目眩に耐えるように 遠くを眺めながら
車に揺られる。
このまま帰れば 自室でゆっくり出来るけど、
今回の任務地は遠いから 帰るまでに時間がかかるのだ。
伏黒恵
大丈夫か?
白浜司
うん…
いつもの威勢がない私に、 伏黒も何も言わない。
早く着いてくれと ただそれだけ考えていると、
横から伸びてきた手が 頭に添えられた。
こてん、と 伏黒の肩に頭を寄せられる。
伏黒恵
寝てろ
白浜司
でも伏黒の肩が痺れちゃうよ…
伏黒恵
……寝てろ
白浜司
…ありがとう
気にしていないと言いたげに 窓の外を眺める伏黒。
その表情は見えないけど、 優しさは充分伝わる。
私は上がる口角を隠すこともせず、 目を閉じた。
ゆらゆらと体が揺れる感覚が 心地いい。
ゆっくりと浮上する 意識と共に目を開けると、
伏黒の顔が近くにあった。
下から見ると 余計に睫毛が長いなぁとか、
腹立つくらい 顔が整ってるなぁとか、
ハッキリしない頭で ぼんやりと考える。
伏黒恵
起きたか
白浜司
!、あ、うん…
白浜司
ごめんね重いでしょ、自分で歩くよ
伏黒恵
もう部屋着くから大人しくしてろ
見慣れた寮の廊下が 流れていく。
すっかり夕焼け色に染まった 遠くのグラウンドでは、
虎杖達と2年生が 稽古をしていた。
伏黒恵
鍵
白浜司
ん、降りる
伏黒恵
いい
白浜司
えぇ…
困惑しつつもベルトに付属してる ポシェットから、
鍵を取り出す。
伏黒に抱かれたまま開けると、
伏黒が中に入って ベッドに私を降ろした。
私の靴を脱がせて、
代わりに スリッパを置いてくれる。
白浜司
お姫様になった気分
伏黒恵
お姫様って柄じゃないだろ
白浜司
失礼な
白浜司
女の子は皆お姫様なんです〜
伏黒恵
暴言だな
白浜司
執事は黙ってて
伏黒恵
俺が執事かよ
伏黒が溜息を吐きながら 立ち上がる。
伏黒恵
靴、寮玄関のロッカー横に置いておくぞ
伏黒恵
ちゃんと部屋の鍵閉めろよ
白浜司
あ、伏黒!
さっさと立ち去ろうと する伏黒を、
呼んで引き止める。
伏黒恵
なんだ、まだ何か…
白浜司
ありがとう
伏黒恵
!
伏黒恵
……あぁ
伏黒は優しく微笑むと、 今度こそ部屋を出た。








