久方の雨は 春のよく晴れた日だった
また、どこかの狐が 嫁に入ったらしかった
急いでコンビニで購入した ビニール傘越しに
秘密基地みたいに崖に囲まれた 桜の大樹を見に行く
僕
桃色の蕾が膨らんでいた
桜も咲き始めて間もない頃
僕は大きな桜の木の下で 本を読んでいた
はらり
音が聞こえそうなほど目の前で 桜の花びらが散った
瞬間、瞬きをする
僕
一瞬、目を疑ったのだ
白いワンピース 薄桃のカーディガン
光に当たると金色になりそうな 色素の薄い茶髪のセミロング
そよ風の吹き方のように 柔らかく笑った女の人
まるで舞い降りたみたいに 目の前に、急に、
君
びっくりしない訳がない
君
鈴を転がしたような声が 優しく耳に届く
僕
君
君
青生
話しながら 彼女は僕の隣に座った
青生
また、ふわっと青生さん? が笑った
どことなく悲しそうで それでいて綺麗だと思った
青生
僕
僕
僕
青生
青生
言いながら、首を45°こてん。
僕
青生
一輪、隣で笑顔の花が咲いた
青生
僕
青生
青生
青生
青生
僕
青生
力が抜けたみたいな顔
心を掴まれた気がしたように 胸がキュッと鳴った
青生
僕
青生
こくっと頷くと ぱっと顔が明るくなる
青生
僕
青生
僕
青生
僕
苦笑いで返すと 口を膨らませて対抗してくる
青生
僕
青生
僕
青生
パチパチ、と 手を叩き始めた彼女
青生
青生
ニッ、と笑ってみせた彼女は どこか自慢気だった
僕
青生
僕
青生
僕
僕
え、そうだっけ? なんておどけるように返された
彼女はきっと、映画が好きだ
一週間後
また僕はいつもの場所で 読書をしていた
青生
僕
青生
春風が頬を撫でていった
貴女の笑い方が力ない気がした
僕
青生
僕
青生
僕
先週と同じように 隣に座った彼女
青生
僕
言われてみれば確かに、と頷く
先週より桜の隙間から見える空が広い気がした
青生
僕
青生
僕
名残惜しいような
切ないような
青生
青生
青生
僕
少し潤んだ瞳で告げられたら 何も言えなくなった
この間にもはらはらと 絶え間なく落ちる桜
僕
ようやく絞り出した一言は 酷くかすれていた
青生
風に乗せられたように 彼女は薄く笑った
僕
また、本の話をしよう
和歌だけじゃなくて、俳句とか 小説とか漫画とか
映画も見たい その帰りに図書館でも寄ろう
毎年春にはここに来て お花見でもしようよ
僕
願うように彼女を見るも 優しく笑って返されるだけだ
青生
青生
強く頷く
そんなの、いつだって読むから
2日後
昨日は思ったよりも 土砂降りになって
外に出るのも億劫だったから
桜の下に寄ってみることにした
茜射す日の光の中 大樹を見上げた
花一つ残さずに 雨は桜を攫ったようだった
僕
僕
日の光ものどかに射す春の日に どうして桜の花は落ち着かなげに散るのだろうか
若い葉が顔を出す大樹は
数日前見ていたものとは 違うものみたいだった
僕
コメント
6件
好きです… 彼女は桜だったのかなぁとか… 色々考えちゃいます… 好きです…
すごい…切ない… うるっときました( ᵒ̴̶̷̥́ㅂᵒ̴̶̷̣̥̀ )