あいつのせいで
せっかく頑張ってきたのに
何してくれてるんだ!!!
あいつさえいなければ
───────!!
青
青
少し前から、ずっと同じ夢を見る
昔の夢
いつも目が覚めたときには汗だくで、息も荒い
呼吸が整うまで待ちたいが、ぼーっとしていれば夢の事しか考えられなくなる
だから、抵抗する体を無理矢理起き上がらせて布団から這い出る
青母
青
リビングに入ると、仕事の用意を済ませた母親と目が合う
青母
青母
青
青母
青
前に、悪夢について母親に相談したことがあった
が、それは無意味に終わった
母親は『早く忘れなさい』の一点張り
そう簡単に忘れられるのならとっくの昔に記憶の中から消している
早く忘れたらいい、なんて僕自身が一番分かっていること
でも、忘れたいのに忘れられない
影みたいに、いつでも、どこにでも着いてくる
2年前、とあることが原因で、大好きだったバスケをやめた
未練を残しているつもりはないし、むしろ嫌悪しか感じない
昔の自分も、放課後楽しそうにバスケをしている学生も
馬鹿馬鹿しくて仕方がない
友人関係なんてものも持たない
何か得があるかと言ったら何もないし、むしろ損しかない
持つだけ無駄だ
何かあったのか、今日は一段と教室が騒がしくて
静か括一人でいられる屋上へ逃げてきた
購買で買ったパンにかぶりつきながら、校庭を見下ろす
早弁をしたのか、ただ食べるのが早いのか。
数人がバスケをしていた
体の軸がなってないとか、ボールのつき方がどうとか
言いたいことは沢山あるけれど、素人の動きには見えない
バスケ部員だったりするんだろうか
一人だけ、僕よりも背の低そうな子が混じっていたが
体が小さいことを逆に利用して上手く動いている
と、思わず色々なことを考えてしまう
頬を撫でる冷たい風で我に返り、空の弁当箱に蓋をして立ち上がる
青
そのまま5限目を迎え、何も考えないままに1日が終わった
帰りにカラオケ行かね?
ごめんな今日塾なんだよ
一緒に帰ろうぜ
ええよ~
教室内を色々な会話が飛び交う
いずれは絶対に切れてしまう仲なのに、どうして深めようとするんだろうか
青
何かに縛られもせず、傷付くこともない
だから、独りが一番良い
ダンッダンッ
パシュッ
ボールが網を通る気持ちのいい音が、夕焼けに響く
髪色を見るに、昼休みと同じ人達だろうか
莉犬パスッッ!!!
え、ッちょ高ッ...
危ない!!!
青
青
唐突に顔に向かってくるボールに体が反応する
反射的に1歩後ろへ下がり、ボールをバウンドしてしまっていた
青
ちょ、ッ莉犬何してんねん!!
低身長にあれを取れって方がおかしいって!!!
赤
青
謝りながら駆け寄られ、手にあったボールを返す
赤
青
桃
小さな子の頭に手を置きながら、後ろから現れる
赤
桃
赤
桃
青
この後関係が少しでも続かないように
お互いに興味を持たないように、なるべく声は発さない
橙
青
早く終わらせようと思っていたところに、背の高い陽気そうな人が来る
周りを見渡してみるが、女子はいない
青
急に『可愛い』なんて言われて、思考がクラッシュする
黄
赤
橙
橙
青
今日はやけに謝られやすい日だ
もはや何について謝られているのかも分からない中、首を横に振る
赤
赤
赤
青
流石の僕でも、この状況で無視する訳にはいかず、渋々答える
赤
青
赤
青
赤
こんなそっけない奴の名前を知って何が嬉しいんだろうか
増してやニックネームまで付けて
赤
青
青
赤
青
一体何を聞いているんだろうか
こんなことを聞いても何になる訳でもない
赤
青
赤
橙
ずぶずぶと沼に沈んでいく
僕の望まない未来が歩いて来ている
青
赤
赤
青
黄
青
黄
赤
青
嬉しそうな満面の笑みに、楽しそうな賛同の声
橙
桃
なんて会話をめ目の前でされるが、そんなのたまったんもんじゃない
僕がこの4人の内に入る前から話していたことなんだろうし
ただでさえ人と関わることが苦手なのに、罪悪感に押し潰されてしまう
青
青
タンッ..タンッタンッ
軽快な音が鼓膜を殴る
桃
赤
橙
黄
吐く息は雪みたいに真っ白で
動いていない僕はこんなに寒いのに、彼らの周りには汗が光る
凍りつくような空気が肺を刺して痛い
彼らだってまた同じはずなのに
『俺達は世界一幸せだ』とでも言うような表情を見せる
赤
黄
赤
桃
赤
ころんパス、ッ!!
おっけ任せろ!!
ないす~!!!
やっぱ持つべきはころん様なんだよなぁ
自分で言うのかよw
間違えちゃいないの腹立つw
www
いつかの会話が脳裏に響く
もういつしたのかも分からないくらいの
それなのに、あまりにも声が、言葉が鮮明で
赤
桃
黄
橙
あの4人の姿に、笑顔に、重ねてしまって
気付かれたくなくて、気付きたくもない事実が
隠しきれないくらいにこちらを覗いているようで
何も考えたくなくて、マフラーに顔を埋めて目を瞑った
赤
赤
青
赤
桃
黄
青
気付かぬ内に寝かけていたようだ
莉犬くんの呼ぶ声で目が覚めた
目の前には3人
一人、橙色の髪の人がいない
青
まだ半分曖昧な名前を口に出す
桃
赤
橙
黄
橙
桃
橙
赤
赤
青
緊張しているのか、いつもより鞄が重たい
誰かと肩を並べて帰るのはすごく久しぶりだった
赤
不意に莉犬くんから質問が飛んでくる
青
赤
青
今までずっと、いわゆる"ボールが友達"のような人生を送ってきた
朝も、休み時間も、昼休みも、放課後も
ずっとボールを握っていた
バスケを辞めてからも、何か新しいことに手を出すこともなく早2年が過ぎた
得意なことどころか、好きなことすら今はないんじゃないか
赤
莉犬くんの少し不安そうな声が耳に入る
僕にとって答えにくい質問をしてしまったと負い目を感じているんだろうか
莉犬くんがそんなことを心配する必要はどこにもないのに
ただ、僕が空っぽな人間だから
こんなにありふれた質問にすらも答えられないだけなんだから
青
とりあえず何か返さなければと思い、無意識に口をついて出る
黄
まあ苦手、ではない、のか...?
青
赤
青
橙
桃
赤
赤
赤
青
青
赤
予定もないのに嘘をついて断る訳にもいかず
ノリで来てしまった
橙
青
後には引けない状態へ持っていかれてしまったため、渋々昔の十八番を入れる
最後にカラオケに来たのが数年前だから、歌詞すら覚えているか怪しいが
画面に曲名が表示されるとほぼ同時に、ふっと部屋が暗くなった
モニターの両側にあるスピーカーから、心地よいピアノの音が流れる
赤
青
1つ息を吸って、久しぶりに使う喉を震わす
青
桃
赤
室内に動揺の空気が充満するのが分かる
まあ毎度のことだ
青
青
青
青
橙
間奏に入ると同時にわあっと騒がしくなる
桃
赤
青
思わず苦笑が溢れた
苦しくなるのが恋であるなら
僕はそれで構わないから
溢れ出すこの涙もまた
愛しいと思えますように
青
青
ピアノの音が次第に弱くなり、余韻を残して止まる
その途端に体がよろけた
橙
青
桃
桃
青
橙
黄
橙
黄
青
赤
青
ここまで賞賛されることはないもので、つい照れてしまう
赤
赤
青
赤
青
青
赤
ギターの目立つ聞くからに格好良いイントロが流れる
「大体そんな感じ」って
埋まらない願望をスルーして
しばらくして、莉犬くんが口を開いて声を出す
さっきまでの高い声と打って変わって、綺麗な低音
曖昧に逃げ込んだり
「それもいいか」って飲み込んだり
唇を噛んで保つばかり
あれ、
なんか、この歌詞
青
あれ、?
おかしいな、
赤
青
黄
赤
青
赤
青
桃
橙
桃
橙
橙
桃
桃
橙
桃
橙
桃
橙
赤
青
橙
青
流れ続ける伴奏なんてそっちのけで顔を近付けてくる
赤
青
目の前にあるジェルくんの顔
橙
青
黄
橙
橙
青
橙
青
橙
青
桃
桃
桃
青
よく分からないけど、まあいいか
そこからしばらくの間、僕達は交互に歌い続けた
店を出たときにはもう真っ暗で
それぞれ急いで家へ向かった
青母
青
青母
夜、布団に潜り込む
どうしても、今日莉犬くんの歌っていた曲の歌詞が頭から離れない
「『大体そんな感じ』って埋まらない願望をスルーして」
「明日の自分を呪うくせに」
青
青
バタンッ
桃
青
朝、扉を開いた途端に深い群青色の瞳と目が合う
桃
青
青
桃
青
青
桃
桃
青
青
昨日は主にジェルくんと莉犬くんを中心に話が進んでいたから
さとみくんと二人きりだと、あまり会話が弾まない
話題を広げる気もない
桃
青
今の時期外は寒いといえ、汗だくのまま家を出たくない
服が汗を吸収していて気持ちが悪いし、冷えたら寒い
毎日朝食を済ませた後は入るようにしている
桃
桃
青
歩き出してから、首筋をなぞる冷たい風で気付いた
普段マフラーは玄関に置いていて、出掛けに掴むから
今日は目の前のさとみくんに気を取られて忘れたんだろう
桃
コートの襟で口元を隠し、肌寒さを凌ぐ
手は深いポケットの奥底
と、急にふわっとしたものが頭に当たった
桃
青
桃
青
桃
青
桃
桃
青
ころん汗だくじゃんw何してたのw
朝練してた~!!
朝から晩までボールと一緒だなw
そりゃ試合近いんだし!!
ゆーて1ヶ月後だろw
1ヶ月なんてすぐだよ!!
そうか?w
今回も勝ちたいもんっ!!
桃
青
桃
青
桃
桃
青
僕の肩に雑にかかるマフラーに、急にさとみくんが手を伸ばす
抗う間もなく、それを綺麗に首に巻かれた
変に可愛い巻き方で、女子力の高さが伺える
青
桃
桃
青
桃
赤
青
桃
急に後ろから飛びつかれて
自分でも理解ができないような声が出る
赤
橙
黄
赤
橙
桃
赤
青
桃
青
黄
赤
青
赤
青
赤
青
赤
赤
桃
黄
橙
青
ガラガラガラガラッ
ピシャッ
教室のドアが音を立てて閉まり、手を振る莉犬くんの姿が見えなくなる
それを確認した瞬間、緩んでいたらしい口角を戻し、廊下の先へと進む
静かに自分の席へ向かい、鞄を机に置く
青
莉犬くん達が乱入し、すっかり借りていたことを忘れていた
今返しに行った方がいいのかな...
青
ガラガラ...
控えめに、ゆっくりとドアを開く
青
先生に用がある時以外で他の教室に入るのはこれが初めてで
少しためらう
桃
黄
赤
橙
青
他3人と話をしていたジェルくんと目が合う
橙
そうジェルくんが叫んだ瞬間、教室中から視線が集まる
露骨に『誰?』と問うような目
青
赤
青
桃
青
桃
青
桃
桃
青
桃
桃
青
青
桃
桃
赤
橙
ガラガラ..
来たときと同様、音をなるべく立てないよう閉める
慣れていない大量の視線から解放されて、どばっと疲れが溜まる
青
昼休み、いつも通り自分の席で黙々と食べ進める
と、急に扉が勢い良く開いた
橙
モブ(使い回し)
橙
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
橙
モブ(使い回し)
橙
青
橙
青
橙
橙
青
ジェルくんに急かされつつ、何とか一度弁当を閉じ屋上に到着した
桃
黄
青
赤
橙
みんなで喋りながら、弁当をつつく
青
桃
橙
青
赤
黄
青
青
桃
黄
赤
青
赤
青
橙
青
僕一人のために、4人の大切な時間を潰して欲しくない
桃
桃
青
赤
黄
黄
橙
青
青
そこまでだと思っていなくて、
少し、いや、かなり戸惑う
やっぱり友人関係は理解できない
この出会いがあって、早半年が経つ
もうマフラーや手袋、コートで暖を取る人はいなくなり
シャツも袖が消えて涼しげになった
朝一緒に登校して、弁当を一緒に食べて、
4人の部活がなければみんなで一緒に帰る
用事がなければカラオケや公園、コンビニに寄る
みんなで歌って、みんなで遊んで、みんなで買い食いをする
何故か、最初は合わなさそうだと思ったさとみくんと格別に仲良くなっていた
今なら、友人関係を持つことの良さを思い出せているのかもしれない
ある日だった
3人は委員会の仕事があり、さとみくんと2人並んで帰り道を歩いていた
ふと、さとみくんが足を止めた
青
桃
青
桃
あまりにも突然で、
僕達が出会ったとき、ジェルくんに言われた以来だった
青
桃
青
桃
桃
桃
青
桃
桃
桃
青
桃
青
桃
桃
青
桃
桃
桃
青
青
桃
青
桃
青
桃
青
青
桃
青
青
と、つい言ってしまったが、
まともにボールを持つのなんて数年ぶり
負けてしまえば、心の傷を自ら抉らなければいけなくなる
でも、勝てる保証なんてどこにもない
バンッ
青
青
息が荒い
全身から汗が噴き出す
ずっとボールと擦れ合う手が痛い
でも不思議と足は動き続ける
腕を高く上げ、振り下げる
その瞬間走り出す
手の中にボールが戻ってくる
走る、走る
ボールを庇いながら
彼が真後ろまで迫っている
思い切り地面を蹴る
高く舞い上がったなら、冷たい赤いポールを掴む
そのまま勢い良く穴めがけて手を振り下ろす
ボールがネットを通り抜け、地面に落ちて、砂とぶつかる音がすると
試合終了の合図が鳴り響いた
青
桃
こんなに動き回ったのは久々で、額を汗が伝う
青
桃
桃
青
聞いていないふりをして、コート脇に置いた炭酸水の蓋を開ける
口をつけ、一気に喉へ流し込む
カラカラで熱を帯びた口の中が気持ちいい
桃
手早く蓋を閉め鞄に押し込み、早々と立ち去ろうとすると呼び止められた
青
目だけで要件を問う
桃
青
もう一度バスケットボールに触るなんてごめんだし
意地でも部活には入りたくない
それ以後何も言わないさとみくんを背中に、帰路へ戻った
青
青母
青母
青
チャプ...
身体の汚れを洗い流し、湯船に浸かる
夏に入るのは暑苦しくて好きではないが
今日は不思議と気が向いた
足と腕の疲れがお湯に溶け出していくようで、気持ちがいい
青
分からない何かに腹が立って、ついそれをさとみくんにぶつけてしまったが
明日からどうしたらいいだろうか?
嫌に莉犬くん達は察しがいい
僕達の様子がおかしいことには気付くだろう
まあいいか
聞かれたとしても、何があったのか言う気はない
とりあえず、さとみくんとはしばらく距離を取るしかなさそうだ
ま、まあまあ、ッ
ころんもわざとやった訳じゃないじゃんッ...
なんでそんなに平気でいられるんだよ
俺達に『また来年』なんてないんだ
リベンジなんて、もうできねぇんだよ
青
朝、目覚ましよりも早く起きた
青
この半年間、見る頻度が少しずつ減っていた夢
今日は運が悪い日みたいだ
身支度を済ませ扉を開けると、まず目に入ったのは元気にまっすぐ立った耳
赤
青
赤
赤
青
赤
青
まあ今はそれがありがたいんだけど。
赤
青
赤
青
赤
青
赤
赤
青
赤
青
赤
青
赤
青
赤
青
赤
青
赤
赤
青
赤
赤
青
赤
青
赤
青
こんな一対一の場面で断れる訳もなく、一応前向きな返答をしておく
赤
赤
青
赤
青
赤
赤
青
赤
赤
青
莉犬くんの携帯の画面を横から覗き込む
画面には
早弁して練習するべ
赤
ごめんね莉犬くん、多分だけど僕のせい
赤
青
青
赤
赤
青
赤
青
赤
青
青
赤
青
赤
青
赤
青
勉強は好きではない
むしろ嫌いな方だ
昔は勉強をするなんて考えは1mmもなくて
ゲームとバスケのことしか頭になかった
だから、案の定成績は最悪
が、脳内の半分以上を占めたバスケを失ったことで勉強に没頭し始めた
それ以外にすることがない
ゲームだって、もう相手はいない
ソロプレイで遊んでみても、何か物足りなくて楽しくなかった
青
特にやることもなく、机に伏せ目を瞑る
トントンッ
と、ふと肩を優しく叩かれる
青
ゆっくりと首を動かし、顔を上に向ける
すると、女子と目が合った
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
青
青
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
青
青
モブ(使い回し)
青
モブ(使い回し)
青
青
モブ(使い回し)
青
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
青
顔に笑みを貼り付け、人溜まりへ駆けていく
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
机に肘をつきぼーっとしていると、そんな会話が聞こえてくる
僕が周りにつけたかったイメージがそのまま浸透していたらしい
今となってはあの4人のせいで意味もないんだけど
モブ(使い回し)
青
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
キーンコーンカーンコーン
モブ(使い回し)
青
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
キーンコーンカーンコーン
ありがとうございました~
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
チャイムが鳴り、号令が終わると同時に僕の周りに人だかりができる
青
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
青
青
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
青
青
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
青
モブ(使い回し)
青
殺到する質問に答え続ける休み時間が続き、あっという間に3時間が過ぎた
モブ(使い回し)
青
鞄の中の弁当箱を掴みつつ、呼びかけを跳ね返す
そそくさと教室を出、屋上へ向かった
屋上の扉を開くと
生温い風が勢い良く顔に吹きかかる
崩れた前髪の間から、4人の姿が目に入った
赤
橙
黄
橙
赤
橙
青
皆お礼を言ってくれている中
さとみくんだけは少し離れたところにいて、身体ごとそっぽを向かれている
姿を伺うようにこちらを向いたときに合った目は
すぐに逸らされてしまった
青
赤
赤
僕の視線を辿った先にいるさとみくんに気付いたのか、莉犬くんが話し出す
赤
赤
赤
さとみくんのことを見つめながら、呆れたと言いたげな溜息をつく
莉犬くんの横に腰を降ろし、危うく存在を忘れるところだった弁当箱を開く
卵焼きを一口かじると、口いっぱいに甘い砂糖の味が広がる
橙
青
橙
青
青
橙
青
青
黄
橙
黄
黄
赤
黄
赤
赤
黄
赤
黄
黄
黄
赤
橙
黄
桃
橙
赤
一応、話しかければ会話はしてくれるらしい
ジェルくんの質問に対し、ぼそりと答える
黄
黄
赤
橙
桃
黄
橙
桃
青
黄
赤
青
橙
黄
桃
赤
そんなこんなで昼飯をつついている内に、弁当箱の底が見えてきた
青
赤
橙
青
青
橙
ジェルくんの声が聞こえた途端、身体がぐらりと傾き、宙に浮く
視界にはジェルくんのこちらを覗き込む顔と青空だけ
橙
青
橙
赤
青
青
橙
青
青
橙
黄
ジェルくんが僕のことを抱えたまま屈んだことに驚いたのか
るぅとくんが聞いてくる
橙
橙
黄
青
黄
青
黄
さっき僕が拒んだからか、姫抱きはせず、脇の下に腕を入れて持ち上げてくる
声は可愛いくせに僕よりも背が高くて腹が立つ
黄
赤
黄
黄
赤
黄
橙
赤
青
今さっきるぅとくんの身長に嫉妬したばかりで
自分より背の低い莉犬くんの存在が嬉しくて、
莉犬くんの頭に肘を乗せ、鼻で笑ってみせる
赤
橙
赤
橙
青
橙
話すだけでも気まずいのに、さすがに持ち上げられるのは勘弁
向こうも同じはずだから、断ると思っていたのに
青
段々と近くなるさとみくんとの距離
桃
青
桃
しまいには、しっかりと抱き上げられてしまった
しかも姫抱き。
橙
赤
橙
黄
橙
桃
青
ゆっくりと、足が地面につく
キーンコーンカーンコーン
と、そこで、腹の底に響くようなチャイムが鳴る
青
赤
黄
橙
青
赤
青
青
黄
赤
青
バスッ..バスッ..
赤
橙
桃
青
花壇の縁で、肘をついて4人を見つめる
赤
橙
あんなにジェルくんにし辛辣だった莉犬くんも
今は素直に持ち上げられ、振り回されている
桃
黄
桃
桃
黄
青
青
ミスなんて誰にでもあるじゃんw
謝んなくていいんだよ
そーそー、俺達だってミスするんだし
ころんいっつも完璧なんだから時々くらいいいだろw
青
なんで涙目になってんだよw
青
青
何してくれてんの...
最悪なんだけど
人生に一度あるかないかのチャンスだったのに...
青
本当にどうしてくれんの
信じてたのにさ
ふざけんなよ
赤
青
赤
青
赤
名前を呼ばれて我にかえると、目の前に莉犬くんの心配したような顔
青
赤
赤
橙
青
青
赤
赤
橙
青
去っていく2人の背中を眺める
夢の中の人達みたいだ
どうしても、あのトラウマのせいで完全に信じきることはできないけれど
決して完全じゃなくとも、信頼は置いていいとつくづく感じる
あの人たちの瞳に、嘘は映っていない
そんな気がした
その日の放課後
赤
青
橙
黄
練習を終えてほかほかしている4人が教室へ迎えに来てくれた
でも今日は
青
桃
青
桃
青
桃
赤
青
黄
橙
赤
黄
3人が帰り、もう既に人のいない教室は静寂に包まれる
桃
それを断ち切ったのはさとみくんの方
桃
青
桃
青
桃
青
青
桃
青
青
桃
青
そりゃびっくりするよね
僕がさとみくんに助言をする
それはつまり、さとみくんが僕にバスケで勝つまでの早道になる
でも、理由はそこじゃない
ただ僕は
青
桃
青
青
桃
桃
青
僕みたいな結末を迎える人を、これ以上増やしたくない
せめて、僕の周りの人達だけでも
桃
昨日の今日
もちろん完璧じゃない
それでも、意識はしているようで
瑠璃色の瞳がよく動く
後は
青
橙
橙
黄
赤
橙
ジェルくんが僕の呼びかけに応え、こちらを見ているにも関わらず
なんの躊躇も無しに攻める無慈悲さはるぅとくんらしい
橙
るぅとくんからボールを受け取ったさとみくんを追いながら
僕の存在を忘れずに、要件を聞いてくれる
青
橙
青
青
橙
青
ジェルくんの場合はさとみくんと真逆
さとみくんは味方を意識していることと、プレーへの集中のしすぎで、
敵の動きをしっかりと確認できていなかった
ジェルくんは逆に、敵を意識しすぎて味方への意識が薄い
まあよくあること
パスする気がないときでも、どこにいるのか把握しておく必要がある
ジェルくんは僕がバスケをしていたことを知らないから
怪訝そうな顔をしていたけれど、なんだかんだ実行してくれている
青
後はるぅとくんと莉犬くん
ピピピピッピピピピッ
桃
試合終了の合図が鳴り響いて、皆が一斉に動きを止める
走りまわって上がりきった息を整えながら、こちらへ歩いてきた
青
赤
青
赤
青
青
黄
青
青
黄
赤
橙
青
赤
青
橙
黄
青
赤
青
黄
橙
黄
青
赤
赤
青
青
橙
青
桃
青
青
桃
赤
黄
青
青
橙
赤
桃
桃
青
青
桃
赤
黄
橙
桃
そこから、僕はみんなの助言者役へ徹した
当たり前だけど、プレイに参加はしない
試合中は傍観者、終わったらほぼスパルタ教師
みんな、素直に、真面目に僕の話に耳を傾けてくれた
日に日に近付いてくる試合と並行して
着実にみんなの実力は上がっている
桃
青
いつも通りの帰り道
暑さに耐えかねて、皆でコンビニで買ったアイスにかぶりついている時だった
ふと、さとみくんに名前を呼ばれる
青
返事をしたはいいものの
夕方といえどこの真夏の暑さの中、アイスはどんどんと溶けていく
危うく地面に落ちるところだった欠片を口に入れる
青
他のみんなも溶けないうちに黙々と音を立てて食べ進めている
パック入りのアイスを買ったさとみくんは一人余裕そうにしていた
青
キンキンに口の中が冷えたことで回らなくなった呂律で話を促す
桃
青
桃
桃
青
桃
桃
そう言って、僕の目の前で頭を下げる
普段は見えるはずもないさとみくんのつむじ、頭のてっぺんが見える
僕を入部させるためなんだろうに、何でそこまでできるんだろうか
所詮は他人なのに、なんで
桃
桃
青
ただ、さとみくんの目を見る
瞳の奥の、奥の方を
桃
桃
桃
青
トンッ...
後ろから、誰かに優しく肩を叩かれる
赤
青
赤
赤
赤
橙
橙
青
橙
橙
黄
黄
黄
青
黄
黄
桃
桃
青
もう一度、さとみくんの蒼い瞳の奥を見る
青
青
桃
赤
青
色の違う両目をこれでもかと輝かせる莉犬くんに方を掴まれる
青
桃
赤
桃
青
赤
橙
黄
赤
このバスケコートにもう一度来るとは思わなかった
今回は3人がいるから、アラームをかける必要はない
目の前には、数週間前と全く同じ光景
お互いに、お互いの目の中を見つめる
青
桃
ジェルくんが持つ、学校の予備品のホイッスルが鳴る
のが聞こえたと同時に、僕達は地面を蹴った
輪郭を伝う汗を、腕で拭う
僕も、彼も、肩で大きく息をしていた
青
桃
青
青
青
瞳に映る、僕が見えた
赤
黄
赤
青
飲み込む余裕もなく、重なった唇の隙間から、混ざりあった涎が垂れる
青
息ができなくて、苦しくて、涙が溢れ出た
青
桃
青
青
桃
青
敏感になっているのか、少し頬を撫でられただけで身体が跳ねる
すき、
好き...?
青
その後は、約束通りバスケ部に入部した
高校に入学して初めての部活は今日の放課後
なんだけど
モブ(使い回し)
青
モブ(使い回し)
青
モブ(使い回し)
桃
青
桃
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
桃
青
桃
青
あんなにクールだった癖に、告白してから豹変したさとみくん
返事はとりあえず保留だったはずなんだけど
この通り、さとみくんがデマを言いふらすせいで勘違いがよく生まれる
本当は付き合ってて、ころんがツンデレなだけだろう、とか
赤
桃
黄
青
大体、こういう僕の手に負えない時は3人のうちの誰かが助けに来てくれる
橙
青
1人、変なのがいるけど
黄
赤
桃
青
桃
青
桃
赤
橙
桃
青
さとみくん達のおかげ、なんて口が裂けても言わないもんね
桃
青
桃
青
青
桃
青
橙
赤
前までのさとみくんを見てれば、当然の事実なのかもしれないけど
これが...?モテる...?
は...?
黄
青
桃
青
キーンコーンカーンコーン
桃
赤
黄
橙
こんなにチャイムが嬉しいのは生まれて初めてだった
相変わらず台風を擬人化したような人達だ
そしてついに迎えた放課後
部活に行く時間になったら迎えにくるとか言ってたけど
赤
桃
青
桃
青
桃
青
扱いに慣れてきて折角避けられたのに、まさかの相手の方が1枚上手
赤
青
桃
気が引ける中腕を引っ張られ、日向へ1歩踏み出す
少しずつ、ジャージを着たがたいのいい男の人が見えてきた
コーチ
青
桃
コーチ
青
コーチ
青
コーチ
桃
コーチ
コーチ
赤
橙
黄
2人が羨ましそうにしている影で、るぅとくんがこっそり教えてくれる
コーチ
黄
顧問はかなり強いらしい。
まあつまりは、手加減なしで戦えるということだ
真冬の朝の霧のように、砂埃が派手に立つ
るぅとくんの助言から知ってはいたが、玄人の動きをしている
だから僕も本気
一切手加減しない
競技の中では、手加減することは相手への無礼となる
ここまで全力でボールを打つことは久しぶりで、肺が痛かった
青
コーチ
青
青
コーチ
赤
橙
コーチ
赤
赤
橙
青
黄
高校初めての、バスケの練習始め
ボールの扱いはそこまで鈍っていないから、体力から取り戻すことになった
だから今日1日はランニング
なぜ他のみんなも同じメニューなのか分からないけれど
青
赤
黄
練習を始めて約30分
3歩ほど後ろを走る2人の疲れ切った声が聞こえてくる
桃
赤
青
橙
橙
桃
赤
黄
桃
そんないつも通りの会話が聞こえた直後
視界の端から出てきた2人が僕を追い越した
青
桃
青
桃
青
桃
橙
赤
青
青
青
赤
青
出た、めぇめぇ呼び
僕がりいぬくんからのその呼ばれ方に弱いことを知られてから
お願いするとき等々、多方面で何かと使ってくるようになってしまった
でも、残念ながら部活中の僕には効かない
過去に二重人格と言われたほど、部活中、試合中は性格が変わるらしい
青
赤
青
橙
赤
すでに限界だったるぅと莉犬
余裕だったくせに、急に限界になったジェルさとみ
リタイアした4人に見守られながら、走り続ける
時折視界の端に映るときも、るぅと莉犬は日陰で溶けたようにへばっている
青
桃
赤
桃
橙
黄
青
桃
青
呼ばれた方向へ振り向き
彼の存在を確認したとき、急に視界が傾いた
桃
青
桃
桃
赤
橙
黄
青
舌が上手く回らない
大丈夫だよ、って、言いたいことが言えなかった
桃
桃
橙
赤
黄
桃
ガラガラガラッ
桃
桃
桃
青
桃
桃
僕をベッドに寝かせたさとみくんは、早々と保健室の冷蔵庫を漁り始める
綺麗な桃色の髪は、汗で濡れていた
保健室の電気の光を反射して、きらきらと光っている
桃
桃
青
無意識に、手を伸ばしていたようだった
さとみくんの心配の目が申し訳なくて、全力で首を横に振る
桃
青
桃
急に鎖骨辺りに保冷剤をくっつけてきて、不意に変な声が出る
桃
青
桃
さとみくんが、片手で僕の背中を支えてくれる
もう片方の手で、僕の口の前にペットボトルを構えてくれている
青
口を付けると、それに合わせて丁度良く傾けてくれ、
いつの間にかカラカラに乾いていた喉が潤う
スポーツ飲料特有の甘ったるい味が口に広がる
途端に、喉の奥から嫌な音がした
青
咄嗟に口を覆う
桃
喋ったら今にも奥のものが出てきそうで、口を開くことすらできない
桃
青
桃
桃
ビニール袋を持ってきて、口元に広げてくれる
青
ようやく、奥に詰まった気持ち悪いモノを出すことができた
耐えていたからだろう、口を開けた途端に溢れ出してくる
青
青
桃
青
何かに突っかかって出てこないくせに、喋ろうとすると酷い吐き気に襲われる
今の僕にとって、少しで理解してくれるさとみくんの存在はありがたかった
桃
桃
青
さとみくんの細くてしっかりした指が、喉の奥を押す
何かがぶり返してくる感覚がしたとほぼ同時に、詰まり物が取れる感覚がした
青
桃
僕の口の中にあったさとみくんの指にかかってしまった
洗面台で手を洗いながら、そう笑ってくれる
桃
青
桃
桃
青
桃
桃
と、今度は事前に伝えてから、脇の下に保冷剤を挟まれる
青
桃
青
桃
青
桃
青
桃
桃
青
再度こちらに向けられた背中を眺める
普段は信じられないくらい精神年齢も低くて、付きまとってくるくせに
こういうときにかっこいいところがずるい
青
桃
青
桃
青
桃
桃
青
青
桃
青
桃
青
桃
青
今のさとみくんには何を言っても無駄だと察し、大人しく従う
仕方ない、そう、これは仕方ない
青
今度は戻さずに、胃に通すことができた
桃
青
桃
青
桃
青
青
桃
青
桃
青
桃
青
青
桃
桃
青
桃
青
青
桃
桃
青
桃
ガラガラガラッ
赤
青
ドアが勢い良く開いて、莉犬くんが飛び付いてくる
赤
肩を掴まれ、傍から見たら脅迫されているような形で心配される
青
赤
青
感謝の気持ちも込めて、抱きついてきた莉犬くんの頭を撫でると、
顔は上げなかったけれど、目立つ赤い尻尾がこれでもかと振られていた
黄
青
桃
橙
黄
コーチ
青
コーチ
桃
青
橙
青
黄
青
赤
青
コーチ
桃
コーチ
コーチ
コーチ
青
コーチ
コーチ
桃
橙
コーチ
桃
赤
黄
ピピピピッピピピピッ
青
ピピピピッピピピピッ
青
ピピピピッピピピピッ
青
ガンッ
青
ピーンポーン
ピーンポーン
ピピピピピーンポーン
青
青
桃
赤
橙
青
黄
青
全身から、血の気が引く感覚がした
桃
青
桃
赤
青
コーチ
桃
青
コーチ
コーチ
青
帰り道、涼を求めてファミレスに寄る
皆考えることは同じなのか、店内はそこそこ混んでいた
赤
黄
橙
赤
黄
青
桃
黄
ピーンポーン
るぅとくんがボタンを押すと、店内にチャイムが響く
少しして、店員さんが注文を取りに来てくれた
桃
青
桃
青
桃
青
青
赤
青
黄
橙
青
青
桃
青
青
桃
青
青
赤
青
赤
青
さっきまで味方してくれていた莉犬くんの思わぬ台詞に、情けない声が出る
橙
橙
黄
青
桃
青
桃
青
桃
青
桃
青
急に顎を掴まれる
桃
青
目の前にはさとみくんの暗い笑顔
ほんのさっきまでとの温度差に、冷や汗が背中を伝う
桃
青
桃
赤
黄
橙
桃
桃
桃
青
桃
赤
桃
黄
橙
赤
青
赤
青
橙
赤
黄
青
青
橙
青
ふと目に留まり、その存在を思い出したドリアをスプーンで突いてみる
折角トロトロに溶けていたチーズは、無駄話をしている内に固まっていた
僕が入部して、約2週間
練習試合など、本番を想定した練習にも、とっくに参加するようになった
汗を流した後は、皆でコンビニやファミレスに寄る
いつも通りの他愛ない話をして、騒いで。
着々と、運命の試合が近付いてきていた
赤
いつもの夕暮れ時の帰り道
独り言のように、急に莉犬くんがぽつりとこぼす
橙
黄
桃
珍しいさとみくんの弱気な姿に、皆目を見開く
青
頭より先に、口が動いた
皆の視線が、一気に僕に集まる
青
真っ赤な夕焼けの中
皆で視線を交わし
静かに頷き合った
青母
青母
青
ネクタイを巻いて、乱雑に散らばっているパーカーを掴んで腕を通す
青いユニフォームが覗く革製の鞄を掴み、玄関へ向かった
青
赤
桃
青
橙
橙
黄
橙
赤
橙
赤
通勤通学の時間帯よりも少し早いからか、バスはガラガラに空いている
全力疾走した後に目的の駅まで立っておく、なんてことにならなくて良かった
後部座席の3列を使い、皆で座る
特に誰も緊張はしていなくて、皆で普段通り声を上げて笑う
交通手段と時間帯以外は、至っていつもと変わらない普通の朝
次は〇〇駅、〇〇駅
かなり長かったであろう移動時間は、あっという間に過ぎた
窓の外に目をやれば、見たこともない街並みが広がっている
僕達の住んでいる地域よりも、よっぽど都会なようだ
青
桃
赤
橙
橙
黄
青
と、身体が横に傾く
音を立てて、バスが停車した
駅に着いたようだ
バスを降りると、むわっとした夏の終わりの生温い空気が顔を覆う
見上げれば、全面ガラス張りのビルが太陽の光を反射して眩しく輝いている
青
赤
青
会場についた僕達は早めの着替えを済ませ、コートの下見に来た
赤
実感がふつふつと湧いてきて、現実味のない感覚がしたとき
ふっと視界にりいぬくんが現れる
青
橙
青
?
少し間の抜けた声に、皆が振り返る
僕の身体は、本能的に動かなかった
全ての機関が止まった感覚がする
さーっと血の気が引いて、ようやく状況を理解できた気がした
できたらこのまま背中を向け続けられたら良かったのだけれど
意を決して、恐る恐る体をひねる
モブ(使い回し)
青
嫌な寒気がする
背中を冷や汗が伝い、胃が縮む感覚がする
自然と出てきた手の震えは止まらない
桃
桃
僕の異変に気付いてくれたのか、さとみくんが庇うように僕の前に立つ
まだ何も知らないはずなのに、さとみくんは彼らを睨んでいるように見えた
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
前に立つさとみくんの、少し汗に滲んだユニフォームの裾を掴む
青
モブ(使い回し)
青
正確に言えば違くないのかもしれない
それでも、今はもう友達じゃない
こんな風に、昔の友達として話せる仲でもない
それは確かだった
脳裏にこびりついて離れない記憶
ほんと最悪、呆れたわ
もう友達やめようぜ
あの日
関東大会優勝をかけた、運命の日
彼らは僕にそう告げた
忘れたくて、心の戸棚の奥底に押し込もうとしていた
いやにはっきりとした記憶
モブ(使い回し)
青
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
ぴくりと、前の大きな背中が動いた
裾を、より一層強く掴む
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
モブ(使い回し)
青
心臓がどくりと脈打った
去っていく背中
彼らの笑い声が脳内で反響する
さっき、数年越しに『友達』と言われたときにはなかった感覚
それはきっと
桃
青
橙
青
コーチ
コーチ
桃
桃
青
桃
黄
赤
青
赤
青
莉犬くんから受け取ったペットボトルの蓋をひねる
水を喉に流し込みながら考える
感じたことのないようなあの感覚
それはきっと、今僕の中に埋まっている種の存在を肯定されたから
元々はかけがえのないような友達であり、仲間だった
こんな関係に成り下がってしまったのは、僕の試合中のミスのせいだった
さとみくん、莉犬くん、るぅとくん、ジェルくん
皆を信頼してこそ、今の学校のバスケ部に入部した
けれど、『信じていた』なんて、彼らだって同じだった
「友達じゃない」
そう言えたのは、彼らから僕を突き放したから
でも、僕には彼らを責めることはできない
自身をどれだけ正当化したとしても、
僕が表彰台から彼らを引きずりおろした
その事実は、絶対に変わらないから。
怖いんだ
あの時と同じように、迷惑をかけてしまわないか
悲しい思いをさせてしまわないか
繋いだ手を、離されてしまわないか
キュ...
コートに、一歩足を踏み込む
あれから、真に生きている感覚がしなかった
頭の中で、色んなものがぐるぐると回る
時間が経てば経つほど募る、大きな不安
あの日の、僕に集まった蔑みの目
非難の言葉の数々
バンッ
急に、背中を力強く叩かれる
驚いて振り返れば、莉犬くんと目が合う
赤
青
赤
赤
優しく、僕に微笑んでくれる
相当先ほどのことが根に残っているらしく
見えない何かを殴るように拳を突き出す
青
試合開始のホイッスルが鳴る
初めは、ジェルくんの手にボールが渡る
ジェルくんを援護するように、4人で周りにつく
ジェルくんと莉犬くんの視線が交わった
それに気付いたのか、敵は莉犬くん側へ回る
が、実際にジェルくんがパスした先はるぅとくん
不意をつかれた敵は反応が遅れ、僕達のチームが先制点を取ることになった
試合開始から数分
僕達対相手の得点は1対2
彼らの自慢が実力相応なことは、昔隣にいた僕がい一番分かっている
大丈夫、まだ1点差に抑えられている
ボールを取られないよう上半身をひねる莉犬くんと目が合った
少し莉犬くんの目が鋭くなり、ボールが僕の手の中に収まる
ダンッ
力強い音を上げながら、ゴールへと向かって走る
と、
青
モブ(使い回し)
僕の左後ろを走っていた敵が、急に僕の目の前に現れた
ブレーキをかけることもできず、そのまま衝突する
それは客観的に見れば、僕からぶつかったように見える
彼らが故意にやったことだったのだろう
わざとらしく声を出しているが、微かに口角が上がっている
ストップがかかり、審判のジャッジが入る
青
僕達に出されたのはファウル
みんなが、言いたいことを無理矢理飲み込んだような顔をしていた
前半戦が終了した
フリースローによって広がった点数差をこれ以上広げないよう、
とにかく守衛に徹したことで、点数差を維持することができた
裏に戻っても、生きた心地がしない
額を汗が伝うのに、指先は凍るように冷たくて
頭がぐるぐる回って気持ちが悪い
震えが止まらなくて呼吸が乱れる
また、失敗してしまった
『失敗は誰にでもあるよ』
『ころちゃんは悪くないで』
『大丈夫だよ、気を取り直して後半頑張ろ?』
みんなが口を揃えてそう言ってくれるけれど、
反応して、ぶつかる前に止まれたんじゃないか
避けられたんじゃないか
また嫌われるんじゃないか
また独りになるんじゃないか
なんて考えが頭の中を占領していて
皆の声が届く由もなかった
重たい足を引きずりながら、再度コートへ入る
トンッ...
青
桃
他の皆にも言われたその一言
名前も呼ばず、ただその一言
大好きな人のその一言で
目の前の霧が晴れたように感じた
3対4で苺学園高校の勝利
よって優勝は...
苺学園高校です!!!
ワアァァァッ!!
場内に響く歓声
その声が意味することを理解するまで、数秒かかった
トンッ
また、優しく肩を叩かれる
桃
青
桃
青
表彰式が始まった
3位の高校、2位の高校
それぞれの表彰が終わった
そして、
僕達の番
青
急に後ろから背中を強く押され、よろける
振り返ると、笑顔の4人がいた
微笑む女性から、金色に輝くトロフィーを受け取る
疲れきった手にかかるずっしりとした重みは
ここに辿り着くまでの全てを背負っている気がした
さっき出し切ったはずの涙が溢れる
<ころん~!!!
<青柳さん~!!
観客席から、僕の名前を呼ぶ声がする
視線をそちらへ移せば、クラスのみんなが来てくれていた
なんだ、
世の中いい人たちばっかりじゃん
赤
青
悪意しかない笑顔で、莉犬くんがおだてる
黄
橙
青
赤
カラカラになるまで泣きじゃくって目が真っ赤に腫れ上がった今を
写真に写されたらたまったものじゃない
桃
青
桃
桃
モブ(使い回し)
青
モブ(使い回し)
青
モブ(使い回し)
青
青
モブ(使い回し)
キーンコーンカーンコーン
青
青
モブ(使い回し)
青
モブ(使い回し)
橙
青
青
桃
青
赤
黄
青
桃
橙
青
橙
赤
橙
桃
青
コーチ
コーチ
桃
コーチ
コーチ
コーチ
友人関係なんてものを、持ちたくはなかった
その気持ちを正当化するために「裏切られる」「損しかしない」
そう理由をこじつけてきた
でも本当は、ただ怖かった
大好きな人達が、自分から離れていくことが
当たり前だと思っていた隣の存在が、消えてしまうことが
もう二度と、あんな思いはしたくなかった
でも、
でも彼らは、「それでもいい」
そう思わせてくれた
もちろん、離れていってしまうのは嫌
だけど
たとえこれから先裏切られたって、彼らのことを好きでい続けられる
そう胸を張って言えるくらい、大好きな存在
もう、あの夢は見なくなった
もう今は、怖くない
不安だけど、怖くはない
いつも隣には
桃
赤
黄
橙
彼らと
君がいるから。
はい、お疲れ様でした
めちゃくちゃ長いお話になりましたね、最後まで読んでくれてありがとう
2066タップ、100シーンでした
めちゃくちゃ時間をかけて書いたので、一部矛盾してたりするところがあるかもしれないし、
バスケの知識全くないので(何故書いた)
バスケ経験者から見たら「...???」みたいなところいっぱいあると思うんですけど、許してくださいごめんなさい(T-T)
めちゃくちゃ遅刻してしまったけれど
改めて、1周年ありがとう
ふぁぃを見つけてくれてありがとう
こんな変な奴ですが、これからもよろしくお願いします!!
過去一頑張ったからハート沢山くれると嬉しいです(ᎢᎢ )
コメント
127件
ブクマとフォロー失礼します! めっちゃ神作品を見つけてしまった、、
当方の垢が消えてしまいずっと探していました。何度読んでも大好きです、改めてブクマ失礼します。
ブクマ失礼します!🫶🏻 ほんとこの作品大好きすぎて何回も見てしまいます🥲👊🏻