我ら白鳥沢学園の日常は

ある日の朝練

天童さんが大きな笹を持って現れた

そういうと天童さんはそそくさと去っていった

昼休み 食堂

部室

昼休みの部室は、予想通り天童さんがいた

私は近くにあった雑巾を拾い上げて笹を掴む

毎日が忙しくて忘れかけていたけど

3年生はインターハイで1度節目を迎えるんだ

受験生でもあるし、夏休みが終わったら本格的に就活や出願が始まる

夏休みどう過ごすかで偏差値が10変わるとも聞いたことがあるし、実際そうだと思う

高校の次は就職か大学

それは大きく自分の将来に関わってくるものだから、中学の時ほど甘くは無いし、慎重に選ばないといけない

将来か部活、または将来も部活も

皆にとっては両方大切なものなのだろうけど

両立するっていうのはすごく大変で、口先だけで出来る事じゃない

だから普通チームの人達も、試合に出られない部活よりも、将来を選択してやめていってしまうんだな

人それぞれ、色んな思いを抱えて生活している

そんなことは分かっているけど

少し寂しいようにも思うな

揃って顔を出したのは、いつも頼りになる3年生達

昼休み終了2分前

何とか準備が出来た私達は足早にそれぞれの教室に戻った

放課後 部活

放課後部活に行くと、すっかり落ち込んだ天童さんがいた

状況が分からず、近くにいた瀬見さんに視線を送る

私は1度荷物を置くと、体育館の外に出た

練習が始まって数十分

相変わらず天童さんはテンションが低いままだった

白布が合図をすると2階にスタンバっていた大平さんが体育館の電気を消す

牛島さんは誘導役でステージの前まで天童さんを連れてきた

そして穏やかでキラキラしたBGMを機材のある場所へまわった大平さんが流す

男バレの普通チームの人達もやってきて、なんだなんだと騒いでいる

スクリーンがゆっくり降りてきて、画面いっぱいに綺麗な天の川が映し出された

私はステージの端に織姫の衣装を着て登場する

反対側からは彦星の衣装を着た五色

そして真ん中には神様役の太一

私と五色にはそれぞれ瀬見さんと山形さんが2階の踊り場からスポットライトを当ててくれている

なかなかにシュールな絵面

私と五色は中心まで歩み寄ると、手を握り合う

私達はお互いに指を絡めあって体を寄せあった

ドドドドドドドッ

私達はそれぞれ短冊を書き始めた

実は天童さんと話をしてからだいたい決めてあった

なんだかんだ皆盛り上がってる姿を見てちょっとだけ安心

彼女欲しい！！出来れば美人！ 安田

全国制覇出来ますように 山西

欲は言わない金 横田

牛島さんに負けないエースになる！ 五色 工

織姫と彦星が会えることを願ってる 牛島 若利

身長があと10センチ欲しい 山形 隼人

大切な人が幸せでありますように 瀬見 英太

ジャンプ読む人が増えますように 天童 覚

悔いの残らないような試合がしたい 大平 獅音

決めたことをちゃんと最後までやり遂げられる人になりたい 白布 賢二郎

私も白布の短冊の近くに、自分の短冊を括りつけた

皆にとって、ちゃんと思い出に残る日でありますように △△ ○○

天童さんの言っていた通り、ちゃんと一緒にいたぞって思い出が残ればいいな

3年生だけじゃなくて、2年生も1年生も

このメンバーで出来る最後のイベント

頭の片隅でもいいから、全員の記憶に残る、そんな日であって欲しい

そう願いを込めてキツく括った

ちょうどその時

白布が小走りで近寄ってきて少し嬉しそうに言う

私達は天童さんに声をかけて足早に外に出た

さっきまで曇っていたのが嘘みたいに雲ひとつなくなって

空いっぱいに星が瞬いていた

ライブのチケットが当たりますように 千華野 美琴

インハイ勝てますように 川西 太一

この時はまだ知らなかった

短冊の裏に隠れた2人の本当の願いを

そして、2人だけこの場にいないことも

私も白布も、もちろん皆も

まだ、何も知らない