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凄 く 好 き で す" ❕❕ 😭😭✨ 次 回 が 待 ち 遠 し い で す 🫶🏻
次回が楽しみですっ😖✨✨
タイトルとちゃんと結びついてるっ!神すぎますっ✨️✨️
※Prologの注意事項に目を通した上でご覧下さい
ねまてゃ
桃
赤
彼の返事を待ってから、カチッとドライヤーのスイッチを滑らせた。 静かなこのワンルームを、ドライヤーの音だけが支配する。 湿った赤い髪の毛にゆっくり手ぐしを通しながら、温風を当てていく。
誰かの髪の毛を乾かすなんて初めてだ。
赤
桃
りうらはそういいながら呑気に足をふらふらと揺らす。 その間に、俺は昨日の出来事を思い返していた。
俺は人を殺した。人殺しだ。 でもりうらはその人殺しに感謝した。「好き」って言った。
あの後、状況が飲み込めないまま彼の提案で近くの山に死体を埋めた。 そのまま寝ずに始発の電車へ乗って、自宅がある東京に向かった。 りうらの髪の毛がだいぶベトベトなことに気づいて、とりあえずお風呂入る?と催促したらものすごく嫌そうな顔をされた。 りうら曰く、昔父親に浴槽のお湯で溺死させられそうになったことがあって、それから風呂場は拷問部屋みたいなものだと思っていたらしい。 無論、洗い方すらまともに知らなかった様で仕方なく俺が頭から足の指まで全部洗ってやった。
りうらが俺に感謝した理由が、少しだけわかった。
桃
赤
りうらは自分の髪を少し引っ張って、まじまじと見つめる。
赤
桃
途端、ぐぅぅというお腹の音が響く。 振り返ると、りうらがバツが悪そうにお腹を抑えていた。 そういえばもう時刻は6時を回っている。夜通しずっと起きていたんだからお腹ぐらい空くだろう。
俺は小さめの冷蔵庫の扉を開ける。 しかし、中はありえないほど殺風景で何も無かった。ここ最近の荒んだ日々のせいでまともに食事がとれていなかったせいだろう。 唯一あったのは、コンビニで買っただろうプラカップに入った安っぽいプリン。....なんで買ったんだっけ。 賞味期限を確認するとぎりぎり過ぎていない。
桃
赤
桃
キッチンのラックから銀のスプーンを取り出して、プリンとセットにしてりうらに差し出す。 りうらは心底嬉しそうにそれを受け取って、ローテーブルにプリンを置き床に座って律儀に手を合わせた。
赤
桃
赤
1口、また1口と、プリンがりうらの口へ運ばれていく。 その度に幸せそうに唸り声を上げる。 あぁ、この子は今まで本当に縛られて生きてきたんだなと勝手に悟ってしまった。幸せそうなりうらの姿が、少し切なく映る。
赤
桃
本意ではなかったけど、俺は彼を解放してあげられたと思う。 りうらも俺に感謝してくれた。
....でも、それじゃダメなんだ。
どんなに被害者が加害者を肯定して、許したとしても。 人を殺したという事実は、無機質にいつまでも残っていく。 それを世間の人々は許さない。 特に、自分が1番許せない。
あまりにも遅すぎた罪悪感の到来。 命を殺めた後の後味が、こんなに苦しいなんて知らなかった。 こういう俺みたいな人間がいるから自首という行動が存在するのか。
その辺に放り投げられていた黒のダウンを手にとる。 大分過ごしやすくなってきたけど、早朝はまだ冷える。
赤
桃
桃
聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で呟く。 すると、りうらは立ち上がって勢いよく抱きついてきた。
赤
桃
赤
桃
俺の窘めるような声色に、りうらは口を引き結ぶ。
桃
桃
結局俺は、いつも自分のことしか考えていない。
赤
桃
思い立った俺はりうらの言葉を遮って、自分の鞄の中をさばくる。 ペラペラの財布から出てきた全財産を、りうらの手に握らせた。
桃
赤
まだ大人になきりっていない手のひらの上で、お札がぐしゃぐしゃになる。
桃
桃
自分で言っておいて、なんて無責任な言葉なのだろうと思った。 軽くりうらの頭を撫でる。さっき洗ったばかりだからかシャンプーのいい匂いがした。 それから手に持っていたダウンを羽織る。そして、ドアノブに手をかけた辺りで再び引き止められた。 ダウンの袖の裾を控えめに握って。だけど、縋るように。
赤
桃
桃
ただ、それだけを告げる。 ほんの少ししか一緒に過ごしてないけど、彼と出会えて良かったと思う。 久しぶりに、少しだけ生きた心地がしたから。
再びドアノブに手をかける。 瞬間、りうらが小さく呟いた。
赤
桃
どういうこと?と俺が尋ねる前に、りうらは俺の手を掴んで強く引っ張る。
赤
りうらが指差したのは、手のひらサイズの小さなノート。 電話中にメモを取れるようにと、随分前に固定電話の隣に置いておいたもの。結局一回も使わずに放置していた。
桃
りうらはローテーブルの前に座る。 紙製の表紙に、がたがたの字で何かを綴っている。
"やりたいこと"
赤
しっくり来なかったのか、すぐにその字に二本線が引かれてしまった。 その下に、また新しくりうらが綴る。
"つぐないごと"
桃
赤
りうらは俺の問いに短く答えて、ノートの1ページ目を開ける。 横の罫線が引かれただけのシンプルなノートは、本当にまっさらで何も書かれていなかった。
1.すいぞくかんに行く
2.だがしをたくさんたべる
桃
平仮名ベースの不器用な字が、りうらの願望をどんどん語っていく。
22.車にのる
23.えっちなことする
桃
赤
56.りょうりをつくる
57.カラオケにいく
欲望が、希望が、ノートに溢れていく。 内容はすぐできるものから少し時間がかかるものまで色々あったけど、まぁどれも普通だった。 普通の子供が、普通の中学生が、平穏に幸せに暮らしていれば既に経験してそうなことを、彼は"やりたいこと"としてここに刻んでいる。 空を飛びたいとか月に行きたいとか、特別大きなことは何も書かれなかった。
100.ないくんとけっこんする
.........最後のこれ以外は。
赤
赤
一番最初のページから書き始めていたはずなのに、12ページ目に突入していたそれはついに完成したらしい。 その数、実に100個。
桃
赤
桃
赤
赤
桃
桃
赤
赤
赤
桃
赤
赤
真っ直ぐ俺を見据える目の奥に、嘘はないように思えた。 ...嘘じゃないって思いたかったのかもしれない。
桃
赤
桃
部屋に再び静寂が落ちて、真っ白な時間が流れていく。 その時間で考えた。彼の願いにどう応えるべきなのか。 いや、本当は答えなんてとっくに決まっていた。 ただちょっと、長い時間躊躇ってしまっただけ。
桃
ゆっくり、静かな溜息を吐く。 諦めと、決意と、ちょっとの希望を込めた溜息。
桃
赤
桃
自分の左の手のひらを出してぎゅっとグーを作る。 それから小指だけを立てて、りうらの顔の前に差し出した。
桃
年甲斐もなく唇が震える。 "約束"だってさ。バカなんじゃないの。
赤
赤
りうらは俺を見据えたまま、俺の言葉を復唱した。 そして、俺の手のポーズを見よう見まねで真似しようとする。 だけど、ちょっと違う。
桃
思わず笑みを零しながら、りうらの手を握らせる。 小指だけそっと立たせて、俺の小指に絡ませた。
赤
桃
赤
桃
赤
桃
桃
他人事の様なセリフしか言えない。 だって本当によく分からなかった。なんで俺がこんなことをしているのか。
桃
赤
小指を絡めたまま、無意味に指先に力を込めた。 そう、意味なんてない。どちらかが力を抜けば簡単に解けてしまう。こんなに脆くて情けないものなんてこれ以外この世に存在しないだろう。
でも俺に応えるように、りうらの指先にも力が籠って指の腹を強く押される。 この行動にも、意味はない。 ....だけど、これだけははっきり言える。
俺たちは、固く固く結ばれた。
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