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今年もバレンタインがやってくる。
私の役目が、 望んでもいない私の仕事が今年も始まる。
女子生徒1
女子生徒2
女子生徒1
とある高校の教室から、 女子達の話し声が聞こえる。
私はホウキに乗り、 とんがり帽子を目深に被る。
『魔女』である私、 赤上千代子は情報を模索する。
千代子
ショコラ
肩からぶら下げたポシェットから出てきたクマのぬいぐるみ、 みたいな奴は私の相棒『ショコラ』だ。
私は上手くこの高校の生徒になりすまし、 教室の隅にこっそりショコラを置いて、 様子を見ることに。
千代子
二つに束ねた赤い髪を揺らしながら、 私は他の教室へと情報収集に向かう。
私の狙いは、 簡単に言えば『本命チョコ』を渡したい女子。
適当に選べば、 無駄な仕事が増えてしまう。
そうならないための相棒ショコラと、 私の観察眼。
千代子
大人しめな女子と、 噂の男子。
恋仲というわけではなさそうだが、 男子の優しい笑顔に、 その女子はうっとりしているように見える。
リュウキ
アカリ
リュウキ
ある程度会話を交わした男女は解散した。
私はアカリという女子の後を追い、 様子を伺っていると、 人気のない場所で小包を取り出し、 悲しそうな顔でそれを見つめている。
千代子
アカリ
千代子
アカリの顔を見る限り、 やっぱり信じてはいないようだ。
アカリ
千代子
アカリ
私はポシェットから、 透明の小箱に入ったハート形のチョコレートを取り出した。
千代子
アカリ
千代子
信じない者に私の『特別な』チョコを渡しても、 捨てられるのがオチ。
もっとターゲット選びは慎重にならなくちゃ。
私がその場を立ち去ろうとした瞬間、 アカリは私の服の裾を掴み、 震えた声で呼び止める。
アカリ
千代子
アカリ
アカリは凄い剣幕で私を睨んでいる。
千代子
アカリ
千代子
私は手鏡をアカリに渡す。
アカリ
千代子
不満そうなアカリに無理やり手鏡を覗き込ませ、 私は様子を見る。
私が持っている手鏡は『映す』もの。
ショコラが持っている手鏡は『写す』もの。
つまり、ショコラの手鏡に『写った』光景が、 私の手鏡に『映る』しくみになっている。
派手な女子
リュウキ
鏡に映し出されたのは、 リュウキと派手な女子との会話。
誰もいない教室でくっつきながら、 アカリについて話しているようだ。
派手な女子
リュウキ
ほーらほら、クズな本性が丸わかり。
アカリの表情は、 どしゃ降りという感じに崩れていく。
アカリ
千代子
アカリ
そうだ、面白いことを思いついた。
千代子
私はもう一度、 あのチョコレートをアカリの目の前に出す。
アカリ
千代子
アカリは一心不乱に私のチョコを受け取り、 リュウキの元へと走っていった。
千代子
心の中で笑いが止まらない。
そこまでしてあのクズ男を手に入れたい理由が、 私には分からない。
放課後、 教室に置いてきたショコラを迎えに行き、 情報整理をする。
ショコラ
千代子
ショコラ
ちょっと強引に渡してしまったけれど、 結果はどうかな。
狂った愛の見返りは、 どんなものだろう。
アカリ
リュウキ
アカリ
噂をすれば、 アカリは無事にチョコレートを渡せたようだ。
リュウキ
アカリ
あーあ、食べちゃった。
リュウキ
派手な女子
教室に入ってきたのは、 さっきリュウキと話していた、 リュウキの本命の女子だ。
アカリ
派手な女子
これから、修羅場が始まる。
リュウキ
派手な女子
リュウキ
リュウキはアカリの手を引っ張り、 無理やり連れだしてしまった。
派手な女子
千代子
派手な女子
派手な女子は、 いきなり姿を現わした私に驚いている。
私の魔女服は、 帽子を被ると普通の人間には姿が見えなくなる。
千代子
派手な女子
千代子
思っている以上に効果があったみたい。
私自身、ここまでとは思っていなかった。
私のチョコレートは、 渡した相手に好意を持たせることが出来る。
その効果は、 相手への想いが強ければ強いほど増幅する。
派手な女子
千代子
派手な女子
私はアカリに渡したものと同じチョコレートを、 この女子にも渡すことにした。
千代子
派手な女子
千代子
派手な女子はチョコレートを受け取り、 リュウキ達を追って教室を出ていく。
私は学校外に出たリュウキとアカリの様子を、 ホウキに乗って見に行く。
リュウキ
アカリ
リュウキ
狂った愛がチョコレートに移ったことで、 アカリでも制御できないくらいになっている。
私は手に持っていた、 懐中時計についているボタンを押した。
アカリ
千代子
アカリ
私とアカリ以外の時間が、 ぴったりと止まっている。
千代子
アカリ
千代子
アカリは私の言葉を聞くなり、 ボロボロと泣き始める。
アカリ
千代子
私はアカリの耳元で囁くと、 止まっていた時間を動かし、 その場を去る。
せっかく面白いものが見れたのに、 本当に残念。
今年のバレンタインが終わる。
望んでいない私の仕事が終わる。
ショコラ
千代子
チョコレートに込められた恋の魔法を解く、 それは渡した本人にしかできない。
ショコラ
千代子
魔法を解く方法、 それは、渡した本人が相手に、 このチョコは『義理』だと伝えること。
そうすれば、 全ては幻想に終わる。
ショコラ
千代子
誠実な恋、真実の愛、純粋な恋愛。
それを叶えるために私たちはいる。
私が得られなかった成功を、 皮肉にも魔女として他人に与えるなんて、 こんな仕事は苦痛でしかない。
ショコラ
私はショコラの頭を優しく撫でる。
私を魔女に誘い込んだ、 憎い憎いクマのぬいぐるみ。
ショコラは嬉しそうだ。
千代子
私の気持ちなど知らずに、 言葉通りに受け取るショコラ。
ああ、この地獄が早く終わりますように。
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