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第1話 - あ

2023年05月26日

#恋愛

結城真矢

チンペイ

おい、トンダ！お前、金持ってるんだろ？

カンタロウ

良い御身分だよなぁ、俺達より金を持ってるなんてよぉ。

チンペイ

トンダごときが金を持っていたって、どうせゲームしか買わないんだろ？

チンペイ

俺達が代わりに使ってやるよ。

カンタロウ

そうそう、だからさぁ、金よこせよ！俺たちに！

トンダ

ダメだよ。これは大事なものを買う為におろしてきたんだから。

チンペイ

はぁ？大事なものだって？トンダのクセに、なに歯向かっちゃってんの？

カンタロウ

彼女もいない、友達もいないトンダには、金なんか要らなくね？

トンダ

そんな…でも、この金は絶対に渡せない！

トンダ

せっかくバイトで稼いだんだから！

チンペイ

はぁ？陰キャのくせにバイトかよ。お前、店とかで声なんて出せるのかよ。

カンタロウ

そうだよなあww。声なんてちっちゃくて、普段から蚊みたいだよな。

トンダ

声が小さいのは体質だよ…。

チンペイ

バイトなんて１００年早いよな。お前、どこで働いてるんだよ。

カンタロウ

だよな。今度遊びに行ってやるぜ？

トンダ

店じゃない。それに、来られても困るよ。

チンペイ

店じゃないだと?高校生のバイトといったら、コンビニかファミレスのバイトだろ！

カンタロウ

ファストフードとか、ガソリンスタンドか？

チンペイ

どっちもトンダには無理そうだな～！

カンタロウ

客のほうが気持ち悪がって、帰っちまいそうだよなww。

チンペイ

働いてるだけで営業妨害レベルだな！

トンダ

そんな。よくそんな酷い事が言えるな…。

チンペイ

本当の事だろ！大体、お前を雇うバイト先があるとは思えないんだよ！

カンタロウ

面接、即落ちしそうだもんな。

トンダ

そんなの余計なお世話だよ。

チンペイ

口答えするなっつーの。金を稼いだんだか何だか知らねーけど。

カンタロウ

その金、俺達が貰っていくから。

トンダ

そんな、やめてくれよ。

チンペイ

お前が持ってるより遥かに有効活用出来るから、俺達は。

カンタロウ

そうそう、チンペイ君はさ、女にモテる１軍だから色々金が必要なんだよな。

チンペイ

今からお前の家に行ってやるから！金を用意して待ってろ。

トンダ

ちょっと待ってよ！こんな時間に来られても迷惑だよ。

トンダ

親が仕事中で、今は姉さんと俺しか居ないのに。

チンペイ

なんだ～？お前、姉貴なんかいるのかよ。

カンタロウ

どうせトンダの姉貴だから、ブスなんだろ！

チンペイ

ギャハハ。姉貴も陰キャ確定だな。

トンダ

やめろ！それに姉さんはブスじゃない。

チンペイ

じゃぁさー、お姉さまをビックリさせたくないじゃん？

チンペイ

すぐ帰ってほしけりゃ、金を用意して、さっさと外に出て来いよ！

カンタロウ

そうだそうだ。もうお前の家の前にいるんだぜ。

チンペイ

出てこなけりゃ、お前の姉貴もただじゃおかないぜ？

トンダ

そんな！姉さんは関係ないだろ。

トンダ

なんて卑怯なやつらだ…。

チンペイ

お前が素直に金を出さないのが悪い。

カンタロウ

そうそう。

トンダ

姉さんに手を出さないでくれよ、約束だよ。

チンペイ

お前の姉貴なんか興味ねーよ。どうせつまらない３軍女子だろ。

カンタロウ

だよなww。１軍の俺達が相手にするのは美人だけだし。

トンダ

…金を受け取ったら帰って。

チンペイ

分かった分かった。話が分かるねぇ。

カンタロウ

サンキュー、トンダ君♪

～翌日～

チンペイ

あのさぁ、トンダは暇だろ？

カンタロウ

ゲームしかする事無いもんな。

トンダ

いや、そんな事は無いけど…。

チンペイ

俺達、腹減ってんだよ。お前、何かメシをおごれよ。

カンタロウ

良い店に連れて行ってやるぜ。

トンダ

良い店って。

チンペイ

女の子と出会える店だよ。決まってるだろ。

カンタロウ

メシが食えて、女の子がいる店！

トンダ

そんな店、高校生が行っちゃダメだよ。

チンペイ

バカ言ってるんじゃねーよ。だからお前はモテないんだっつーの。

カンタロウ

そうそう、女の子はさぁ、俺達みたいな年下の男が好きなんだよ！

トンダ

そんなの聞いた事がないよ。

トンダ

高校生が入れるキャバクラなんて、あるわけないよ。

チンペイ

アホか。俺達高校生でーす、なんて正直に言うわけないだろ。

カンタロウ

そうそう、年なんていくらでもごまかせるし。

チンペイ

それに女の子のいる店って、キャバクラだけじゃないだろ？

トンダ

え？ちがうの？

チンペイ

お前ホント世間知らずだな。本当に高校生かよ。

カンタロウ

全然遊んでないから、メイドカフェも知らないのか。

トンダ

メイドカフェ…あ、そうか。

チンペイ

やっと分かったのかよ。飲み込みの悪い奴と話すと疲れるぜ。

カンタロウ

トンダ、鈍すぎww。ロクに遊びも知らないんだな。

チンペイ

そのメイドカフェに行くんだよ。お前も付き合え。

トンダ

え？なんで俺が？

チンペイ

決まってんだろ！お前が金を出すんだよ。

カンタロウ

女の子を知らないお前の為に、俺達が連れて行ってやるんだよ。

トンダ

そんなの、余計なお世話だよ…。

トンダ

それに、そういう場が苦手なのを知ってるだろ？

チンペイ

だ～か～ら～。俺達が教えてやるって話だよ。

カンタロウ

その為の授業料だよな。

トンダ

いらないよ、そんな授業…。

トンダ

それに未成年の俺達が行ったら、補導されちゃうよ！

チンペイ

そんなヘマはしないって。

チンペイ

店でカワイイ子を見つけたら、連絡先を聞いてデートに誘うんだよ。

トンダ

ナンパじゃないか。ますます俺には無理…。

チンペイ

怖気づいてんじゃねーよ。

カンタロウ

そんなに嫌なら来るな。

トンダ

はぁ。

チンペイ

その代わり金を出せ！

トンダ

え？なんでそんな話になるの。

チンペイ

当たり前だろう！俺達の好意をムダにしたからだ。

カンタロウ

そうそう、せっかくいい店に連れて行ってやろうとしたのに。

トンダ

という事は行った事があるんだね…。

チンペイ

ああ、可愛い子が沢山いて、ナンパし放題だったぞ。

カンタロウ

ざんねんだなぁ、トンダを連れていけなくてさ。

トンダ

最低だな。まだ高校生なのに。

チンペイ

グダグダ言ってないで金を出せ。

カンタロウ

出さないと、またこの間みたいに教室で恥をかかせてやるよ？

チンペイ

見ものだったよな、トンダの椅子に接着剤が塗られててさぁ。

カンタロウ

ズボンが椅子にくっついて、破けちまった。

チンペイ

女子がドン引きしてたよな。キャーキャー言ってさ。

トンダ

お前ら…いつもいつも、よくもあんな目に…。

チンペイ

おっと？まさかトンダごときが俺達に歯向かう訳ないよな？

チンペイ

教室じゃ、いつも下を向いて本を読んでるだけのお前に、

チンペイ

そんな度胸はないだろう？

トンダ

そんなの…学校じゃする事がないから本を読んでいるだけだ！

カンタロウ

誰にも相手にされないから、お勉強してる振りしかする事ないんだろ。

チンペイ

今度は何をお前にやってやろうか？

カンタロウ

トンダの恥ずかしい画像を拡散するとか？

チンペイ

傑作があるよな。牛乳を何本も飲まされてゲーゲー吐いてるやつとか。

トンダ

やめてくれ、あんなのを出すなんて。

チンペイ

なら、金は出すよな？

トンダ

分かったよ…。

カンタロウ

なっ。お前はやっぱり話の分かる奴だな。

チンペイ

今日のところは3万円でいいぜ。

トンダ

3万円…。

チンペイ

無いなら、親の財布から盗って来い！

チンペイ

トンダが役に立つ事なんか、金を出す事以外に無いんだからな。

トンダ

あんまりだ、そんな言い方。

チンペイ

とにかく！今から金をもらいに行くからな。

カンタロウ

大人しく用意して、まってろよ～。

トンダ

そんな。

トンダ

もう嫌だ、こんな事ばかり…。

～その翌日～

チンペイ

トンダ！昨日のはどういう事だ！

トンダ

え？何のこと？

チンペイ

とぼけるんじゃねえよ！

チンペイ

えらい目に遭ったんだよ、こっちは。

トンダ

だから何のこと？

チンペイ

トンダが勧めた店の事だよ！

チンペイ

面白い店があるから行ってみろっていうから行ったら

チンペイ

まさかあんな店だったなんて！

カンタロウ

お前、俺達をだましたな？

トンダ

はぁ。

チンペイ

はぁ、じゃないだろう！

トンダ

でも、ちゃんとしたコンセプトカフェだったよね？

チンペイ

コンセプトカフェだぁ？メイドどころか、ミニスカポリスカフェだったぞ！

トンダ

楽しくなかった？

チンペイ

はぁ？ふざけんなよ！楽しい訳ないだろう。

チンペイ

何が悲しくて、カフェに行って本当に捕まらなきゃならないんだよ！

トンダ

捕まったんだ。でもLINE出来てるって事は、すぐ帰されたんだよね。

チンペイ

ちがう！補導された事をいってるんじゃない！

トンダ

補導で済んだんだ。ラッキーだったね。

チンペイ

てめえ、調子こいてふざけてるんじゃねーよ！

カンタロウ

ぶっとばすぞ？マジで。

チンペイ

店にいたミニスカポリスの中に、本物の警備員がいたんだよ！

カンタロウ

チンペイが彼女の胸を触ろうとしたら、腕をひっつかんできやがった。

トンダ

ほぉ。

チンペイ

さっきからとぼけた返事ばかりしやがって！

チンペイ

俺は顔を殴られて、腫れちまったんだぞ。

カンタロウ

こっちは逃げようとしたら足を引っかけられて、顔面を床に強打したんだ。

トンダ

にぶ。

トンダ

普通は転ぶ前に腕を突くけどね。

チンペイ

おまけに、腕を掴まれて身動きとれなくなったから暴れてやったら、

チンペイ

みぞおちにパンチを食らわしてきやがった！

カンタロウ

なんなんだ、あの店の店員は！

カンタロウ

皆、顔はカワイイのにめちゃめちゃ強かった…。

チンペイ

暴れても全然歯が立たなくて、店員に押さえつけられて…

チンペイ

気付いたら、本物の警察官が店に来ていて、補導されちまったんだよ！

トンダ

そりゃ災難だったな。だって、あの店に昨夜いたのは、俺の姉貴たちだもん。

チンペイ

へ？

トンダ

俺の姉貴は、あの店で警備員として働いてるんだよ。

カンタロウ

へ？

トンダ

店の中でトラブルが起きた時の為に、姉貴が潜入していたんだよ。

チンペイ

お前の姉貴…何者？

トンダ

何者って、大学生だよ（笑）。ただし空手の師範代だ。

トンダ

腕っぷしが強いから警備会社でバイトしてるんだけど

トンダ

見た目が良いから、時々ああいう店で店員のふりをして、警備をするんだよ。

チンペイ

おまっ！それを知っていて俺達をあの店に行かせたのか。

チンペイ

ただじゃおかねーぞ！

カンタロウ

そうだそうだ、またピーピー泣かせてやるぞ。

トンダ

ピーピー泣くのはそっちだよ。

チンペイ

はぁ？そんな訳ないだろ。

トンダ

さっき言っただろう。店にいたのは俺の姉貴だって。

トンダ

お前ら、店で女性に絡んだ挙句、捕まるのが嫌で抵抗しまくって

トンダ

店の物を色々壊したんだって？

チンペイ

それがどうした。

カンタロウ

あいつらが、高校生の俺達を無理やりつかまえようとするから

チンペイ

悪いのは店のほうだろ！俺達は悪くない！

トンダ

本当にそう思う？

トンダ

あの店は18歳未満の未成年は入店お断りだよ。

チンペイ

お前が行けって言った店だろうが！

トンダ

俺は、「こんな店があるって話をしただけだよ。」

トンダ

「行けなんて一言も言ってないけど？」

チンペイ

この野郎、屁理屈ばかりこねやがって。

トンダ

自分の意思であの店に行ったのは事実だろう？

トンダ

県の条例で、１８歳未満がああいう接待付きの店に行く事は禁じられてる、

トンダ

って事は知ってる？

カンタロウ

は…。

トンダ

昨日、補導されたんだよね？

トンダ

多分警察からは、今日学校に連絡が行くと思うよ。

トンダ

お前らが、行っちゃいけない店に行って物損被害を相手に与えて、

トンダ

挙句の果てに警察に連れて行かれて、事情を色々聞かれましたってね。

チンペイ

しまった、学校の事を忘れてた。

トンダ

学校の事を忘れるって、どれだけ呑気なの。

トンダ

それに、今日から定期テストなのに。

チンペイ

そうだった。それも忘れてた。

トンダ

試験も受けられないね、きっと。

トンダ

まぁ、学校からの処分を素直に聞くんだな。

トンダ

あと数か月で卒業って時に、やらかしたね～。

カンタロウ

なんてことだ…

チンペイ

トンダ！お前何とかしろよ！友達だろう？

トンダ

はぁ？誰が友達だって？

トンダ

今まで、俺を散々イジメてきたくせに。

トンダ

お前たちが今までやってきたこと、学校には全部ばらしてやるよ。

トンダ

このLINEのやりとりも、いい証拠になるし。

トンダ

今までお前らがやってきたことも、実はスマホで録音してある。

チンペイ

何だって？

カンタロウ

それはマズイ。

トンダ

2人がやってきたことは、イジメを通り越して傷害事件だな。

トンダ

警察にも行くから。覚悟しておけよ。

チンペイ

そんな…。

カンタロウ

かんべんしてくれ。

トンダ

俺が、やめてくれって言ってもやめてくれなかったお前らが悪い。

トンダ

そういうわけで、じゃあな。

チンペイ

まってくれ！助けてくれ～

カンタロウ

トンダ～。

～後日談～

トンダ

チンペイとカンタロウの2人は、学校に親と共に呼び出され、

トンダ

１度は停学処分が言い渡されたのだが、

トンダ

なんとその後、書類送検された。

トンダ

そして結果、学校も退学となった。

トンダ

店に行っただけならともかく、店内の物を破損した事、

トンダ

書類送検された事が大きな理由だったそうだ。

トンダ

停学レベルを想像していた俺の、更に上を行く悲惨な末路となった。

トンダ

２人が学校から消えたおかげで、俺は残りの高校生活を平和に過ごす事が出来た。

トンダ

あの日、姉に協力を頼んで良かったと思う。

トンダ

散々イジメられてきたから、もう我慢出来なくて「どうにかしたいと」

トンダ

姉に相談したところ、警備員のバイト先である店に来させるようにと

トンダ

姉が提案してくれたのだ。

トンダ

俺も、このままイジメられキャラでいるのは嫌なので、姉を見習い、

トンダ

２年前から空手を始め、今やっと初段になった。

トンダ

空手道に喧嘩はご法度なので、どんなに苛められても我慢してきたけど、

トンダ

今はもっと強くなって、人からバカにされる事をなくしたい。

トンダ

強くていい男になって、いつかあいつらを見返してやろうと思うのだ。

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結城真矢

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