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幼馴染が

リストカットをしている

気付いたのは

高校2年の夏

一緒にプールに行った時だった

修哉

(俺らもう高校生なんだし、2人でプールとか有り得ないんだけど)

幼馴染である紬の親と自分の親が旅行に出かけるという

せっかくなんだから一緒にプールでも行けば?

そう言って大規模レジャー施設のペアチケットを 渡してきたのは、紬の母だった

じゃ、くれぐれも間違いのないようにね

そう言い残して2人は箱根へ旅立って行った

修哉くん?

修哉

なんだよ、紬

修哉

そもそもお前がプール行きたいとか言うから…

修哉

(別に仲良くもねーのに)

中学生にもなると、幼馴染とは言え 女子と馴れ馴れしくするのも気が引けるようになった

人見知りのひどい紬と、誰とでも仲良くできる修哉は いつからか話さなくなっていったし

修哉自身、それでもいいと思っていたのだ

修哉

(紬は、あんまり話す相手がいないみたいだけどな…)

あ、、ごめん

そうだよね、修哉くんは友達もいるし

迷惑、だったかな

修哉

別に迷惑とかじゃないけどさ

いつからか紬は

昔みたいに明るく話すことがなくなっていった

長い前髪、お世辞にも手入れしているとは 思えない肌や髪、それに眼鏡

わざわざ話しかけようと思えないような容姿だ

修哉

お前さ、髪切らないの?

紬の髪に触れ、言う

昔の紬はもっと可愛かった 裸眼だったし、ポニーテールが似合っていた 彼女の変わり様を少し残念に思った

ひゃい!?

修哉

な、なんだよ…そんなに驚くことはないだろ

あの、あんまり軽々しく触れないで…

修哉

あ、ああ、不快だったなら、ごめん…

ぁ、ぃゃ…

思春期の女の子は、男子に触れられるのも嫌なのか

なんとなく、そう納得した

その、、ごめん

私、暗いし、一緒にいてもつまんないよね…

お母さんには悪いけど、帰ろう

紬が言う

修哉は、紬のこんなところが嫌いだった

修哉

紬、お前いちいちそういうこと言うのやめろよ

修哉

昔はそんな感じじゃなかっただろ

あ…ごめん、なさい…

でも、今と昔は違うし…

修哉

あっそ

修哉

いいよ、チケットがもったいない

修哉

プール、行くぞ

こんな奴とプールなんて行っても楽しくない

そう思ったが

なんとなく、帰るのは気が引けた

修哉くん、ごめん、遅くなった

ロッカールームから紬が出てくる

修哉

保護者みたいな格好だな…

半ズボンに薄水色のラッシュガード 幼稚園生の親が着ていそうな水着を見て苦笑する

あはは…

あんまり肌出したくなくてさ

そう言って紬は自分の腕に触れた

修哉

ま、俺は学生らしく海パンだけで行くわ!

笑顔でそう言うと

いいんじゃない?修哉くんらしい

紬は昔のように屈託のない笑みを見せた

修哉

(案外、楽しめたりしてな)

当初予想していたより、何倍も楽しい時だった

紬も、幼馴染である修哉といるからか、 昔のように笑うようになった

眼鏡を外して、髪を縛った紬はやはり愛らしく、 デートをしているようにさえ思えた

修哉!もう1回あれ乗ろ!

紬が指さしたのはウォータースライダー

ぐるぐる回って落ちていくやつだ

修哉

俺あれ苦手なんだけど…

いいから!楽しいじゃん!今度はあの浮き輪使お!

ドキッ

紬が言う浮き輪は、恐らくカップル用に作られている 2人の距離がとても近いやつだ

修哉

わ、わーったよ

やった!

明るい紬は可愛かったし、浮き輪の2人乗りくらい 満更でもなかった

修哉

(まあ、別の不安はあるけどな…)

弾む足で階段を登っていく紬

お兄さん

そこのカップルさ〜ん

お兄さん

どっちが前に乗りますかー?

どうしよっか? 悪戯っぽく笑う紬

修哉

あ…俺前行くわ

修哉

(俺が後ろだと、さすがに尊厳が失われる可能性がある…)

わかったー!

お兄さん

それじゃあ乗ってくださいねー!

ゆっくりと進み出す

次第に速くなり、コースの横スレスレを滑る浮き輪

きゃー!と楽しそうにする紬の胸が背中に触れる

修哉

(うっ…耐えろ…修哉…)

滑り終わり、小さなプールに着水した

それは

偶然だった

たまたま修哉の手首についていたコインロッカーの鍵

それが

紬のラッシュガードに引っかかって

修哉

え…紬…これ、、

え?どうし…

顕になった幾つもの赤い線

驚く修哉に、紬が表情を失う

ごめ…

修哉

ほんと…そんなつもりじゃ…

修哉

ごめん…ごめん…気持ち悪いよね…

修哉

紬!!

泣きそうになりながら弁明する紬に、声を荒らげる

修哉…

修哉

どうしたんだ…?これ…

あ…

えっと…

紬は静かに涙を流し始めたかと思うと

突然走り出し、群衆に紛れてしまった

修哉

はあ…っ、はあっ…

修哉

(どこにいるんだ、紬の奴)

紬がリストカットしていた

その事実は、修哉を混乱させた

修哉

(なんでだ、あいつ、いじめられてたりするのか?)

リストカットなんてする理由が思い当たらない

紬は物静かだが、いじめられているという話は聞かない

心を病むことなんてないはずだ

修哉

(とりあえず、話を聞こう)

そう思い、再び辺りを見渡す

修哉

(…いた!)

コインロッカーからそそくさと出ていく人影 縛りっぱなしの髪と、花柄のワンピースは彼女のものだ

修哉

紬…!紬!!

急いで走り出し、声をかける

修哉くん…

振り向いた紬は、観念したように首を振る

修哉

話、聞かせてよ

…嫌な気持ちになるかも

それでも…いい?

喫茶店で向かい合う

まず最初に約束して欲しいことがあるの

修哉

ああ

1つ目は、誰にも言わないで欲しいってこと

もう1つは、これから話す内容がどんなものであっても

私のことを嫌いにならないで欲しい

修哉

修哉

…ああ、約束は出来ないけど

修哉

そのつもりで聞くよ

よかった、そう言って紬は弱々しく微笑んだ

まず、大前提としてね

修哉

うん

こういう形で言うのは嫌なんだけど

私は、修哉のことが好き

修哉

…え?

修哉

(どういうことだ、恋愛的ってことか?どちらにせよ、リストカットに関係あるのか…?)

修哉

それは、恋愛的に?ってこと?

うん、そう

昔から

それでね、中学入ってから、あんまり話さなくなったでしょ?

修哉

…ああ

私はあんまり友達できなかったし

修哉はいっぱい友達いて、女の子とも仲良くて

その子たちにも嫉妬したし、修哉にもした

修哉

うん

なんで修哉と仲良くするの、とか

なんでそんな風に友達作れるんだろう、とか

それでおかしくなっちゃった

嫉妬する自分も嫌で、友達が作れない自分も嫌で

気持ちを伝えられない自分だって嫌になった

それでさ、気づいたら、切ってたんだ

修哉

そうか

自分が悪いんだ、そう思いながら

自分が痛みを味わえば、少し楽になるんだ

ごめんね、こんな私で

修哉

いや

修哉

そっか、俺、自傷?はしたことないからさ

修哉

気持ちわかってやれなくてごめん

自分を傷つけさせてしまったのは俺だ

そう思うと情けなかった

恥ずかしい、そんな子供っぽい理由で

紬を放置していた自分が

こんなに愛らしくていじらしくて不安定な女の子に

辛い思いをさせてしまった自分が

ごめんね

修哉

え?

修哉

もうさせない、そんなことさせないから

修哉

1人で思い込ませない

修哉

紬は、可愛いし、優しい子だって、俺が1番わかってる

え…

修哉

だからさ、すぐには難しいかもしれないけど

修哉

一緒に、頑張っていこうよ

修哉

それでさ、今度は

修哉

もっと可愛い水着でさ、海にでも行こうよ

優しい声でそう言って

懺悔の気持ちと共に、彼女の震える方を抱きしめた

修哉

(薄くて、すぐに折れちゃいそうだ)

修哉

(こんな小さなからだで、色んなことを抱え込んでたんだな)

あ…修哉…

ありがと…

小声で囁く紬に

そっと口付けをした

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