乱歩
乱歩
風呂場の白いタイルを鮮やかに色づけるように赤い花が沢山咲いた
乱歩
剃刀を思いっきり、引く
ぱっくり…切れなかった
乱歩
赤い花の上に透明な花も咲いた
福沢
古びた医務室に福沢の声が響く
乱歩は背中をびくっとはねさせ顔を隠すように布団を深く被った
それを見た太宰と与謝野は浅くため息を一つついた。
与謝野
与謝野は福沢を宥めるように声をかけたが依然福沢の怒りは収まらない
何があったのか。それは遡ること一時間半前
乱歩
太宰は乱歩のご指示に従い給湯室の冷蔵庫からラムネを一本、スナック菓子を両手に抱えて戻ってきた
乱歩
太宰
乱歩
太宰
乱歩の皮肉を華麗に返し、おまけに乱歩を褒め返すほど話のうまい太宰。
そう判っていても褒められたもので満足した乱歩は適当にはいは〜いと答えてラムネを開ける
ビー玉を下に落とすために乱歩はラムネに付属している器具でぐっと押し込む
思ったよりも力がいるのか、立ち上がって力をかける
からんっ
硝子が硝子に当たり、爽やかなようで少し不快感のある音を奏でると次は中身が噴水の如く溢れ出す
乱歩
此の儘流れ出しては飲む量が減ってしまう、乱歩は右手の手のひらで丸い飲み口を抑えた。
手のひらでしゅわしゅわと弾ける炭酸。次第に落ち着いてきた
乱歩はそっと手を離し、机に視線を移した。
机まで溢れたラムネはなぜか「いちご味」に変わっている
否、もしかしたら見た目だけかも知れない。しかし、白い机にくすんだ赤茶色のラムネが一面に広がっている
それに気づいた太宰は乱歩を無理やり医務室の中に連れ込んだ
その一時間半後が今現在
云うならば修羅場
福沢は何度も乱歩になぜそんな事をしたのか問いただすが乱歩はだんまり。
因みにラムネが赤茶色のになったのご察しのとおりは血が溶けてラムネと混ざったから。
要するに自傷行為。乱歩が行っていたのはリストカットだ
福沢
乱歩
この張り合いを何度も何度も繰り返すうちに埒が明かないと、与謝野と太宰は一旦福沢を医務室から追い出した
乱歩
与謝野
福沢が退室してからもだんまりだった乱歩が口を開いた
乱歩
与謝野は右手に持っていたティーカップを優しく机におろし、わかったと一言。
そのまま医務室を後にした
太宰
乱歩
太宰
太宰はパイプ椅子に腰掛け、長いまつげを伏せてダージリンを啜った
カップからたつ細く現れては消える湯気は乱歩には妙に儚く見えた
乱歩
そう云われると太宰は頭にはてなを浮かべる
太宰
乱歩
乱歩はベットからゆっくりと体を起こした
乱歩
乱歩
太宰
ことっ。 陶器が机に置かれる重い音がその場の空気を仕切る
乱歩
太宰
乱歩
太宰
太宰が聞き返す。すると乱歩はすうっと息をすい躊躇いつつも声を出した
乱歩
乱歩
乱歩
乱歩の声が少し、震えた
乱歩
乱歩
乱歩
乱歩のオリーブグリーンの瞳を更に潤すように涙が滲む
乱歩
乱歩
乱歩
乱歩
普段は子供っぽく、26歳児なんて呼ばれる探偵社のエースが太宰は今だけは彼が年齢相応に見えた
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰がポケットから携帯を取り出す
ぱっと画面が明るくなると 「チビ」から通知が入っていた
太宰はパイプ椅子から立ち上がり医務室のドアまで歩く
太宰
太宰はそう云い医務室を後にした。
扉を開けた時太宰が人差し指を口元に当てる仕草を与謝野にしている仕草が見えた乱歩はほっと溜息をついた。
そして、白い布団をぎゅっと握った。
社長に判って欲しい。本当は理解者は社長であって欲しい。
だが、其れを云い出そうとすると喉がきゅうっと閉じて声が出なかった。
でも今は正直理解して欲しいとはあまり思わない
今はただ、優しく抱きしめてもらいキスをして欲しいと思う
布団を握った手の甲にぽとぽとと雫が落ちる
その雫、一粒一粒に乱歩の顔が歪んで写ってなんだが不細工だった。
乱歩は涙を拭うと扉がかちゃっと音を立てて開いた。
福沢
乱歩
細々とした声が喉から出てくる
乱歩の目尻は遠目からでも赤くなっているのが判った。
福沢
図星を突かれた乱歩は目尻だけではなく耳まで赤くして
乱歩
と枕を投げて福沢の顔にクリーンヒット
乱歩
社長、ではない呼び方に福沢の体がぴくっと反応した
乱歩
歪んで不格好な笑顔を浮かべた乱歩を福沢は強く抱擁する
福沢の前ではもう泣くまいと決めた乱歩も此の時ばかりは福沢の襟を濡らした
乱歩
乱歩が何か云おうとした時、一瞬にして唇を奪われた。
そっと福沢が唇を離すと乱歩は福沢を抱きしめて掴んで離そうとしなかった。
まだ此の儘で僕を慰めてくれと云わんばかりに
乱歩
乱歩の瞳から亦、真珠が溢れる
そう云う乱歩に何も云わず福沢は優しく頭を撫でた。
其れは言葉よりも沢山なことをまだ幼い乱歩に教えたのであった。
数分後、与謝野が再び医務室に戻ると乱歩は福沢の懐ですーすーと寝息を立てて眠っていた。
左の袖からちらっと顔を覗かせる包帯は少し、痛々しくも見えたがそれ以上に乱歩は幸せそうにしていたである
ぷうぴす
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