逃げてしまおうか
どこか遠くへ
珍しくいたずらっ子のような口調の彼は、 寂しさの拭い切れない笑顔で呟いた
いふ
いふ
悠佑
悠佑
笑顔のまま、頬杖をついて窓の外を眺めている
いふ
いふ
いふ
悠佑
いふ
いふ
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
振り向いた目には涙が溜まっていて、俺は少なからず驚いた
悠佑
数秒の沈黙
彼が言葉を続けなかった
それは、 彼の皇太子としてのプライドからか、 はたまた奴隷であったいふの前で贅沢を言えないと思ったのか
それ以外に理由があるのかも
いふには想像がつかなかった
わかるのは、明日の朝を迎えれば悠佑が手の届かないところに行ってしまうこと
それだけだ
いふ
いふ
言いかけた言葉を飲み込む
彼は、明日、 昔ともに遊んだ幼馴染でも、 長年の片思いの相手でもなくなる
王としていふを使役する身になるのだ
いふ
いふ
当然王となれば女性を娶り、子を為さねばならない
悠佑に気持ちを伝えたところで、いふを待つのは不貞の輩として裁かれる運命だけだった
悠佑
いふの気持ちを知ってか知らずか、 ぽつんと呟かれたそれは、
誰に向けた言葉か
耐えられなくなったいふは部屋を出た
背中に視線を感じたが、無視して走り去った
悠佑は引き止めなかった。
街を包んでいた闇に、朝の光が差し込もうとしていた
𝐹𝑖𝑛.
コメント
2件