鈴宮 杏
(……クソ眠い)

鈴宮 杏
(流石に…三徹は…
きつい…!)

私は、現在20歳の社会人。
職業は飲食店を経営していて
多少は儲かっている
鈴宮 杏
(…今度の新作メニュー…
どうしよっかなぁ)

今は夜の22時。終電ギリギリの時間
今日は珍しく人が少なかった
鈴宮 杏
(…はぁ、今日は疲れた
取引先に話合わせたり
して、疲れるなぁ…
なんか癒しがほし〜)

鈴宮 杏
……え

鈴宮 杏
…は?!

鈴宮 杏
ちょ、大丈夫?!
…誰か!手助けして
ください!

学生
………て…ぼ

鈴宮 杏
……手!貸して!

鈴宮 杏
(何言ってるか
よくわかんないけど…)

学生
……………あ…よ…そ

鈴宮 杏
(…本当に何言ってるか
わかんないな。
ボソボソ喋られても
困るわ……)

鈴宮 杏
(……っ…あと、
ちょっとで
手が届く…っ!)

鈴宮 杏
届いたッ!

鈴宮 杏
……はぁ…

なんとか、駅員さんや
近くの人達に力を借りて
彼を救出できた
鈴宮 杏
…………

鈴宮 杏
(…あの、高校生の子。
…落ち方が変だったな。)

鈴宮 杏
……ねぇ

学生
……はい?なんですか。

鈴宮 杏
ちょっと、来てくれる?

鈴宮 杏
(突き落とされた
以外なら…
これだけ。だよね)

学生
え、あ、はい。

鈴宮 杏
……急にごめんね
知らない人なのに

学生
……あ、いえ

鈴宮 杏
(次来る電車まで
多少時間はあるし…)

鈴宮 杏
(……聞くか)

鈴宮 杏
……ねぇ

鈴宮 杏
君、自殺しようと
しなかった?

学生
……ッえ、

鈴宮 杏
(ちょっとよろついたな…
表情も、驚いたような
顔…声も少し震え気味)

鈴宮 杏
……やっぱり、か

鈴宮 杏
(…多分、高校生だし。
きっと……
嫌なことがあって
自殺しようとしたんだろ)

学生
……なん、で

鈴宮 杏
ん?

学生
なんで…助けたんだよ
助けんなよ、俺を
今更救うなよ…

鈴宮 杏
……はぁ?

鈴宮 杏
(こいつなぁ……)

鈴宮 杏
おい。良いか、ガキ
助けられたくないなら
誰も困らない
死に方にしとけ。

鈴宮 杏
もしあそこで
死んだら。私にも、
他人にも迷惑が
かかってたんだぞ?
ふっざけんな!

鈴宮 杏
(って……やば
思わず怒鳴っちゃった)

学生
……はぁ…?

鈴宮 杏
(…でも、怒鳴った方が
良さそうかもな)

鈴宮 杏
(この子のためにも…
ちょっとは叱るかな。)

鈴宮 杏
……はぁ

鈴宮 杏
駅から落ちて死ぬと
周りの人が迷惑なの。
何?もうこの世に
居なくなるからって

鈴宮 杏
……人に迷惑…
かけんなッ!アホか!
知人でも他人でもだ!
いいな!

学生
……………

鈴宮 杏
……だから。

鈴宮 杏
死ぬな馬鹿野郎!
私はいま人生楽しい!
辛いことも
あるけどさぁ、辛いこと
ばっかではないだろ?

学生
…………

鈴宮 杏
……何?君は辛く
無かったことは
ひとつも無いの?

鈴宮 杏
(よし、こんぐらい
言ったら……流石に…)

学生
……うん

鈴宮 杏
えっ……

鈴宮 杏
(……うわ、まじか
適当に言ったけど
まじでそうだったか)

鈴宮 杏
(うわー、気まづいなぁ…
めんどくさぁー……)

学生
……なぁ、おばさん

鈴宮 杏
おばっ……まだ
20代前半なんだけど?
失礼な…

学生
……名前は?

鈴宮 杏
話聞いてないし……私は

鈴宮 杏
鈴宮 杏だよ…君は?

学生
……猿山

鈴宮 杏
下の名前も。

学生
…猿山 らだ男…
らっだぁでいい

鈴宮 杏
んじゃ、らっだぁ。
何があったか
私に話せる?

鈴宮 杏
(…私の出来る限りは
自殺をしない子に
してあげよう……)

鈴宮 杏
(大人になって
人に迷惑をかける
子は増やしたくないし
まぁ、警察とかに
届けるか)

らっだぁ
……うん。

らっだぁ
えと、何歳から言う?

鈴宮 杏
……何歳からでも

らっだぁ
じゃあ…俺が3歳の頃に
父さんと母さんが
事故にあって死んだ。

鈴宮 杏
(うお、いきなり
ヘビーだな……)

らっだぁ
……で、俺だけが
生きてて、叔父さん
の所で暮らしてたんだ

鈴宮 杏
……叔父さんは
どんな人?

らっだぁ
…社会のゴミ。
叔父さんはDV虐待
ギャンブルアルコール
中毒のゴミカスだった

鈴宮 杏
……相当酷いな

らっだぁ
……でしょ?

らっだぁ
で、俺は数年間も
その叔父から
虐待を受けてたんだ

鈴宮 杏
………………

鈴宮 杏
あ!が、学校は?

らっだぁ
……一応学費は
払ってくれてるみたい

らっだぁ
ただ、大学は無理だって

鈴宮 杏
……友達はいる?

らっだぁ
………………

鈴宮 杏
(あー、これ居ないな)

らっだぁ
…しょ、小学生の時から
虐められてて……

らっだぁ
……その、えと

らっだぁ
貧乏だから……って

鈴宮 杏
……なるほどね

鈴宮 杏
(めっちゃくちゃ
辛い人生だー……
これは可哀想だな)

鈴宮 杏
らっだぁは今何年生?

らっだぁ
高3だけど……

鈴宮 杏
(やっぱり、ビンゴ。
高校生か…若いなぁ)

鈴宮 杏
…………よし

鈴宮 杏
らっだぁ、警察行こ。

らっだぁ
……え

鈴宮 杏
多分、その叔父さん
逮捕できるよ。

らっだぁ
…っ、でも!あいつが
捕まったら…

らっだぁ
お願い……や、めて

らっだぁ
学校でも…居場所が
無いんだ…唯一俺が
居れるのは…そこだけなんだ

らっだぁ
…そこが無くなったら。
俺の居場所は…もう

鈴宮 杏
……はぁ…

鈴宮 杏
(ったく、可哀想な
顔すんなよ)

鈴宮 杏
あるよ。

鈴宮 杏
(そういうのに、
弱いんだよ。
助けたくなるじゃん)

らっだぁ
………………え?

鈴宮 杏
作ってやるよ。私が

鈴宮 杏
(本当は、こうする
つもりは無かったけど…)

らっだぁ
……どこに?

鈴宮 杏
……えと

鈴宮 杏
……私さ、飲食店を
経営してんのよ

鈴宮 杏
……で、そこで
働く代わりに
衣食住……

らっだぁ
いや、でも、悪い…し

鈴宮 杏
……はぁ

鈴宮 杏
いいの!本当はこんな事
する予定じゃなかったけど
今、バイト募集中だし?
らっだぁ、磨けば
光りそうだし。悪くない

らっだぁ
えぇ……

鈴宮 杏
……えとさ

鈴宮 杏
……私は、らっだぁを
雇いたい。…でも
決めんのはらっだぁだよ

鈴宮 杏
私と一緒に働くか。
クソ叔父に暴力
振るわれるか。

鈴宮 杏
選んでよ

らっだぁ
………………俺は

鈴宮 杏
……ん?何?
言ってみな。

らっだぁ
俺…迷惑かけるよ?
料理上手くないし…

鈴宮 杏
……別に、料理が
出来なくったって
出来ることはあるでしょ?

らっだぁ
……杏

鈴宮 杏
うん。なに?

らっだぁ
…電車乗ったら、
警察行こ。

鈴宮 杏
……うん。

鈴宮 杏
…らっだぁ

らっだぁ
ん?

鈴宮 杏
…宜しく

らっだぁ
ん、よろしく……あと

らっだぁ
ありがとね。こんなに
良くしてくれて……

鈴宮 杏
……別に、構わないよ

鈴宮 杏
あっ。

らっだぁ
え?なに?

鈴宮 杏
ちゃんと
金稼いでね?そこは
大事だから

らっだぁ
……え、う、うん…?

鈴宮 杏
……大丈夫大丈夫
きっと上手くいくから
儲けるよ。多分

らっだぁ
…………

らっだぁ
なんか、凄く
心配になってきた
……俺大丈夫かな

鈴宮 杏
……失礼な。一応
これでも多少
人気はあるんだから

鈴宮 杏
心配すんな。私に
任せときなさい

らっだぁ
……ほんと?

鈴宮 杏
本当。

らっだぁ
…じゃ、多少は
信じてみよっかな

鈴宮 杏
「多少」は。なのね

らっだぁ
…いやー、だって
大人って汚いし

鈴宮 杏
そんなもんだよ。
大人なんて

らっだぁ
そんなもんか

鈴宮 杏
そんなもんね
