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やる気が出ない。 憂鬱に空を眺めては、 またアルコールを啜った。
俺はIf。 仕事の合間に会社を出て、 あと10分…と何度も休憩を長引かせている、 ただの社会人だ。
近くの公園の時計の針は 6時半を指している。
夕暮れ時…いわゆる 「逢魔が時」 なんて時間帯だろうか。
ふと見上げた薄橙色の空は、 まるで俺の心の中のようだ。
仕事をやらなくては、とは 分かっているんだが… やる気が出ず、空を眺めている。
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空を見上げた拍子に、 空よりもずっと暗い森が 視界に入った。
…やることも特にないし、 上司は寝ている。
妙に惹き付けられるその美しさや薄暗さ……。 恐怖感までもが、 俺を呼び寄せているように感じた。
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軽く肩を押して疲れを和らげ、 財布とスマホをカバンに入れて…
俺はその森へ向かった。
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会社の窓から見えたとはいえ、 森なのだから多少は歩く。
しかし、俺は引き返そうとは考えなかった。
この森に入らなくてはいけない気がしたから。
この森と俺に、何か関係があるのだろうか?
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再び足を動かす。
急な坂や険しい道がある訳では無いが、 もう歩いて1時間ほど経つのに、 全く意味がなさそうだ。
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「帰らないで」
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少し高い男の子の声。 10歳くらいだろうか。
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「ん……違うな」
「俺は悠佑。 ねぇ…お兄ちゃん。」
「お兄ちゃんはどうしてここに来たの?」
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「…へぇ。」
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「…そうだね。子供。」
「まだ、1000年しか生きてないよ」
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呆れたように俺が話す。
数十秒経って、悠佑が 話し始めた。
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数秒待っても返事は来ない。
何かあったのだろうか。
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意味が分からない。
この森……? 妖精…?はぁ?
そんな意味の分からないことを言う”悠佑”を、 少し可愛いと思ってしまった自分がいる。
…20代とはいえ、俺は社会人だ。
子供なんかに”可愛い”なんて…… 今の時代、言えば周りに白い目で見られる。
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予想外な発言に驚く。
何秒かして出てきたのは…
薄い胡桃色の愛らしい髪は 後ろで束ねられていて、 ほんのり薄く赤に染まった頬は愛おしいほどに可愛く、 本物の妖精のようだ。
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かっこいいかどうかは置いといて、 確かにこの子供は森の妖精…なのかもしれない。
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この質問を待ってたかのように、 悠佑はにっ、と笑う。
可愛い。
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「一緒に遊びたいから……かな。」
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遊びたい……? 人の姿になっているとはいえ、彼は森だ。
どう遊べばいいのか……
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かくれんぼなんて何年ぶりだろうか…
そう思いながら承諾する。
その日は暗くなるまで遊んだ。
何日も何日も、俺らは一緒に遊んだ。
時にはしゃいだり、話したり、
悠佑のためなら仕事だって頑張れた。
この前無理をして倒れた時は…
雨の降る中、自分は傘をささずに、 俺にそっと傘をさしてくれて…
「いきなり倒れないでよ…心配する……から…」
って、泣いていた。
その後はものすごく叱られた。 …見た目はショタなのに………
あ、そういや昨日は。
珍しく大人しくって、一緒にたくさん話したんだ。
雨のこととか、夏の話とか、色々。
それでもかくれんぼはお気に入りみたいで、 2週間前までは毎日のようにしていた。
ところが最近、一緒に話していたいから…と言い始め、 かくれんぼをしなくなった。
悠佑と一緒にいれるだけで嬉しいし、楽しいんだけど…
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首を傾げて、こちらを覗き込んでくる。
目はきらきら輝いていて、 頬は薄い赤で染まっている。
まるで白雪姫のようだ。
あぁ、でも、姫じゃなくって………王子………? …あんまりしっくりこないな…
…天使…?
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腕時計を見ると、 もう17時を過ぎていた。
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そこには、鮮やかな緑色の四葉のペンダント。
……が、割れて、1部欠けていた。
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謝って欲しい訳じゃないんだけどな……
なんだか少し寒気がして、 上を見上げると……
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天気予報では晴れだったのに…
無言で見つめてくる悠佑の肩に雫が落ちる。
頬を濡らし、少し震えている悠佑。
なんて言葉をかければ、いつものように笑ってくれるだろうか。
そんな事を思いながら、ずっと彼を眺めている。
……もういっそのこと、 悠佑と出会わない方が 悲しむことも、切なくなることも無かったかもしれない。
楽しかったのに、幸せだったのに。
幸せに過ごしてしまうと、 相手がいなくなるかもしれない時に 悲しくなってしまう。
彼はSCPなのだろう。 いなくなることは分かっていた。 悲しむこともなかったはずなのに。
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ベンチに置かれた辞書らしき物を取り出し、 それを読み出す彼。
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まるで守護霊のように見守り、
視界から消える。
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悠佑の身体が少しずつ透明になっていく。
……離したくない。
涙が溢れる。たった半年の仲なのに、 毎日が幸せすぎたから……
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もうほとんど透明になっている。
彼は、涙を一滴も流さなかった。
「見つけてね。俺のこと。」
……
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辺りは晴れてきていたのに、 俺の心はしばらく晴れなかった。
でも、絶対に……
必ず… 見つけるから。
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切ないけど尊い...