恋心『副シャン』

なぁ、なんで

なんで、俺を見てくれない

何がいけない？

男だから？それとも、.......

船内は陸へ上がる準備する為

皆慌ただしく動き回る。

別に、

自分も手伝えばまだ暇潰しにはなる

でも

まぁ、普段から任せっきりではあるけれど。

赤髪に手を乗せて 優しく撫でられる

ほんのちょっとの事なのに

それが嬉しくて

嬉しくて、

でも、でも.......

自室に戻るや否や、ベッドに駆け込み

のたうち回っていた

先程の行為を思い出して。

決して口には出せぬ言葉

零してはならない言葉

今の関係を崩してはならない

あいつは女好きだ。

ましてや、男なんぞ相手にもしないだろう

俺みたいな、

ゴツゴツして柔らかな肌もない

女のように濡れる訳でも無い

正真正銘男の俺は、

女だったならばあったかもしれない未来

そんな希望は、

叶わない。

呟きは虚しく響き渡る──

はっ、と息を呑む

たらり 冷や汗が流れ伝う

おかしな所なんて、ないだろう？

だから、

お願いだから。

お願いだから、出てってくれ

崩したくない

零したくないから

名を、呼ばれた

"なんで泣いてるんだ"

人の気も知らないで。

そう、叫びたかったのに

拒んでも

拒んでも降ってくる

苦味のあるキスが

再び涙を浮かばせた

もう、この際.......

"酷く、乱暴にさ"

愚かな行為に自嘲は止まない

酷くしろ、と言ってもベックは優しかった

何度言おうと、変わらなかった

酷く酷く

優しかった

目尻にキスを。

口の端にキスを。

優しく、優しく

触れていく

身も心も絆される

意識が、遠のく。

何を言っているのかさえ

分からずに。

『愛してる』

何か、聞こえた気がした。