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R I s i d e
SA
RI
4月6日。夜の9時。
1分前にスマホに届いた メッセージを見て、 俺は自宅の玄関を開け 外に出た。
家の前の街灯の下に、俺を呼び出したその男が立っている。
俺の姿を確認するなり悪びれる様子もなくニカッと笑うそいつに、無意識にため息が出た。
SA
RI
人の都合なんて 一切聞く気はないらしい。
それでも俺は、口では 文句を言いながら、歩きだす やつの背中を追いかけた。
桐原莉犬。それが俺の名前。
そして俺を呼び出した この男が、桐谷さとみ。 中学からの腐れ縁だ。
RI
SA
いつものようにさとみに 連れてこられたのは、 近所にあるごく普通の スーパーのお菓子コーナー。
SA
いま俺の目の前では、 さとみのお菓子選び大会が 行われている。
RI
並んでいた梅味のポテトチップスの袋を掲げると、さとみは ヘラッと笑ってみせた。
……ほんっと、ムカつく。 自分が。
SA
RI
SA
RI
ポンポンと出てきてしまう こいつの好み。
あきれるほど熟知しているのは腐れ縁ってだけではない。
俺がずっと見てきたから。
……この、片想いの相手を。
だいたい、夜の9時に女の子を呼び出してスーパーへ 連れていくだなんて、いったい どういうことなんだろうか。
俺はこれでも女として 扱われるはずなのに。
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そう疑問に思うけれど、 もう何回目かわからない この呼び出しにはもう慣れた。
断ればいいはずなのにノコノコ素直にやってくる俺も、 人のことは言えないし。
まぁでも急に呼ばれた とはいえ、Tシャツに短パン なんて、まだ少し肌寒い 服装で来たのは失敗だったな。
適当な格好にはしたくないけど気合いを入れるのもおかしいから手っ取り早くそこそこの服を選んだつもりだったんだけど。
SA
RI
SA
そっけない俺の態度にもおかまいなしで、さとみは安定の梅味ポテチを手にレジへと向かう。
俺はただその後ろ姿を ながめていた。
SA
RI
さとみがレジから戻ってきた頃には、時刻は夜の9時10分。
それは、俺がこのたった10分のためだけに呼び出された ことを示している。
もう本当にわけがわからない。
意図が読めないさとみも、 そんなさとみのためにわざわざ出かける自分にも腹が立つ。
スーパーを出て、街灯の少ない道をふたりで歩いた。
ここからだとさとみの 家の方が近いはずなのに、 やつは曲がるべき道を 曲がらずにまっすぐ進む。
出会った頃よりだいぶ背が 伸びたさとみを、少し見上げる ようにして声をかけた。
RI
SA
RI
SA
こういうところにキュンと してしまう俺は、よほど こいつに惚れているらしい。
RI
SA
RI
SA
ふき出すさとみに俺まで つられてケラケラ笑う。
中学に入学して出会ったさとみと俺は、それから高校1年生まで見事にクラスが同じだった。
桐原と桐谷で 出席番号は必ず前後。
"桐コンビ"、だなんて誰がつけたかもわからない愛称で呼ばれているのも中1からのことで、なんだかんだ俺は、こっそりとそれを気に入っていたりする。
SA
RI
SA
う、と一瞬言葉をつまらせる けどそこは演技。
RI
かわいげのない返事を返せば 案の定さとみは 「かわいくねー」 とバカにした。
さとみのポケットから 突然スマホの着信音が聞こえて きたのは、そんなとき。
SA
着信画面を見たさとみから 出た名前に、少なからず 体が反応してしまった。
SA
俺に断ることもなく速攻で通話を開始するさとみは、まったくもってデリカシーというか、 マナーがなってない。
俺の存在がバレないように、 毎回どれだけ物音を立てない ように注意しているか。
この男は絶対知らないだろう。
……そう、いまこいつが 電話をしている相手は 正真正銘、さとみの彼女。
先月から付き合い始めた子だ。
悔しいけどこいつは とにかくモテる。
きりっとした奥二重に、 通った鼻筋。
髪はいつも無造作ヘアで セットされていて、 身長は180センチ近い。
性格だってフレンドリーで、基本的に誰とでも仲よくなれる。
そして、女にだらしないという残念なおまけつき。
過去の彼女の人数なんて、 俺はもちろん、本人も わかっていなかったりする。
距離は近いはずなのに、 こうしてとなりを歩いていてもすごい遠くに感じるんだ。
……ま、俺も同類なんだけど。
SA
そんなとき、やつののんきな セリフに俺は耳を疑った。
え、なに。バカ?
精いっぱいの怖い顔で電話中のやつの横顔を見ると、本人は それに気づきもせず「莉犬を家に送ってる」だなんて細かい 情報まで彼女に伝え始める。
もう少しで9時半だ。
カップルでも、家族ぐるみで 付き合いのある幼なじみでも実は兄妹!?なパターンでもない。
そんなふたりがこんな時間に 一緒にいるなんて、 明らかに不自然すぎる。
絶対に彼女がよく 思うわけない。
それなのにこのバカは 平気な顔をして、素直に 状況報告をしているのだ。
もう俺の方が気が気じゃない。
さとみが彼女と別れるんじゃ ないか、とかいう心配では なく、俺に逆恨みがくるんではないか、という心配の方。
だって怖いもん、女の逆恨み。
ただでさえ"桐コンビ"でよく 思わないさとみファンに目を つけられているのに、これ以上敵を増やされては困る。
あ、さとみと別れてくれるのは全然OKだからね…… というか、早くそうして ほしいくらいだし。
SA
突然、さとみが 焦った声を出した。
次の瞬間、ツーツーと 機械音が漏れきこえる。
SA
はぁ、とだるそうにつぶやいたさとみはスマホを ポケットにしまう。
これからの彼女の逆恨みを 考えて憂鬱になる反面、性格の 悪い俺は少し喜んでいた。
多分、こうなればもう 別れるのは時間の問題。
RI
SA
RI
平然と会話を続けるけれど、 内心にやけそうになる。
わかってる。
さとみがそんなつもりで 言ってないことくらい。
でも、そんなこと頭で 考えたって顔がにやけるのは 仕方ないよね。
SA
RI
SA
……本当にこの男は。
こいつにきっと世間の 常識は通用しないんだ。
明らかにおかしな 発言をしていることに、 本人は気づいていない。
そんな折、また 着信音が鳴った。
SA
今度は、さとみのではなく 俺のスマホから。
なんでこうも タイミングよく……。
表示された名前は、 "佐藤くん"。
内心面倒に思いながらも、 俺は仕方なく通話を開始した。
RI
佐藤くん
RI
電話越しに聞こえる やわらかい声に、とがっていた 気持ちが少しだけやわらぐ。
横にいるさとみがジトッと こっちを見てくるけど、 できるだけ気にしない ように会話を続けた。
内容は、べつに他愛も ないただの雑談。
いま何してるの?とか、 今日は友達とご飯に 行ってきたよ、とか。
なんでこんな時間に こんな電話をしているのか。
佐藤くん
RI
それは、俺だって さとみと同類だから。
──佐藤くんは、2週間前から付き合い始めている 俺の彼氏である。
RI
プツ、と電話が切れたのは もう俺の家に着いた頃。
SA
RI
なんだかんだでさとみも つまんなそうにしてくれているあたり、俺に彼氏がいたかいがあるというものだ。
普通、好きな人がいれば 彼氏だなんて別の存在が いることはない。
けれど、俺の場合はいる。
それも、あえて表現するなら "取っかえ引っかえ"だ。
だって、さとみが遊び人 なんだもん。
そんな人を一途に想って いたってどうにもならない。
中学卒業までは、本当に一途で純粋な片想いをしていた。
部活終わりはよく一緒に 帰ったし、休みの日には 映画を見に行ったりもした。
毎日ドキドキして、一緒に笑いあっていられるのが楽しくて。
部活帰りも、映画も、俺がどれだけの勇気で誘っていたかなんて本人は知りもしないだろう。
モテるさとみはその間も たくさんの女の子と付き合っていたけど、『莉犬は親友 だから』なんて言って、 俺ともよく一緒にいてくれた。
けど、それはあくまでも"友達"だから。
いままでの彼女たちに見せていた"恋人"としてのさとみの姿が俺に向けられることはない。
RI
SA
だから、高校に入ってからは 俺もやつと同じキャラへと 方向転換することにした。
純粋な気持ちで一途に3年間 想い続けてもダメだったんだ。
"遊び人同士"という関係なら さとみともっと近い距離に 行けるかもしれない。
次第に芽生えたそんな ゆがんだ考えが、俺の片想いを ここまでこじらせていた。
SA
RI
SA
ヒラヒラと手を振って、 さとみは来た道を戻っていく。
その後ろ姿をしばらく ながめて、結局俺が呼び 出された意味はあったのかなと 疑問に思いながら家に入った。
次の日
RO
RI
翌日の4月7日。
今日から2年生が スタートする。
中学2年生で同じクラスに なって以降、ずっと別々だった 友達の黄野るぅとと、 やっとまた一緒になれた。
RO
RI
RO
そして予想通り さとみも同じクラス。
離れればもしかしたらあきらめがつくかもしれない。
そんな考えはどうやら 無駄だったらしい。
俺の気持ちを知っている るぅとくんは、それを見て ニヤニヤと肘で突ついてきた。
RI
SA
RI
明らかにるぅとくんとはちがう声が聞こえたかと思えば、 目の前にまさかの本人、 さとみが現れた。
SA
そう言って、おかしそうに 笑いながら俺は肩を抱く。
そしてそのままぐしゃぐしゃと髪をなでられ、平静を装い ながらも内心はドッキドキだ。
こいつはいつでも躊躇なく 触れてくるから、本当に 心臓が持たない。
アサヒ
SA
が、そのタイミングでさとみの名前を呼ぶ声が聞こえた。
思わず顔をしかめたさとみは、パッと俺を離す。
アサヒ
その彼女──アサヒくんは そう言って近づき、さとみの 胸をぽかぽかと叩いた。
泣きそうな顔をするあたり、 彼は本気でこいつの ことが好きなんだろう。
俺とはちがう、伝える勇気を 持った女の子。
SA
アサヒ
悪びれる様子もないさとみの 態度に、アサヒくんは ヒステリックに叫ぶ。
RO
横にいたるぅとくんも、 そんなことを言って 事の運びをながめていた。
バカさとみ。
そんなこと、普通彼女に 言っていいわけがないのに。
俺としてはそう言ってもらえるのはうれしいけど、彼女の立場からしたら彼氏が女友達と いつも一緒にいるだなんて気分のいいものではないだろう。
そんなこともわからない こいつは、やっぱりデリカシーのない女たらしの大バカで。
アサヒ
もう知らない!と、アサヒくんは叫んで走っていった。
帰り際にキッとにらまれた のは、気のせいだという ことにしておこう。
RO
SA
まわりがざわざわと騒ぎたてる中、るぅとくんとさとみは 冷静にそんな言葉をかわす。
俺も俺で、特に驚くことも なかった。
だってこんなの、日常茶飯事。
俺の存在が原因でさとみが彼女とケンカすることもあれば、 あいつのせいで俺が彼氏とケンカすることもしょっちゅう。
それでも俺の1番はさとみ だから離れることはないし、向こうも俺を親友だと思ってくれているらしいから一緒にいる。
そりゃ、いつまで経っても 関係が発展しないことは事実 だけど、やつの中で俺が"最高の親友"であることに代わり はないから下手に行動も できないというわけだ。
SA
RI
先に歩いていくさとみのあとをるぅとくんと追う。
新学期が、幕を開けた。
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