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第1話 - あ

2023年08月01日

#恋愛

結城真矢

ミズキ

ねえ、この前頼んでおいた封筒ポストに入れてくれた？

イチロウ

あ！ごめん忘れてた…明日絶対にポストに入れるよ

ミズキ

はあ…そうだと思った

ミズキ

あれはまだ急ぎじゃないからいいけど、大至急出さなきゃいけないものだったらどうすんの？

ミズキ

遅れたら責任取ってくれるわけ？

イチロウ

ごめん…

ミズキ

責任なんてとれるわけないわよね？高卒だもん

ミズキ

給料も私の方が上だもんね

イチロウ

それは、仕方がないだろ

イチロウ

うちに余裕がなくて大学に通わせてもらえなかったんだから

ミズキ

かわいそうにね

ミズキ

でもそういう状況でも頑張って大学に行ってる人もいるのよ

ミズキ

あなたはその努力をおこたっただけ、違う？

イチロウ

そうだけど…

ミズキ

まあいいわ、低学歴の高卒の人にポストに入れるよう頼んだ私が間違ってたわ

ミズキ

どうせ明日も忘れるだろうし、自分で入れるから封筒触らないでね

イチロウ

分かった…

ミズキ

出社途中にポストがあるから任せてって言うから頼んだのにこれだもんね

ミズキ

ほんと、嫌になっちゃう

イチロウ

次は気を付けるよ…

～数日後～

マリコ

イチロウさん、ちょっといいかしら？

イチロウ

お義母さん！なんでしょう？

マリコ

あなたミズキにまた何かしたの？

イチロウ

え？特に何もしていませんが

マリコ

夫が高卒で馬鹿だとこうもしんどいだなんて思わなかった、って愚痴が送られてきてたわよ

イチロウ

本当ですか、ご迷惑をお掛けしてすみません

マリコ

だから私は結婚に反対したのよ、高卒の人間なんて絶対にやめときなさいって

マリコ

ろくな教育を受けてないんだから

イチロウ

すみません…

マリコ

それにあなた、ミズキより給料も少ないんでしょう？

イチロウ

はい…

イチロウ

でも今資格の勉強をしていまして！

イチロウ

その資格さえ取れれば出来ることも増えるので、給料も格段に上がるんです

イチロウ

そうなれば少しでもミズキの負担を減らせるんです

マリコ

資格？

イチロウ

はい、国家資格なので難しいんですが頑張って勉強しています

マリコ

国家資格？冗談でしょ？高卒のあなたに合格できるはずないじゃない

イチロウ

確かに合格率は高くない資格ですが、だからこそ合格した時の待遇改善は大きいんです

イチロウ

今仕事をしながら頑張って勉強しています

マリコ

ふーん、まあ期待してないでおくわ

マリコ

そういえばあなた、子供の計画はちゃんとしているの？

イチロウ

お互いのタイミングが合えばとは思いますが…

イチロウ

ミズキも僕も忙しいので、中々タイミングが合わない日が続いています

マリコ

あら、そうなの？

マリコ

この間ミズキは最近仕事が落ち着いたから暇だって言ってたけど

イチロウ

え？そうなんですか？

マリコ

家に帰ってあなたに会いたくないのかもね

イチロウ

そんな…

マリコ

私がミズキの立場ならもうすぐ離婚してるわ

マリコ

いえ、そもそも結婚すらしてないわね

マリコ

まさかミズキが高卒の男と結婚するなんて思わなかったもの

マリコ

あの子は賢いから、絶対にふさわしい男性を見つけると思ってたのに

マリコ

それとも情が移ったのかしらね？

マリコ

あなたとミズキは…交際してからどれくらいだっけ？

イチロウ

ミズキが大学生の時に付き合い始め、25歳の時に結婚しています

イチロウ

僕がまだ就職する前にいたバイト先で出会ったのがきっかけです

マリコ

そうそう、そうだったわね

マリコ

せめて同じ大学の男性から選べばよかったのに

マリコ

たまたまアルバイトで同じになったからって、こんな甲斐性もない男を選んで

マリコ

ほんのお遊びのつもりだったはずが、ズルズルと交際期間が長引いちゃって

マリコ

もうこれでいいか、ってなっちゃったのかしらね

イチロウ

僕はミズキを心の底から愛していますし、ミズキもそうだと思っています

イチロウ

ズルズルと長く付き合ったから情が移ったとは考えていません

マリコ

本当にそれならいいんだけど

マリコ

早く孫の顔を見せてもらいたいものだわ

イチロウ

今度、ミズキと話し合ってみます

マリコ

話し合う時間があればいいけどね？

～数か月後～

イチロウ

ミズキ、今日俺帰り遅くなるから

イチロウ

もし先に帰ってもご飯は食べておいてくれ

ミズキ

分かった

ミズキ

最近遅くなる事多いね

イチロウ

試験に受かって資格持ちになったら一気にやる事が増えてさ

イチロウ

うちの会社今俺が以外にその資格持ってる人いないから全部俺に仕事がきたんだ

ミズキ

忙しそうだね

イチロウ

まあでもその分給料は上がってるし、残業代も出るから！

イチロウ

将来の事考えて少しでも多く貯金しないとな！

ミズキ

そうだね

イチロウ

ミズキ、なんか最近元気ないよな

イチロウ

なんかあったのか？

ミズキ

別に

ミズキ

ただ、最近のイチロウずっと忙しそうだなと思って

イチロウ

まあちょっと残業が多くなっちゃったかな

イチロウ

でもこれでようやくミズキの負担を少しでも減らせることができるんだ

イチロウ

頑張った甲斐があったよ

ミズキ

ふーん

ミズキ

ねえ、子供つくろっか

イチロウ

え！？

ミズキ

子ども、いらないの？

イチロウ

いや、勿論欲しいよ！でもミズキからそういう事言ってくるって珍しいなと思って

ミズキ

じゃあ帰ってくるの待ってるね

イチロウ

分かった、なるべく早く帰るようにするよ

～数か月後～

ミズキ

ねえ、今日病院いってきたの

イチロウ

え？なんの？

ミズキ

産婦人科

ミズキ

おめでただって

イチロウ

え！？本当に！？

ミズキ

ほんと、嘘つく理由なんてないでしょ

イチロウ

マジか！信じられない！俺たちの子なんだ！！

イチロウ

これからは残業も減らすよ！

ミズキ

ううん、せっかくイチロウが頑張って取った資格で得た地位なんだから

ミズキ

今ここで放棄したら勿体ないよ

ミズキ

他の人に取られちゃうかもしれないでしょ

ミズキ

生まれてくる赤ちゃんのためにも、頑張って

ミズキ

私も育休取ったりしたら仕事休まないといけなくなるし

イチロウ

そうだな…うん、分かった

イチロウ

でもなるべく早く帰るようにする

ミズキ

ありがと

～翌日～

イチロウ

お義母さん、ミズキが子どもを授かりました！

イチロウ

僕たちの間に子どもができたんです！

マリコ

ミズキから聞いたわ

マリコ

嬉しいやら悲しいやら、これでますますあなたから離れられなくなったわね

イチロウ

僕は凄く嬉しいです

マリコ

国家資格も受かったんでしょ？ま、高卒にしちゃ頑張ったんじゃない？

イチロウ

はい、ありがとうございます

イチロウ

この資格のおかげで重要なポストに就くことができました

イチロウ

今まで以上にもっと頑張ろうと思います

マリコ

どうだかね、高卒の言うことなんて信用できないわ

マリコ

頑張ってこなかったから高卒なんでしょ？

イチロウ

すみません…

マリコ

ま、これからは父親になるんだし

マリコ

しっかりとその自覚をもって家族のために馬車馬になって働くことね

イチロウ

はい、そのつもりです

マリコ

それにしても、妊娠早かったのね

イチロウ

どういう意味でしょう？

マリコ

どういう生活をしてたのか聞くつもりはないけど、妊娠してからもうそこそこ経ってるんでしょう？

イチロウ

…確かにそうですね

マリコ

そろそろお腹も見るからに大きくなってくるころだろうし、しっかりケアしなさいね

イチロウ

はい、しっかり支えます

～数週間後～

イチロウ

なあ、今度検査を受けないか

ミズキ

検査？なにのよ

イチロウ

出産前DNA鑑定だよ

ミズキ

は？どういうこと？

イチロウ

その子が生まれる前に両親の血液を使ってDNA検査を行うんだ

イチロウ

お腹の中の赤ちゃんには一切影響がない

ミズキ

なんでそんなものを受ける必要があるの？

ミズキ

高卒のくせにどこからそんな知恵仕入れたのよ

イチロウ

もう…正直に言ってくれないか

イチロウ

浮気してたんだろ？ずっと前から

イチロウ

気付いてるんだよ、俺

ミズキ

へ？

イチロウ

俺が気付かないと思ったのか？高卒だからそんなに鈍感だとでも？

イチロウ

今までずっと俺に冷たく当たってきて、夜の行為もほとんどなかった

イチロウ

それなのに、俺が試験に受かって資格持ちになって残業がこれまでよりずっと増えて

イチロウ

家にいない時間が増えて少し経ったら、急に子どもが欲しいと言い出した

イチロウ

最初は俺も嬉しかったよ、ミズキからそんな事を言ってくれるなんて

イチロウ

これからは俺たちの関係も、バイトで出会った頃のように楽しい関係に戻れるのかと思ってた

イチロウ

でもこの前お義母さんからの連絡でふと気付いたんだ

イチロウ

妊娠が早すぎる、それにミズキが気付くのが早すぎるって

ミズキ

それは、女だし妊婦本人なんだから分かるに決まってるでしょ！

イチロウ

気付くのが早いのはそういう理由で済むかもしれない

イチロウ

でも妊娠が早すぎるんだ

イチロウ

逆算しても、俺たちが夜の行為をまたするようになった日だと計算が合わないんだよ

イチロウ

はっきり言う、今妊娠しているのは俺との子じゃないな？

ミズキ

なんでそんな酷い事が言えるの！？高卒のくせに！

イチロウ

じゃあ明日検査しに行っても何の問題もないだろ？

ミズキ

それは…

イチロウ

君は、俺が必死に資格の勉強をしてる間にも他の男と浮気してたんだな？

イチロウ

思い返せばおかしいと思ったんだ

イチロウ

君はずっと忙しいから俺と話す時間なんてないと言ってた

イチロウ

だから夜の行為もできないって

イチロウ

俺は仕方がないと思ってた、君が今の仕事が大好きだって知ってたから

イチロウ

でもお義母さんから連絡を受けた時、お義母さんが言ってたんだ

イチロウ

ミズキが最近仕事が落ち着いたから暇だって言ってたって

イチロウ

おかしいだろ？俺には忙しいって言って会話すらまともにしない生活をして

イチロウ

でもお義母さんには暇だって言ってたなんて

イチロウ

もうその頃には浮気してたんだな

イチロウ

俺が試験に合格して資格を持ったから残業が増えて家に帰る時間が遅くなって

イチロウ

それで余計不倫相手と遊ぶ時間が増えたってことか

ミズキ

私は…私は悪くない！

ミズキ

悪いのは全部あなたでしょ！

ミズキ

高卒のくせに一丁前に仕事頑張って

ミズキ

次第に評価されて、任される仕事も増えていって残業なんかして

ミズキ

私だって必死に頑張ってたのに、全然仕事任せてもらえなくて

ミズキ

お母さんに言われるがままに必死に勉強して良い大学に入って

ミズキ

そこからまだ頑張って頑張って勉強して大学院にも入って

ミズキ

そこからまた就職活動も頑張って大手の企業に就職して

ミズキ

こんなに頑張ってきたのに、仕事場じゃそこまで評価されなくて

ミズキ

なのにあなたはちょっとずつ評価されていって…高卒のくせに！

イチロウ

学歴は関係ないだろ？

イチロウ

そりゃミズキが大学に入る時、大学院に入る時、就職する時に

イチロウ

どれだけ頑張ってたのかは知ってる、傍でずっと見てたから

イチロウ

でもそれと仕事は関係ないだろ？

イチロウ

まず学歴で人を見下す、そんな態度じゃ誰からも信用されないじゃないか

イチロウ

仕事ってのは能力も勿論だけど信用が大事だと思う

イチロウ

ミズキは、大学院に入ったころからあからさまに他人を見下すようになった、俺を含めてね

イチロウ

あんな態度じゃ、周りはついてこないよ

ミズキ

高卒のくせに知ったような事を言わないで！

ミズキ

私は腹が立って仕方がなかったの

ミズキ

大学院卒の私が仕事で結果を出せず、高卒のあなたは着実に成功していくのが

ミズキ

だから私は他の男で心の穴を埋めてやったの！

ミズキ

私を求める男でね！

イチロウ

それが君が俺を裏切った理由なのか

イチロウ

そんな理由で…

ミズキ

そんな理由？それが私の全てなのよ！

イチロウ

とにかく、検査は受ける

イチロウ

結果によっては離婚することになる

ミズキ

もうどうでもいい、勝手にして

～後日談～

イチロウ

検査の結果、やはり胎児は俺の子供ではなかった

イチロウ

俺はミズキと離婚することにした

イチロウ

ミズキはそれをすんなりと受け入れ、慰謝料も払い、浮気相手の男のもとへ行くことになった

イチロウ

しかし浮気相手の男は既婚者で、ミズキとの事は遊びのつもりだったらしい

イチロウ

浮気相手の男にも捨てられたミズキは完全に独りになってしまい

イチロウ

精神的におかしくなり、会社も辞め実家に帰って引きこもっている毎日らしい

イチロウ

今は俺の元義母であるマリコさんが代わりに子育てをしているらしいが

イチロウ

年齢が年齢なだけにかなりきついらしく、こちらも精神的に参っているようだ

イチロウ

何度か連絡がきたが全て無視し、電話番号も住所も変えた

イチロウ

全てから解放された今、俺は全く新しい人生を歩んでいる

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結城真矢

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