僕
母は言った。前を向けと
僕
父は言った。強く生きろと
僕
僕は泣いた。明日が怖いと
晴
幼かった僕は、何も知らなかった
晴
真っ白な画用紙みたいに、これから様々な色で染められるなんて、思いもしなかったから
晴
母の言葉も、父の言葉も理解できなかった
晴
考えても分からなくて、泣いた。そりゃそうだ。僕はあの時五歳だったから。
晴
言葉の重みが、思いが、分からなかった
父と母と交わした最後の会話が
僕
前を向けって、どうやって?
僕
強く生きるってなに?
僕
どうしたらいいの?
母
辛いことがあっても、下を向かずにいなさい。
父
ネガティブに物事を考えるんじゃなく、ポジティブに考えろ
僕
下を…向かずに?
僕
ポジティブ…?
いずれ、分かるときが来る
僕
いずれ…?いずれっていつ?
母
そのうちってことよ
僕
そのうち?
母
そう。そのうち
これだ
晴
この三日後、父と母は亡くなった
晴
そして今、僕は泣いている
晴
父と母は、痛みを知っていた
晴
胸を抉るような、痛みを…
晴
言葉は、針のように尖り人を傷つける
晴
時に言葉は、人を優しく包み込む
晴
そんな、「力」がある
晴
その力に負けた僕は心が死んでいた
晴
「弱かった」
晴
その力に負けた僕は下を向いて歩いていた
晴
「前を向けなくなった」
晴
だから、僕が「力」に負けたときの為に父と母は教えてくれたんだ
晴
僕が力に負ける前に
晴
虐めの対象になると
晴
自殺を考える人が後を絶たない
晴
だから、僕は教えられたようにポジティブに考えることにした
晴
虐められてる?違う
晴
みんな僕に構ってるだけ
晴
そう考えただけで、心が軽くなった
晴
人と価値観が違ってもいい、いや
晴
違う方がいい
晴
いずれ、君にも分かるときが来る