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今年もバレンタインがやってくる。

私の役目が、 望んでもいない私の仕事が今年も始まる。

女子生徒1

誰にチョコ渡す?

女子生徒2

そりゃあ、学年トップのイケメン、リュウキ君!

女子生徒1

頭が良くて、性格も良くて、それにイケメン。絶対ライバル多いよねえ

とある高校の教室から、 女子達の話し声が聞こえる。

私はホウキに乗り、 とんがり帽子を目深に被る。

『魔女』である私、 赤上千代子は情報を模索する。

千代子

女子達の狙いは大体一緒ね。さて、この中から『本命』を見つけないと

ショコラ

ちよこ! 僕も手伝う!

肩からぶら下げたポシェットから出てきたクマのぬいぐるみ、 みたいな奴は私の相棒『ショコラ』だ。

私は上手くこの高校の生徒になりすまし、 教室の隅にこっそりショコラを置いて、 様子を見ることに。

千代子

じゃあ、いつも通りよろしく

二つに束ねた赤い髪を揺らしながら、 私は他の教室へと情報収集に向かう。

私の狙いは、 簡単に言えば『本命チョコ』を渡したい女子。

適当に選べば、 無駄な仕事が増えてしまう。

そうならないための相棒ショコラと、 私の観察眼。

千代子

あれは、噂のリュウキ君とやらかな?

大人しめな女子と、 噂の男子。

恋仲というわけではなさそうだが、 男子の優しい笑顔に、 その女子はうっとりしているように見える。

リュウキ

その、最近は大丈夫?

アカリ

う、うん。ありがとうリュウキ君。でも、あまり私と一緒にいると、悪い噂、立っちゃうよ

リュウキ

そんなの気にすんなよ。俺はアカリの味方だから、いつでも頼れよ

ある程度会話を交わした男女は解散した。

私はアカリという女子の後を追い、 様子を伺っていると、 人気のない場所で小包を取り出し、 悲しそうな顔でそれを見つめている。

千代子

それ、リュウキ君に渡すチョコレート?

アカリ

だ、誰? 見かけない顔……だね

千代子

私は魔女、バレンタインの魔女

アカリの顔を見る限り、 やっぱり信じてはいないようだ。

アカリ

冗談か何か?

千代子

別に信じなくてもいいわよ。それより、あなたにとっておきのプレゼントをあげるわ

アカリ

それは……チョコレート?

私はポシェットから、 透明の小箱に入ったハート形のチョコレートを取り出した。

千代子

これをリュウキ君に渡して、食べてもらえたら、きっとリュウキ君はあなたのことを好きになるわ

アカリ

あ、えっと……大丈夫?

千代子

やっぱり駄目ね。あなたには信念が足りないもの。まあ、要らないならいいわ。その本命チョコ、あのクズに渡せるといいわね

信じない者に私の『特別な』チョコを渡しても、 捨てられるのがオチ。

もっとターゲット選びは慎重にならなくちゃ。

私がその場を立ち去ろうとした瞬間、 アカリは私の服の裾を掴み、 震えた声で呼び止める。

アカリ

い、今なんて……

千代子

あのクズ、リュウキ君に渡せるといいわね、って言ったのよ。聞こえなかった?

アカリ

リュウキ君はいい人だよ! クズだなんて、何も知らないくせに!

アカリは凄い剣幕で私を睨んでいる。

千代子

何も知らないのはあなたの方よ? あの瞬間だけが本性だなんて、まさか本気で思い込んでるの?

アカリ

魔女とかふざけたこと言っている人の言うことなんて……

千代子

これだからお堅い子は嫌いなのよ。じゃあ、これ

私は手鏡をアカリに渡す。

アカリ

何、これ……

千代子

いいから、これに映し出される真実を、目に焼き付けなさい

不満そうなアカリに無理やり手鏡を覗き込ませ、 私は様子を見る。

私が持っている手鏡は『映す』もの。

ショコラが持っている手鏡は『写す』もの。

つまり、ショコラの手鏡に『写った』光景が、 私の手鏡に『映る』しくみになっている。

派手な女子

ねえ、なんでアカリに優しくすんの?

リュウキ

あー、別に? 暇つぶしだよ

鏡に映し出されたのは、 リュウキと派手な女子との会話。

誰もいない教室でくっつきながら、 アカリについて話しているようだ。

派手な女子

何それ、私がいるじゃーん

リュウキ

本命はもちろんお前だよ。今何人女子落とせるか試してるだけ。そしたらさ、やけに食いつきいいんだわ。アカリって意外と従順で、実際付き合わなくてもワンチャンいける、的な?

ほーらほら、クズな本性が丸わかり。

アカリの表情は、 どしゃ降りという感じに崩れていく。

アカリ

こんなの、私のリュウキ君じゃない……

千代子

そもそも、あなたのじゃなかったみたいだけど

アカリ

あの日……家に誘ってくれたのは……

そうだ、面白いことを思いついた。

千代子

いっそのこと、本当にあなたのものにしてみる?

私はもう一度、 あのチョコレートをアカリの目の前に出す。

アカリ

これ、これがあればリュウキ君は私を好きになってくれる……?

千代子

もちろん。さあ、夢を叶える準備は出来たかしら

アカリは一心不乱に私のチョコを受け取り、 リュウキの元へと走っていった。

千代子

あーあ、面白い

心の中で笑いが止まらない。

そこまでしてあのクズ男を手に入れたい理由が、 私には分からない。

放課後、 教室に置いてきたショコラを迎えに行き、 情報整理をする。

ショコラ

ちよこ! 上手くいった?

千代子

私の方はばっちり。ショコラはどう?

ショコラ

僕もばっちり! まず、ちよこが見つけた『本命』に会いに行こうよ!

ちょっと強引に渡してしまったけれど、 結果はどうかな。

狂った愛の見返りは、 どんなものだろう。

アカリ

リュウキ君、これ、受け取って

リュウキ

もしかしてアカリの手作り? ありがとう

アカリ

い、今食べてもらえると嬉しいな……

噂をすれば、 アカリは無事にチョコレートを渡せたようだ。

リュウキ

今? まあ、いいけど。いただきます

アカリ

これで、リュウキ君は私の……

あーあ、食べちゃった。

リュウキ

お、美味しい……! こんなチョコレート初めてだ!

派手な女子

あれ、リュウキとアカリ? こんなところで何やってんの?

教室に入ってきたのは、 さっきリュウキと話していた、 リュウキの本命の女子だ。

アカリ

もうリュウキ君は私のもの。あなたなんか眼中にない

派手な女子

は? 何言ってんの? リュウキ、アカリに本当の事言ってあげなよ

これから、修羅場が始まる。

リュウキ

俺は、俺はアカリが好きだ! もうアカリの事しか考えられないんだよ!

派手な女子

リュウキ? あんたまで何言って……

リュウキ

アカリ! こいつは放っておいて、俺と一緒に行こう!

リュウキはアカリの手を引っ張り、 無理やり連れだしてしまった。

派手な女子

な、何あれ……ん? これチョコレート? 何あいつ、私だってチョコレート用意したのに!

千代子

面白いことになっちゃったねえ

派手な女子

あんた、急にどこから……

派手な女子は、 いきなり姿を現わした私に驚いている。

私の魔女服は、 帽子を被ると普通の人間には姿が見えなくなる。

千代子

私は魔女、バレンタインの魔女

派手な女子

ふざけてんの……?

千代子

もうリュウキ君は戻ってこれないね。重たい愛に、沈められちゃったから

思っている以上に効果があったみたい。

私自身、ここまでとは思っていなかった。

私のチョコレートは、 渡した相手に好意を持たせることが出来る。

その効果は、 相手への想いが強ければ強いほど増幅する。

派手な女子

重たい愛? 益々何言ってるか分かんないんだけど

千代子

分からなくてもいいわよ、私は面白いものが見れて満足だから。あ、でも、もう少し面白くしてみようかしら

派手な女子

何、意味わかんない……

私はアカリに渡したものと同じチョコレートを、 この女子にも渡すことにした。

千代子

これ、リュウキ君に渡して食べてもらえれば、あなたのもとに戻ってくるかもね

派手な女子

それ本当?

千代子

あら、意外と物分かりがいいのね。愛が強いのはどっちかしら

派手な女子はチョコレートを受け取り、 リュウキ達を追って教室を出ていく。

私は学校外に出たリュウキとアカリの様子を、 ホウキに乗って見に行く。

リュウキ

アカリ、俺はひと時も離れたくない

アカリ

で、でも、もう帰らないと……

リュウキ

望んでたじゃないか! 俺のことが好きじゃないのか?

狂った愛がチョコレートに移ったことで、 アカリでも制御できないくらいになっている。

私は手に持っていた、 懐中時計についているボタンを押した。

アカリ

わ、私、そんなつもりじゃ……ただ、普通に好きになってほしくて……

千代子

あらあら、あなたが望んだ愛よ? そんなこと言ったら、リュウキ君が可哀そうじゃない

アカリ

ま、魔女? あれ、リュウキ君どうしちゃったの?

私とアカリ以外の時間が、 ぴったりと止まっている。

千代子

私が止めたのよ。私とあなた以外の時間をね

アカリ

お願い……! リュウキ君を元に戻して!

千代子

どういう心変わりかしら。私、あなたのためにチョコレートをあげたのに。リュウキ君はちゃんとあなたの事だけを見ているわよ?

アカリは私の言葉を聞くなり、 ボロボロと泣き始める。

アカリ

間違ってた……こんなの、リュウキ君じゃない……

千代子

残念ね。いいわよ、じゃあ、リュウキ君にこう言いなさい

私はアカリの耳元で囁くと、 止まっていた時間を動かし、 その場を去る。

せっかく面白いものが見れたのに、 本当に残念。

今年のバレンタインが終わる。

望んでいない私の仕事が終わる。

ショコラ

ねえ、ちよこ。どうして魔法の解き方教えちゃったの?

千代子

それはね、あの子が真実に気づいたからよ

チョコレートに込められた恋の魔法を解く、 それは渡した本人にしかできない。

ショコラ

大事な『本命』が『義理』になっちゃった

千代子

バレンタインの恋なんて、そんなものよ

魔法を解く方法、 それは、渡した本人が相手に、 このチョコは『義理』だと伝えること。

そうすれば、 全ては幻想に終わる。

ショコラ

僕、頑張ったのに

千代子

そうね。でも、ノルマは達成できたじゃない

誠実な恋、真実の愛、純粋な恋愛。

それを叶えるために私たちはいる。

私が得られなかった成功を、 皮肉にも魔女として他人に与えるなんて、 こんな仕事は苦痛でしかない。

ショコラ

うん! 頑張ったからね!

私はショコラの頭を優しく撫でる。

私を魔女に誘い込んだ、 憎い憎いクマのぬいぐるみ。

ショコラは嬉しそうだ。

千代子

ショコラはいい子ね

私の気持ちなど知らずに、 言葉通りに受け取るショコラ。

ああ、この地獄が早く終わりますように。

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