「さよなら」
その言葉が鼓膜を揺らしたのは 多分数時間前
貴方といた時間以上に 長い月日が経ったような
そんな気分だけど
きっと一日も 経っていないだろうなぁ
いつもみたく苦しくなる程に 笑って水に流すなんて
普段は鬱陶しいのに
こんな時ばかりそれを求めてしまうのはきっと私のワガママね
「お前は悪くないよ」って 笑って出ていったっけ
私は言葉一つ交わせずに ぼーっと見ていたっけ
いつも抱きついていた 大きな背中がどうしようもなく
恋しいの
今更だけど貴方の言葉が
私の頭蓋骨を回ってるの
同じ曲を好きになったときも 嬉しすぎてずっと離れなかったっけ
「一人にさせないよ」なんて
綺麗事で私を惑わせたのは 他の誰でもない貴方で
嬉しいことも悲しいことも 愚痴も病んだ話だって
耳を傾けて頷いてくれたのは 貴方しか居ないの
貴方だけだったの
抱え込むな、って 頭を撫でてくれた事忘れられなくて
最後には「散歩でも行くか」って
太陽みたいな笑みで心が晴れたっけ
貴方の言うとおりに 散歩でもしてみたんだ
貴方が隣にいない私は 上手く歩けているのかな?
貴方と何度も歩いた道は 今日も陽炎が揺らいでたよ
……なんて季節じゃないね 嘘だよ、ごめんね
解けた靴紐みたいな 私達の関係は
結び直されるときは 来ると期待して良いでしょうか
隣はまた歩けるかな
少し後ろで背中を見つめることは もう二度とできないかなぁ
不意打ちに「好きだよ」とか 伝えておけば良かったかなぁ
照れくさかったなんて言い訳だね
「ごめんね」
数日後
近くの道に葬儀場への 案内の看板が立てかけてあったよ
貴方の名前が大きく書かれていて
必死に走ったら葬儀場の入り口で
薄くなった貴方が笑って立ってた
幽霊なんて信じたくなかったけれど今くらい信じていいかな
幻だなんて悲しすぎるでしょ?
息が切れて感極まって
いつの間にか頬に流れた雫こそ きっと幻だよね
貴方から聞きたくなかった言葉
今度は私から伝えて良いかな
「貴方は何も悪くないよ、さよなら。」
コメント
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テキストのみでこんなに気持ちが現れている菜月さんの作品…とても素敵です✨ 主人公のさよならは、心の中からだったのでしょうか…もしかしたら、本当はさよならなんてしたくなくて、心の中のどこかに留めているのではないか…という想像が膨らみます(*´˘`*)♡
やっぱ菜月の作品は最高…
短いけどいい話で一瞬涙で、でた、、