叶
日光が目に眩しくて、目を細めた。
叶がちゃんといる。
昨日叶を見つけた時は本当に焦った。
そもそも、叶がライブを休みたいと言う前から、
予兆はあったのだ。
体力的な原因で休養、と本人が言った手前、
なぜもっと問い詰めなかったのだ
と、
過去の自分を責めた。
駆け出しのアイドルが、 はじめてのライブの仕事を断る。
____それがどういう事か、 わからなかった訳でもないのにな。
叶はそれを、考えて、
1人で抱え込んでいた。
まあその全ては、今日知ることができる。
叶
2人で葛葉の買ってきたプリンをすすりながら、
叶が話すのを待った。
叶が話したことは、
バーチャルライバーやアイドルが 一度は通るような、
まぁよく聞く話だった。
ファンが増えると同時に、 アンチが気になり始めたこと。
コメントにやりがいを感じていたから、 それが余計に辛かったこと。
ライブが決まった時も、 中傷に苦しんだこと。
自分とオレを、
比べてしまったこと。
叶
叶
言葉にまとめてしまえばそうだった。
叶の身に起きたことは、つまり、
たったそれだけのことになる。
ただ、
言葉にまとめるのは簡単でも、 本人が受け取った感情の重みは人それぞれで、
本人にしかわからないことだと思う。
葛葉は言った。
葛葉
叶
叶は懺悔するように唇を噛み、俯いた。
葛葉
葛葉
思わず不器用な自分に舌打ちしたくなる。
こんな時にかける言葉がそれなのか、お前は。
残念ながら、
オレは、弱った人間の慰め方を知らない。
ただ、 オレが言わなきゃいけないことが一つだけある。
葛葉
葛葉
叶は目を見開いた。
それから。
どこか解放されたような____
例えるなら、
迷子の子を見つけた母が見せる顔のような、
そんな表情を、叶がしていた。
そして、頭を垂れて言う。
叶
叶
葛葉は言った。
葛葉
葛葉
葛葉
つまり、炎上に屈したのか。
葛葉
葛葉
うわあ。
そんなこと言われたら泣いちゃうじゃんか。
もちろんいい意味で。
叶
叶
精一杯の誠意をもって、
頭を下げた。
僕から葛葉へ出来ることは、今はこれくらいだ。
僕は自分で思うより 愛されていたのかもしれない。
自分を、
ファンを、
信じてみようか。
アンチだなんて、蚊帳の外で
久しぶり 今日、配信します
お待たせしました
そうSNSに投稿して、
反応は見ずにそのまま電源を落とした。
コメント
2件
くっ...面白いじゃないか...っ