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チャイムが鳴る少し前、水城は窓際の席で教科書を閉じた。 外はまだ寒い。校庭の端に、溶け残った雪がある。

久瀬恒一(くぜこういち)

水城、これ

声がして顔を上げる。先生だった。プリントを一枚、机に置く。

久瀬恒一(くぜこういち)

提出、昨日までだろ。忘れてたら今日でいい

水城晴人(みずきはると)

……ありがとうございます

授業が始まる。 久瀬の声は、いつも通り落ち着いている。 板書のチョークが黒板を擦る音が、一定のリズムで続く。

久瀬恒一(くぜこういち)

じゃあ、この一文。意味わかる人

誰も手を挙げない。 少し間があって、久瀬が水城を見る。

久瀬恒一(くぜこういち)

水城

水城晴人(みずきはると)

……比喩です。季節の移ろいで、気持ちの変化を表しています...。

久瀬は頷いた。それだけ。 でも水城は、それで息が楽になる。

休み時間。 水城は咳を一つして、席を立つ。

久瀬恒一(くぜこういち)

保健室?

背中から声が飛ぶ

水城晴人(みずきはると)

……はい

久瀬恒一(くぜこういち)

無理するよ、戻れそうになかったら、そのまま帰っていいぞ

水城晴人(みずきはると)

...ありがとうございます

午後の授業が終わる

久瀬恒一(くぜこういち)

水城

久瀬恒一(くぜこういち)

顔色が朝より悪いな..今日はもう帰れ

水城晴人(みずきはると)

...はい

少し間が空く

水城晴人(みずきはると)

...先生

久瀬恒一(くぜこういち)

ん?

水城晴人(みずきはると)

先生は、春、好きですか?

唐突だった 久瀬は一瞬、言葉を探す

久瀬恒一(くぜこういち)

……嫌いじゃない

水城晴人(みずきはると)

...そうですか

水城はそれ以上言わず、鞄を持って教室を出た

黒板には、今日の日付と、短い一文が残っている

︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎

――春は、まだ遠い

︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎

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