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わたしの線香

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わたしの線香

1 - わたしの線香

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2022年08月20日

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篠宮 涙

ごめ、ん、ね。

私は事故にあってしまった。

事故にあってから数日が立つ。

いまだに目は冷めない。

少しづつ死に向かっているのだと、

弱まる呼吸、動かない体が私に知らせてくる。

死なないでと、絶望しながら言うあなたを愛してた。

私の手を痛いほど握るあなたの手の熱さ。

生きて、と辛くなるほどあなたの祈る手を、

握れない私の弱さ。

鈍い音がした。

篠宮 涙

ゲホッ、ガハッ

自分が事故にあったのだと気づくのに時間がかかってしまった。

のどに詰まった血が、外に出ていく。

咳をして、溜まった血を吐く。

まだ、あなたに恋心を伝えられていないのに。

吐いた血が、服に、肌に、髪の毛に飛び散る。

そこで気づいたの。気づいてしまったの。

『事故にあったのだ』と。

私の線香、あなたがあげてね。

私は死んでしまうの。それを受け入れて。

あなたが、伝えてくれた気持ちを返せずにいてごめんなさい。

もうすぐ死んでしまう。

明日はお通夜だよ。

たった数時間、されど数時間。

あなたなら、受け入れてくれるでしょう?

だから、お通夜に来てね。

生きるのを諦めたわけじゃない。

でも、どんなに頑張っても力尽きてしまう。

耳鳴りがするほどのブザー音の中、

あなたの息を止めた音が聞こえた気がしたの。

私が入院しているときに、

真摯に私を見つめていた目が、

私のせいで閉じ切ってしまった。

入院していた時に、私が起きるのを、見るのもつらくなるほど祈る手が、

必死に握っていた手が、

今では、力なくぶらついている。

あなたが必死に祈るその、燃える様な愛が嬉しかった。

あなたに伝えられはしなかったけれど、私もあなたをひっそりと愛してた。

あなたに伝えたい言葉、気持ち、愛は死んでしまっては伝えられはしない。

どんなに聞こえてほしいと願っても聞こえない。

ねぇ、線香、あげてよ。

「さようなら」じゃないから。

線香をあげる、それだけで心を通わせられるのだから。

あなたに、「愛してる」を伝えたいから。

偶には会いに来て、お墓参りという形で。

私からあなたに会うことはできなくても、

あなたから私に会いに来ることはできるのだから。

だから泣かないで。

今の姿じゃ、あなたの涙をもうぬぐってあげられないの。

あなたの嗚咽すらも愛してる。

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