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テラーノベル(Teller Novel)
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寒くなったなと 息を吐いた

冬未満の寒さだから 吐いた息は白くならない

紅葉

もみじ、か こうよう、か

目を閉じる

君の声が 鼓膜を揺らした

2つの読み方があるなんて 素敵だよな

…つーか良かったのかよ

何がですか?

うちの部、 きっとあと1年で廃部だぞ?

はい

何で入ったんだよ

理由なんて特にないですよ

ただ…

うん?

山歩きとか 素敵だなって

嘘をついた

君が──先輩が、いたから

へぇ!意外と趣味合うかも…?

そうですかね…?

…あ、そういや お前の名前

名前?

くれは、だったよな

もみじ って書いて、紅葉

?…そうですけど

3つ目の読み方だなって

……っ

…ぁあ、そうですね

君は知らない

君と一緒だった 中学の頃から

私が君に 恋していたこと

…この部のルール どうして恋愛禁止なんですか?

恋愛感情あると、やっぱ

素直に自然だけを楽しむって 出来なくなるだろ

…俺はさ

『純粋な気持ちで 自然と向き合いたいんだ』

君と同じ景色を見たかった

君の隣にいたかった

それだけの理由で ここにいる私は

きっと 君の隣には並べていない

ル ー ル 恋愛禁止さえなければ

きっとこんなに悩まない

もっと感情を出して

君が好きなんだよって アピールして

オシャレな服を着て

…告白して

上手くいくビジョンなんて 何も無いけれど

先輩は 紅葉好きですか?

好きだよ

なんか、秋って感じじゃん?

頭の中で『紅葉』の字を くれは、と読んでみて

君の言葉は 私の心臓を“きゅっ”とさせる

笑ってしまうくらい不器用で

ひたすらに秋が好きで

私なんて見ずに まっすぐ進んでいく

そんな君に私は恋した

君は馬鹿

恋人でもなんでもないのに

ただの世間話なのに

変に距離が近いから

私はいつだって 素直になるなんて無理だった

君のせいだと 言ってやりたくても

そんなこと、出来ない

目を開ける

長かった回想は

私の手を 冷たくさせていた

手に持った花束を そっと置く

なんか、秋って感じじゃん?

私にとっては もう、ただの秋でしかないよ

あれほど君のことが 好きだった私は

君が苦しんでいたことに 気付かなかった

君が周りからの期待とか

羨望とか

妬みとか

僻みとか

そういうくだらないものに

心を削られていたことに 気付けなかった

…先輩の受験が終わったら

告白、するつもりでした

自分の告白の作戦を立てて 1人で盛り上がって

…君はその間に

もう触れられない所へ 旅に出てしまった

紅葉、好きなの?

あの時の問は

今ならきっと、 澱みなく言える

君に寄り添うことも 出来なかった私に

君の辛さに 気付けなかった私に

君の好きな『紅葉』を 名乗る資格なんて

ワタシ 紅葉には、ない

だから

橘 紅葉

…嫌いです

橘 紅葉

『紅葉』なんて

冷たい風は髪を乱して

走り抜けていく

寒いのに 流れる雫だけは温かい

舞い落ちる紅い葉が

視界の中で そっと滲んだ

この作品はいかがでしたか?

717

コメント

7

ユーザー

後追いした彼女と再会して、「ああ、なんで追ってきたんだよ」と言いながら少し嬉しそうに笑う彼の姿が見えました。 素敵な、秋空に合う文章、ありがとうございます。

ユーザー
ユーザー

まさかだった…!!! うわぁあ辛いナニコレ辛い 実は私死ネタってあんまり得意じゃないんだけど、あゆちゃんの書く死っていうかなんていうか(語彙力)そういうのはめちゃくちゃ綺麗(言い方)だから読めるんだよなぁ 直接的な表現を避けつつもちゃんと状況がわかるみたいなあゆちゃんの作風すこすこのすこ

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