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律
沙希
いつの間にか、律はそこにいた。 いつもと違って、暗い顔をしていて。 4日ぶり、あの喧嘩した日以来。 謝らなきゃ、そう思った私より早く律が口を開いた。
律
沙希
ごめん、の言葉より先に律に話しかけられたせいか、私の口からは素っ気ない返事が飛び出す。 そんなこと言いたいわけじゃないのに。
律
律の言いたいことが分かる。 今日は、死んでちょうど・・・
律
沙希
・・・誰かから聞いたことがあった。 49日というのは、重要な節目。 それは生きている人だけでなく、生きていない人も同じ。
沙希
律
今まで聞いたことがない、律の声。 眉をひそめて、歯をかみ締めて、泣きそうな、辛そうな律の顔。 なんでそんな顔をするの?
沙希
律
律の言葉に胸がざわつく。 聞きたくない、と遮る前にゆっくりと律の口が開く。 反射的に止めようと律に伸ばした手が
律
・・・律の体を、すり抜けた
沙希
律
真っ赤に染まった綺麗な夕焼け。 屋上は老朽化が進んでいるから入ってはいけない、とは言われていた。 けれどどうしても、律と夕陽を見たくて。
律
沙希
日が落ちるまで待てなかったのか、パラパラと細かい水滴が落ちてくる。けれどくすむことは無く萌える夕焼けにもう少しだけここで、なんて思わせる。そして鮮やかな紅い空は不思議とノスタルジックな気分もつれてくる。 それは律も同じだったみたいで、ふとあった視線が絡んで離れなくなる。
律
沙希
律
沙希
嬉しくて、嬉しくて。 この先も一緒にいたいって律が思ってくれてたのが、泣きそうなぐらい嬉しくて。
律
・・・拙い、拙い恋。 でも、不確かな未来とか、淡雪のように積もった不安とか感じなくなるくらいに私は律が好きだった。 真っ赤な顔で、雨に濡れながら私に手を差し出す律が、大好きだった。
沙希
律
沙希
潤んだ目を誤魔化すように軽く拭って、改めてその手を握り返そうと目を開いた時
沙希
律の姿は、消えていた
私が状況を知るより先に
何か固いものがぶつかる衝撃音がして
悲鳴
沙希
私を引っ張ってくれた、あの優しい手が
ずっと下で、真っ赤にひしゃげていた
沙希
悲鳴
悲鳴
誰の、私の
絶叫
沙希
思い、出してしまった あの日、屋上で、律が少しだけ寄りかかった鉄柵が折れて
律は、落ちて
助からなかったんだ
沙希
律
沙希
律
沙希
律
伸ばされた手は私の頬をすり抜ける。 それを見た律は僅かに目を細めた。
律
律
死んだのは、私
律
私は、そう思いたかった
私が生きて律が死んだなんて、耐えられなかった
律
律
律
律
沙希
ぼろぼろと、あの日出し切れなかった涙が零れる。 分かっていた、分かっていたんだ。
それでも、認めることなんてできなかった
沙希
律
沙希
律は、困ったように笑うだけ。
律
沙希
律
沙希
律
律
沙希
律
律
律が笑う。 あの日、屋上で私に手を差し出した時のように、はにかんだ、優しい、宝物みたいな顔で。
律
自信なんてない。 律のいない日常を想像も出来ない。 でも、頷いた。
沙希
律
私が泣き出す前に、と言うように律は明るく手を振って背を向ける。 陽が真っ赤に照って、ゆっくりと沈んでいく。
沙希
私の声に律が振り向く。 あの日の律に負けないくらい、私も笑ってみせる。
沙希
私の言葉に律は一瞬目を丸くして
そのあと、「待ってる」と笑顔で言った。
そして陽が落ちて
そこにはもう、何も無かった
沙希
沙希
さよなら、律。 私の、大好きなひと。
由香里
沙希
あの日から、1週間が経った。
由香里
あの後、私の声を聞いた由香里が駆けつけてくれて、先生にこっぴどく叱られた。
沙希
屋上に隠したままだった律の鞄も律の家族に返すことが出来た。 身勝手に隠したのは私なのに、律の家族は私を許してくれた。
由香里
あの日から、とめどなく日常は動いている
由香里
沙希
由香里
沙希
由香里
由香里は、あの後も私のそばに居て、何かと気にかけてくれている。
私が思ったより前向きに過ごせているのは由香里のおかげだ。
沙希
由香里
沙希
今度、律のお墓参りに行きたいと思う。
先生と親に泣きながら怒られたこと
律の家族が、すごく温かくて優しい人たちだったこと
親友ができたこと
たくさん、伝えたいことがある。
沙希
これは私の、一生忘れられない恋の話。