先生が言った。
いつもと変わらない顔で、 でもいつもよりも力強い声で。
「これは終わりじゃない。」
「はじまりだ。」
と。
その言葉で、教室の空気は ガラリと変わった。
みんなの中の“悲しみ”が、
“不安”が、
“寂しさ”が、
小さくなった。
希望になった。
最後のチャイムが、 区切りをつけた。
背中を押されているようだった。
左から二列目の、 前から四列目の私も、
その右後ろで泣いている彼女も、
学級委員長の彼も、
みんな、みんな、
明日から大人になる。
制服を脱いで、 髪を染めたり、ピアスを空けたり、
都会に出たり、 実家の和菓子屋を継いだり。
三年間通ったこの学校に、
不安を置いて、
思い出を抱えて、
別れを告げる。
LHRも、号令も、 何もかもが最後だ。
最後の号令は、大きな声でしたいのに、 どうしてか声が出せなかった。
しばらくはみんな、 教室の中で騒いでいた。
そこに“最後”の気配はなくて、
好きだなと思った。
それは過去形ではなくて、 きっといつまでも、過去形には ならない。
少しずつ、教室から影が減る。
「瑠璃たちのとこ行こ!」
と言われて、私はスマホをしまった。
みんながパタパタと教室から 飛び出して行くなか、
私だけはどうしても、 一歩を踏み出せなかった。
カーテンが揺れた。
春の風だ、と思った。
離れたくない。
ずっとこのままが良かった。
涙が溢れそうになった。
「穂佳ー?」
はーい今行くー、と言って、 手の甲で右目を擦った。
教室から出るとき、 もう一度風が吹いた気がして、
振り返ると、
いつもの景色がみえた。
みんなが笑っていた。
だから大丈夫だ、と思った。
はじまりだと信じて。
コメント
9件
とても感動しました 先生の言葉に皆が希望を持てたところ素敵だと感じました(*^^*)
最後の教室で感じていた思い出から少しずつ前に進んでいこうとする姿が目に浮かびました🤭💭 とても素敵な名前だね✨ これからは『こむぎちゃん』って呼んでいいかな……? 改めてよろしくね🙌