TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

夕闇の中に

一覧ページ

「夕闇の中に」のメインビジュアル

夕闇の中に

1 - 夕闇の中に

♥

77

2021年10月23日

シェアするシェアする
報告する

神社の長い長い階段を駆け上がると、街が一望できる。

肩で息を整えながらゆっくりと腰を下ろし、下駄をぬぐと、 ちょうど夕日の沈むのが見えてきた。

透き通った赤い光が、雨上がりの石段をきらきらと輝かせる。

「君は毎日これを眺めてるの?」

「綺麗だね」

背後から、野性の息遣いが聞こえてくる。

足音を消しながらこちらに近づいてくるそれは、 明らかに人のものではない。

「ごめんね。 もう村にはキミにあげられそうなモノはないんだ。」

「もう、僕だけ。 食料もないし、お父様もお母様も姉様も、みんないないから。」

背後から近づくソレの殺気を、 背中にありありとかんじながら どこまでも透き通った光を浴びて、 少年の瞳は凛としたしずけさをたたえていた。

暖かな明るい光が1人と1匹を優しくてらしている。

「僕が キミをここへ呼び出したのにね」

「辛い思い、させてごめんね」

ふいに少年の顔が歪み、 うっすらたたえていた笑みがくしゃくしゃに崩れる。

泣き笑いのようなその顔は、背後の獣からは見ることができない。

「どこか遠くへお行き。」

「お前の望むところへお行き 」

でも。

少年は長い髪を揺らして顔を上げる。

「そこには、必ず僕も連れて行っておくれ」

「僕からの最後の願いだ。聞いてくれるね」

白銀の毛皮を纏う獣は、ぴたりと動きを止めた。

首を揺らし、逡巡しているようにも見える。

「さあ。」

少年の促す声に、ゆっくりと歩み寄った獣は、愛おしげに顔を寄せる。

「遠慮するな。もう何日も食っておらぬのだろう?」

それでも獣の手が動くことはない。

「まったく…仕方のない子だね。」

そう笑うと、

水よ風よ木よ 今大いなる流れとなり遠き日の契約を我が前に示せ 我が身を持って命じる

獣は打ち震えた。 次の瞬間、雷に打たれたように獣は悶え、咆哮を上げた。

野生にもどった獣に一心にその身を喰らわれながら、少年は獣の幸せを願った。

「お前の役目は終わりだ。どこへでもお行き」

「愛していたよ」

その言葉が獣の耳に届いたのかはわからない。

最後の一片の光は木の影に隠れようとしている。

田畑は荒れ果て、 家々は倒壊し埃を被っている。

闇に包まれた村の方を一度だけ振り返った獣は、

すぐにその血に染まった真っ白い体躯を閃かせて闇へと消えた。

彼らの行方は誰にも分からない。

この作品はいかがでしたか?

77

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚