もし、過去の自分に一度だけメッセージを送れるとしたら
それは、今だろう
死んでも国語の教科書だけは忘れるな
そう伝えたい
無論、そんなのは仮想の話で、なんの滞りもなく授業は進行して行く。
「みんな、ちゃんと国語の教科書は準備してるか?音読するぞー」
今の僕にとっては、先生の声が死刑宣告よりも重々しく残酷に感じられる
ゾーヤ
そんな僕の気持ちなんて気にもせず、ゾーヤは口元を緩ませながらこちらに教科書を半分だけ差し出してくる。
仕方なく、教科書を片側ずつ持って覗き込む。
「今は昔竹取の翁というものーー」
揃っているのか揃っていないんだか不明なやる気のない音読
別に、僕一人読まなかったところで、何も変わるまい。
僕は教科書から顔を外し、ゾーヤとの距離を確保する。
ゾーヤ
ゾーヤは音読をやめ、ほぼ吐息と同義なほどに小さな声で話しかけてきた。
カナタ
僕もヒソヒソと返事をする。
ゾーヤ
カナタ
ゾーヤ
カナタ
何をするかと思えば、ゾーヤは僕の肩に手を回して抱き寄せてきた。
ゾーヤの体温がじんわりと伝わってくる。
ゾーヤ
ゾーヤ
それだけ言うと、ゾーヤは音読を再開し始めた。
甘い香りがふわりと漂ってくる。
心臓の音が煩わしい。
カナタ
そう呟いた僕の声はみんなの音読の声に掻き消されるのだった。
コメント
2件
授業中にまで見せつけてくるとは流石ですね。そしてカナタくんはやっぱりかわいいです。
毎回カナタ君の反応がかわいすぎます。これ絶対授業中にイチャイチャしてるのバレてますね。後で弄られそうですね