『嘘つき？』

朝。

それは、僕が1番嫌いな時間。

何も見たくなくて、何も聞きたくなくて。

1人、毛布にくるまる。

そっと時間が経つのを待てば、大好きな彼が起こしに来てくれる。

だから、大丈夫。

僕はまだ、捨てられてない。

あれは、いつだったかな。

1ヶ月くらい前だった気がする。

僕と、彼氏であるさとみくんは、同居していた。

毎日が楽しくて、幸せで。

寝る時も、一緒のベッドで寝てた。

でも、そんな日常は簡単に壊れた。

彼が、浮気をした。

同じメンバーである、ジェルくんと。

初めは、遊んでいるだけだと思った。

でも、違った。

2人で、好きだと言い合っていた。

それから毎日、ジェルくんが来るようになった。

僕は、毎日気づかないフリをする。

だって、彼は、僕に笑いかけてくれるんだ。

優しくて、温かい瞳で。

僕は、それだけでいいんだ。

彼が浮気をしても、僕以外の人を好きになっていても。

今、隣にいてくれるならそれでいい。

でも、やっぱりね。

辛いんだよ。

悲しいの。

毎朝2人でこっそりと会っていることも。

その後、何も無かったかのような顔で部屋に入ってくる彼も。

全部が、嫌だ。

僕は今の生活に満足してるけど、それでも、朝は嫌い。

何も知らないままでいれたら、どんなに幸せだったかな。

コンコンッ

しばらくすると、ドアの開く音がした。

彼の優しい声が聞こえる。

バカみたい。

不意に、そう思った。

言ってしまいたい。

全て知っているのだ、と。

本当は傷ついてるくせに、無理やり笑って、何がしたいのだろう。

僕は、傷ついてる。

大好きな人に、浮気されたから。

そして、そのことをちゃんと言いたい。

結果、別れることになったとしても、しょうがないじゃんか。

こんな毎日を続けるより、マシだ。

笑いながら尋ねる。

彼は、大きく目を見開いた。

潤んだ瞳で、ボソリと呟く。

僕が彼を信じようとしてないことが、分かっているのだろう。

半分、諦めたような響きだった。

今度こそ、彼は泣いていた。

僕を見つめたあと、下を向いて、もういい、と言った。

ありもしない事？

何を、言ってるの？

すれ違いざま、彼は呟いた。

泣きそうになる。

心が痛くて、苦しい。

彼の方を見ると、向こうもこちらを見ていた。

それだけ言って、彼は家を出た。

朝が、嫌いだった。

その時間だけ消えて無くなればいいのに、と思うほどに。

でも、今は違う。

彼のいない生活では、朝も昼も夜も、好きになんてなれない。

爽やかな朝も、綺麗な夕日も、満月も。

全部、嫌いになりそうだ。

彼は、言っていた。

ジェルくんと好きなんて言い合ってない、と。

それが本当かどうか、僕には分からない。

だから、僕はジェルくんにLINEをした。

きっと、誰も分かってくれない。

浮気された、僕の気持ちなんて。

『そんな事、してねぇよ』

力なく呟いた、彼の姿。

どうせ信じないんだろ、と彼は言った。

その通りだと思った。

僕は、彼に何を言われても信じる気はなかった。

話し合う気もなかった。

でも。

少しくらい、聞けばよかったのではないか。

もしかしたら、浮気じゃなかったのかもしれない。

時間が経てば経つほど、そんな考えが浮かんでくる。

僕は、彼を傷つけたのだろう。

最後に笑った顔は、悲しみを隠しているようだった。

なら、僕がしなきゃいけないことはたった一つ。

バタンッ

ピーンポーン

彼の名前を呼んで、抱きついた。

いい匂いがする。