた私は視線を移す
?
凛
?
凛
らら
凛
らら
凛
らら
太輔は私に、かけがえのない宝物を残していってくれました
らら
凛
らら
大好きな太輔の面影を残す
今年で四歳になる、元気一杯の女の子
今日もぬいぐるみのララを抱いて眠るらら
きっとららは、このぬいぐるみのララに太輔の温もりを感じているんじゃないかな
だって、安心した寝顔をしてるから
太輔という生きる希望を失った私に舞い降りた、天使
これからは、この子のために精一杯生きてくよ
そっちであなたに会うことが出来た時、幸せだったよ、って胸を張って言えるように
だからね、太輔
もう少しだけ、そっちで待っててね
必ず会いに行くから
fin.