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篠宮 涙
私は事故にあってしまった。
事故にあってから数日が立つ。
いまだに目は冷めない。
少しづつ死に向かっているのだと、
弱まる呼吸、動かない体が私に知らせてくる。
死なないでと、絶望しながら言うあなたを愛してた。
私の手を痛いほど握るあなたの手の熱さ。
生きて、と辛くなるほどあなたの祈る手を、
握れない私の弱さ。
鈍い音がした。
篠宮 涙
自分が事故にあったのだと気づくのに時間がかかってしまった。
のどに詰まった血が、外に出ていく。
咳をして、溜まった血を吐く。
まだ、あなたに恋心を伝えられていないのに。
吐いた血が、服に、肌に、髪の毛に飛び散る。
そこで気づいたの。気づいてしまったの。
『事故にあったのだ』と。
私の線香、あなたがあげてね。
私は死んでしまうの。それを受け入れて。
あなたが、伝えてくれた気持ちを返せずにいてごめんなさい。
もうすぐ死んでしまう。
明日はお通夜だよ。
たった数時間、されど数時間。
あなたなら、受け入れてくれるでしょう?
だから、お通夜に来てね。
生きるのを諦めたわけじゃない。
でも、どんなに頑張っても力尽きてしまう。
耳鳴りがするほどのブザー音の中、
あなたの息を止めた音が聞こえた気がしたの。
私が入院しているときに、
真摯に私を見つめていた目が、
私のせいで閉じ切ってしまった。
入院していた時に、私が起きるのを、見るのもつらくなるほど祈る手が、
必死に握っていた手が、
今では、力なくぶらついている。
あなたが必死に祈るその、燃える様な愛が嬉しかった。
あなたに伝えられはしなかったけれど、私もあなたをひっそりと愛してた。
あなたに伝えたい言葉、気持ち、愛は死んでしまっては伝えられはしない。
どんなに聞こえてほしいと願っても聞こえない。
ねぇ、線香、あげてよ。
「さようなら」じゃないから。
線香をあげる、それだけで心を通わせられるのだから。
あなたに、「愛してる」を伝えたいから。
偶には会いに来て、お墓参りという形で。
私からあなたに会うことはできなくても、
あなたから私に会いに来ることはできるのだから。
だから泣かないで。
今の姿じゃ、あなたの涙をもうぬぐってあげられないの。
あなたの嗚咽すらも愛してる。