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第1話 - あ

2023年06月19日

#恋愛

結城真矢

ショウジ

こんにちは、お義父さん

ショウジ

今度ミキとの結婚について腰を据えてお話させていただきたいのですが

ショウジ

いつ頃お時間いただけますでしょうか？

トモハル

そんな時間はない

トモハル

お前とミキとの結婚は認めないと何でも言ってるだろ！

トモハル

お前のようなどこの馬の骨ともわからん奴に

トモハル

大事な一人娘であるミキをやれるか！

ショウジ

お義父さん、ミキの気持ちも考えてあげてください

ショウジ

僕たちは愛し合っています

ショウジ

僕も彼女も、お互いにこの人と結婚したいと思っているんです

ショウジ

僕の事を認められないと仰るのであれば、認めていただけるよう努力します

ショウジ

だからお願いします、話だけでも聞いてください

トモハル

しつこい！そんな時間はない！

ショウジ

分かりました、今日のところは諦めます

ショウジ

また連絡させていただきます

～数週間後～

トモハル

おい、お前

ショウジ

お義父さんこんにちは

トモハル

ミキから聞いたが、お前A社という会社で働いているらしいな

ショウジ

はい、そうです

トモハル

本当なんだな？

トモハル

それじゃあ猶更お前なんぞにミキはやれんな！

ショウジ

え？どういうことですか？

トモハル

A社なんて、聞いたこともない会社だぞ？

トモハル

そんなわけの分からない会社に勤めている男にミキをやれるか！

トモハル

将来、ミキが貧乏に苦しんだらどう責任を取るつもりだ

トモハル

お前はちゃんと家族を養って幸せにできるほどの稼ぎがあるのか？

トモハル

その見込みはあるのか？

ショウジ

それは、今はそこまで多いわけではないですが

ショウジ

頑張って働いて功績をあげて、出世して良い給料を貰えるように頑張るつもりです

トモハル

誰だって口だけならそう言えるんだ

トモハル

ミキから聞いてると思うが、私はO社にもう何年も勤めている

ショウジ

はい、伺っております

トモハル

O社と言えば日本でその名を知らない人はいないくらいの会社だ

トモハル

勿論給料も良い、福利厚生もな

トモハル

大手らしく柔軟性に富み、時代のニーズに合わせて常に変化している

トモハル

私の頃はなかったが、最近は父親が一緒になって子育てする時代だ

トモハル

育休というのも簡単に認められる

トモハル

現に私の部下がこの間育休を貰って長期休暇に入った

トモハル

お前の会社にそういう手厚い福利厚生はあるのか？

ショウジ

それは申請してみないと分かりませんが…

トモハル

フン、そうだろうな

トモハル

どうせ申請しても突っぱねられるのがオチだろう

トモハル

給料も少ない、福利厚生も乏しい、そんな男にミキをやれるわけがない

トモハル

ミキも、どうしてこんな稼ぎの少ない甲斐性無しを好きになったのかが理解できん

トモハル

これまで父親が稼いできたから幸せに生きてこられたというのに

ショウジ

確かにウチの会社は全国的に見てもあまり有名じゃありません

トモハル

有名じゃないどころか、無名だろう！無名！

ショウジ

はい、正直なところ無名の会社です

ショウジ

ただ業界内では高く評価されている会社でして

ショウジ

マイナーな分野ではありますが安定した良い企業なんです

ショウジ

今はまだマイナーですが、未来を見据えて企業努力している会社でして

トモハル

未来を見据えて？企業努力？

トモハル

ちっぽけな無名の会社が何を偉そうに

トモハル

今の時代、もはや企業格差は埋まることはない！

トモハル

大手の会社はどんどん儲けて更に大きくなり、小さな会社は潰れていく一方だ

トモハル

お前の会社がどんな仕事をしているのかは知らんが

トモハル

あんまり大層な夢を見ていると足元をすくわれるぞ

トモハル

ミキも、元恋人が働いていた会社が倒産したニュースを見たら

トモハル

少しは心を痛めるかもしれんしな

ショウジ

倒産なんてしません、本当に安定している良い企業なんです

ショウジ

これから成長するかもしれない分野ということで、テレビで取り上げられた事もあるんです

ショウジ

それほど注目されている業界なんです！

トモハル

テレビなんぞ信用ならん

トモハル

あんなもの、ちょっと話題になっただけでまるで最先端かのように大袈裟に取り上げるだけだ

トモハル

私が年間いくら稼いでいるか知っているか？

トモハル

お前の何倍もの給料だぞ

トモハル

お前の給料じゃ、ミキを高級な料亭やレストランに連れて行ってやることもままならんだろう

トモハル

もし子供が生まれたら教育はどうするつもりだ？

トモハル

習い事も塾もタダじゃないんだぞ

トモハル

子どものうちから勉強やスポーツを習わせていくとなるとお金がかかる

トモハル

それを分かっているのか？

ショウジ

スポーツなら得意です、国体までいった経験があります

トモハル

どうせ弱小の地方なんだろう？勉強の方は？

ショウジ

それは、理系の科目ならなんとか…

トモハル

理系？お前、そもそもどこの大学出身だ？

ショウジ

K大学です

トモハル

K大学？全く知らんな

ショウジ

専門的な分野に特化した大学なので、ご存知ないと思います

ショウジ

昔から、今働いている業界に入りたいという思いからこの大学を選んだので

トモハル

どうせ学力が足りてなかっただけだろ？

トモハル

それを、専門的な分野に特化してるからどうこうって言い訳してるだけだ、お前は

トモハル

どうせ家も貧乏で、ろくな教育も受けてないんだろ？

トモハル

父親はどこの会社に勤めてるんだ？

ショウジ

いえ、うちは僕が小さい頃に両親が離婚してまして

ショウジ

物心ついたころにはもう既に母子家庭でした

トモハル

母子家庭だと？

トモハル

ほれみろ、語るに落ちたな

ショウジ

どういうことですか？

トモハル

母子家庭で育った人間がまともなはずがないだろ

トモハル

貧乏でろくな教育も受けられず、まともに躾もされずに育ってきたんだろう

トモハル

そんなだから無名の三流以下の大学にギリギリで入って

トモハル

聞いたこともないような分野の無名の会社に勤めるんだ

ショウジ

ちょっと待ってください！

ショウジ

確かに僕が務めているのは無名の会社ですが

ショウジ

母はちゃんとした会社で働いて僕を育ててくれました

ショウジ

毎朝僕のお弁当も作りながら出勤してたんです

ショウジ

母が務めているのはT社という会社で、そこそこ有名な会社です

トモハル

T社？名前だけは聞いたことがあるな

トモハル

だが女の稼ぎなんぞたかが知れている！

トモハル

家族の幸せというものは大黒柱である男が、どれほど良い会社に入って

トモハル

どれだけ稼いでいるかで決まる！

トモハル

お前にはミキを幸せにするなんて到底無理だというんだ！

ショウジ

僕が働いている業界は、今はまだマイナーではありますが

ショウジ

将来必ず伸びます！そういう時代がすぐ目の前まできているんです

ショウジ

お義父さん、信じてください！

トモハル

ならん！お前の戯言はもう聞き飽きた

トモハル

お前のような稼ぎの低い男にミキはやれん

トモハル

それだけだ

～1年後～

ショウジ

お義父さん、こんにちは

ショウジ

ミキから聞きました

ショウジ

早期退職しようと思ってると

トモハル

そうだ、だからなんだ？お前には関係ないだろう

ショウジ

あれほど超有名な大手企業に入っているんだと僕に言っていたのに

ショウジ

なぜ定年退職を待たずに辞めるんですか？

トモハル

新しい分野に挑戦してみたくなっただけだ

トモハル

男たるもの、常に挑戦して成長しなければならん

トモハル

私は世間一般で言う高給取りだ、貯蓄は十分にある

トモハル

今から新しい分野に行ったとしても家族に苦労はかけない

ショウジ

本当にそれだけですか？

トモハル

何？どういう意味だ？

ショウジ

僕、今の会社で研究職なんです

ショウジ

でも小さい会社なんで人手が足りなくて

ショウジ

時間が空いているときは営業に行ったりもするんです

トモハル

少しでも早く出世するためか？無駄な努力を

ショウジ

その営業の合間に休憩で入った喫茶店で、偶然見たんです

ショウジ

お義父さんが年の若いサラリーマンの方と一緒にいるところを

トモハル

へ…？

ショウジ

お義父さん、泣きながら若いサラリーマンの方に頭下げてましたよね

トモハル

許してください！お願いします！って

トモハル

お前、どこでそれを…

ショウジ

S駅の近くの喫茶店です

ショウジ

お義父さん、リストラされてたんですね

ショウジ

しかも1年前に

トモハル

それは…

ショウジ

申し訳ないんですが、近くに座って盗み聞きさせてもらいました

ショウジ

若い方、呆れてましたね

ショウジ

いつまでその年齢でしょうもないミスするんですか、って

ショウジ

何年もウチの会社にいたのに何回も何回も同じミスするから切られるんですよ、って

ショウジ

どうやらお義父さん、家の中では厳格な父親を装っているようですが

ショウジ

会社の中ではうだつの上がらない中年サラリーマンなんですね

トモハル

お前、全部聞いてたのか…

ショウジ

はい、全て聞きました

ショウジ

お義父さんが鼻水たらして泣きながら頭を下げて

ショウジ

土下座までしようとして、若い方に止められていた所も、全部

ショウジ

あの若い方は人事の方でしょうか？

トモハル

そうだ…

ショウジ

やっぱりそうなんですね

ショウジ

1年前リストラされていたのをミキやお義母さんには黙っていたんですね

トモハル

必死に謝って頭を下げれば許してもらえると思ったんだ、だから…

ショウジ

今回のような事、今までもあったんですか？

トモハル

これで3回目だ…

トモハル

今まではなんとか必死に頭を下げて温情を貰って許してもらっていた

トモハル

長年勤めている分私を知っている人間も多いからな

トモハル

皆にも頭を下げて回った

ショウジ

それで、3回目の今回でついに許してもらえず

ショウジ

正式にクビになったってわけですね

ショウジ

だから、慌てて別の就職先を探している、と

ショウジ

それを別の分野に挑戦するなんて言ってたんですね

トモハル

頼む、ミキや妻には黙っててくれないか！？

トモハル

まだ貯蓄はあるから当分は誤魔化せる

トモハル

私の経歴ならどこなりともすぐに就職はできるはずだ、だから頼む！

ショウジ

でもお義父さん、お義父さんの年齢で再就職はかなり難しいんじゃないですか？

トモハル

それは、そうだが…なんとか頑張るしかない

ショウジ

さっき、うちの会社人手が足りないって言いましたよね？

ショウジ

もしよかったら、僕の会社はいかがですか？

トモハル

なに、お前の会社だと！？ふざけるな！

トモハル

そんな無名の低賃金の会社で働くくらいならコンビニで働いた方がマシだ！

ショウジ

お義父さん、本当に世間の最新ニュースとか知らないんですね

トモハル

なに？

ショウジ

僕がいる業界、去年の末あたりから世界的に注目され始めて急速に伸びているんです

ショウジ

今では世界のトレンドになってるほどです

ショウジ

うちの会社も、発注量が何倍にもなって大忙しです

ショウジ

僕は必要な資格を全て持ってるので重宝されて、特別手当の額もかなり増えました

ショウジ

今一番儲かる仕事とも言われてるんですよ

トモハル

それほどまでにか…

ショウジ

しかも将来的にもっともっと伸びるだろうと言われています

ショウジ

なんせ特化した技術ですから、需要は無くならないわけです

ショウジ

なので社員もどんどん増やす予定みたいですが、今大人気なのですぐ埋まるでしょうね

ショウジ

チャンスは今しかないですよ

ショウジ

僕なら社長とも仲が良いので口利きできます

ショウジ

どうですか？

トモハル

しかし家族に何といえば…

ショウジ

どこに就職したって、遅かれ早かれリストラされたのはバレますよ？

ショウジ

それなら、早いうちに打ち明けた方がいいんじゃないでしょうか

トモハル

確かにそうだな…

ショウジ

じゃあ、決まりですね

～後日談～

ショウジ

その後、俺とミキは無事結婚

ショウジ

お義父さんは俺の会社に営業として入社することになった

ショウジ

やはり前職では相当使えない社員だったらしく、営業部長に怒られっぱなし

ショウジ

俺に対する態度も大人しくなり、むしろ怯えて俺を避けるようになった

ショウジ

今ではお義母さんが家を仕切っていて、お義父さんは隅っこで縮こまっているらしい

ショウジ

俺はミキと幸せな家庭を築いており、今度2人目の子供を出産予定である

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結城真矢

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