───ガラガラ
静かな室内に戸が引かれる音が響く
狛枝凪斗
室内に入ってきた男、狛枝凪斗は後ろ手に戸を閉めると此方に向かって歩き出した
狛枝凪斗
狛枝凪斗
────嬉しい
そう伝えるために口角を上げようとしたが、引き攣るだけで上手く出来なかった
そんな俺に狛枝は柔らかい笑みを浮かべる。声に出さずも伝わったのだろう、良かった
狛枝は土産の草餅をテーブルの上に置くと近くにあった椅子に座った
それから狛枝から仲間達の現状を教えてもらった
かつて、絶望によって朽ちた街は徐々に復興の兆しが見えているらしい
澪田や西園寺は被災地に行って苦しむ人々を少しでも元気づける為にと、得意とする歌や踊りを披露していて、それが好評だったらしく今では世界中を飛び交いしているらしい
小泉は頑張る人々の雄姿をカメラに納めて新聞に載せる広報活動を頑張っているらしい
左右田は絶望事件の時に襲われて手足を失ってしまった人達の為に義手や義足を作ってあげたり、罪木は被災地で苦しむ人達の為にせっせと毎日忙しくお世話しているらしい
九頭龍は、辺古山は、と皆の頑張りを伝えてくれる狛枝に俺はこくり、こくりと頷き話を聞いた
そして、気づけばもう夕方を過ぎていた
狛枝凪斗
そうだな、本当あっという間だった
狛枝凪斗
狛枝凪斗
狛枝凪斗
狛枝凪斗
ありがとう、狛枝
狛枝凪斗
……あぁ、好きだぞ
声には出来ないので口だけを動かしてそう伝えた
愛おしそうに此方を見つめる目を見ればきっと伝わったんだろうな、と
"海に行きたい"
いつでも書けるようにと近くに置いていたペンと紙を持ち出すとそう書き込んだ
本気、なの?
随分長い沈黙の後、震える声でそう聞かれた俺はこくりと縦に頷く
狛枝凪斗
狛枝凪斗
ありがとう
そう口を動かすと、 今度は上手く笑えた気がした
ふわり、と浮遊感 狛枝に抱かれたまま部屋を出る
取り外された延命装置だけが、残されて
ザザーン……
波風荒く吹き荒れる ここは海
徒歩数分で着いたそこは"幸運"にも誰1人いなかった
世界に2人きりとは正にこういう事なのだろう、と思った
狛枝凪斗
感心したような声に見上げると目を細め、懐かしむように海を見つめる狛枝の姿があった
狛枝凪斗
あぁ、その通りだ
俺達が初めて会って…
狛枝凪斗
────────────────
キミと…日向クンと一緒に過ごしていってキミのことが好きだって気づいたんだ 良かったらボクと、付き合ってください!!
………遅いぞバカ、待ちくたびれたっつの ……俺も好きだ だから、よろしくお願いします
っ!!…ほ、本当?こんなゴミクズなボクなんかでいいの?
こんな時まで自虐かよ…むしろお前じゃなきゃ嫌だって思う程には毒されてるんだ
だ、だから責任取れよ!
〜〜〜っ日向クン!!!!
う、わっ!?い、いきなり抱きつくなよ!!!!
あはは、ごめんごめん! 嬉しくってつい
全く……
好きだよ……日向クン
………あぁ 俺も好きだぞ、狛枝
好き、
狛枝凪斗
ボクの事好き?
震える声で抱きしめてくる狛枝に応えるように此方も力の限り、抱きしめ返した
より一層強くなった狛枝の抱擁にミシリ、と音を立て始める身体
痛いと言えばそれきりだが不思議と嫌な気持ちはしなかった
やがて下からびちゃびちゃとした音が漏れ始める 中にある臓物が下から漏れ出ている音だった
身体の骨はバキバキと折れ腕も足も、関節が外れ、肉がドチャドチャと地面に崩れ落ちる
辺りは異様な臭いに包まれていた
片方の目玉も零れ落ち、日向の身体はボロボロで到底人の形に見えなかった
それでも日向を離さず抱きしめる狛枝の瞳から涙がポロポロと零れ落ちた
ずっと…大好きだよ
"─────俺も"
狛枝凪斗
聞き返す頃には既に日向は息絶えていた 幻聴…ではないだろう 今のは絶対に日向クンの声だった
遠くからサイレンの音が聞こえる中、ボクは何時までも海を見つめていた
コメント
1件
最後まで読んでくれた方はありがとうございます 後に狛枝sideも後で書く予定ですので良ければ是非そちらも