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磯野家は、今日も変わらない日常を刻んでいた。
食卓を囲む家族の声、茶の間のテレビから流れる陽気な声。
すべてが穏やかで、平凡な毎日。
だが、小学5年生の磯野カツオにとっては、その平凡さが少しばかり退屈でもあった。
野球をしても、イタズラをしても、どこか物足りない。
もっと何か、胸が躍るような出来事が起こらないかと、漠然と空を見上げる日々だった。
その日は、いつもと何も変わらない放課後だった。
ランドセルを背負い、クラスメイトと駄菓子屋に立ち寄り、いつものように家路につく。
カツオ
玄関の引き戸を開け、いつものように声をかけたが、返事はない。
いつもならサザエかフネ、あるいはワカメの「おかえりなさい」という声が聞こえるはずなのに、家の中はしんと静まり返っていた。
皆、買い物にでも出かけたのだろうか。
ふと足元に目をやると、玄関の隅に段ボール箱が一つ、ぽつんと置かれているのが目に入った。
送り主も宛名も書かれていない、何の変哲もない段ボール箱だ。
カツオ
首を傾げながら段ボール箱に近づき、中を覗き込む。
緩衝材の隙間から見えたのは、古びた一冊の書物だった。
手に取ってみると、ずっしりとした重みがある。
装丁は黒く、所々に謎の紋様が刻まれている。
埃をかぶった表紙には、古めかしい文字で「キル・ブック」と記されていた。
その本を手に取った瞬間、カツオの全身がまばゆい光に包まれた。
あまりの眩しさに目を閉じ、次に目を開けた時には、光は消えていた。
しかし、異変は起きていた。
右手の甲に、見覚えのない奇妙なマークが浮かび上がっている。
まるで火傷の痕のように皮膚に刻まれたそのマークは、カツオの心を不安にさせた。
さらに奇妙なことが起こった。
手にした「キル・ブック」を開いてみる。
書かれている文字は、これまで見たこともない記号の羅列で、本来なら意味など理解できるはずもない。
しかし、なぜかカツオには、そこに書かれている内容が不思議と頭に入ってくるのだ。
そこに書かれていたのは、恐ろしい命令だった。
「右手を前に出し、こう唱えろ。」
そして、その下に記された呪文らしき言葉。
『ガルデノ・バルキ』。
カツオは、まるで何かに引き寄せられるように、書かれている通りに右手を前に突き出し、呪文を口にした。
カツオ
その言葉が響いた瞬間、尋常ではないことが起こった。
家の窓ガラスが激しく震え、隣家からは轟音のような悲鳴が聞こえる。
カツオの視線の先、11軒先の家々が、まるで巨大な竜巻にでも襲われたかのように、跡形もなく破壊されていたのだ。
轟音と共に舞い上がる土煙、破片が飛び散る光景は、まさに悪夢のようだった。
カツオ
あまりの出来事に、カツオは言葉を失った。
たった今、自分が口にした言葉が、信じられない現象を引き起こしたのか?
恐怖と混乱がカツオの心を支配する。
カツオが呆然としていると、背後から澄んだ声が聞こえた。
???
???
慌てて振り返ると、そこには目を疑うような存在が立っていた。
丸く大きな頭に、細い手足。全身を覆うきらめく銀色の皮膚。
まるでSF映画から飛び出してきたような、宇宙人然とした謎の生命体だった。
カツオは反射的に大声をあげた。
カツオ
しかし、その生命体は落ち着いた声でカツオに語りかけた。
???
彼は優雅な仕草で一礼し、自らの名を告げた。
ザ・スターJr