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桃橙
OD
名前伏せないです
ドアを開けた瞬間、むっとするような 薬のにおいが漂ってきた
見慣れた部屋の空気が、どこか異様に重い
胸の奥がざわつく感覚に背中が冷える
ベッドの上、ジェルは乱れたシーツの上に 横たわり、力なくこちらを見ている
顔色は土気色で、汗に濡れた 前髪が額に張り付いていた
掠れた声 普段の快活さはどこにもない
彼の視線はどこか泳いでいて、 こちらを捉えているのかさえ曖昧
ベッドに駆け寄ると、サイドテーブルには 飲み干されたペットボトルと散乱した薬の殻
状況を理解した瞬間、 心臓が凍りつくように跳ね上がった
ジェルは、口元を歪めて笑った
けれど、それは笑顔というよりも 顔の筋肉が勝手に動いたみたいに不自然だった
声はとぎれとぎれで、ろれつが回らない
まぶたは重そうに半分しか開かず、 白目の部分が赤く充血していた
ふらつく手がシーツを掴もうとするが、 力が入らずすべり落ちる
肩を揺さぶると、彼の体はぐにゃりと 沈み込むように倒れかかってきた
おれは慌てて支える
その体は熱いような冷たいような、 汗でぐっしょり濡れていて、 心地よい温度ではまったくなかった
目を閉じようとするジェルの頬を叩く
しげに呟いたかと思うと、急に喉が 痙攣するように動き、胃の内容物がこみ上げてきた
慌てて体を横向きにさせる。 嘔吐とともに独特な匂いが部屋に広がった
背中をさすりながら必死で声をかける
吐き終えたジェルはぐったりして、 呼吸は浅く、喉から濁った音が漏れ続けていた
脈を取る。指先で触れるそれは、不規則で弱々しい
最悪の事態が頭をよぎり、手が震える
スマホを掴んで番号を押す。 コールの間にも、ジェルの意識はどんどん遠のいていく
小さな声が喉の奥から漏れた
目は虚ろで焦点が合わないのに、 その言葉だけは確かにおれを呼んでいた
か細い声
まぶたは閉じかけて、 今にも消えてしまいそうな命の灯
涙で視界が滲んでも、 声だけは震えないように必死に張り上げた
通話口から救急隊員の声が聞こえてくる
必死で状況を説明しながら、 ジェルの手を握りしめる
冷たくなりかけたその手を、 何度も擦って温もりを取り戻そうとする
応答のないジェルの胸が、かすかに上下する
その弱い呼吸音だけを頼りに、 救急車のサイレンが近づくまで、ただ必死に呼び続けた