心暖
心暖
心暖
心暖
心暖
長いまつ毛。整った顔立ち。色っぽい唇。 然して濡れた髪が此れ等を際立たせている。
そりゃァ嘸かし数多くの女を泣かせてきたンだろうなァ。本人の前じゃ口に出して云った事はねェが正直俺は此奴の顔に惚れている。性格は芸術的に糞だ。もう一度云う、糞だ。
だが時々思う時がある。 自殺を飽きずにやっている此奴だが何時か其の儘目を覚まさない時が来るじゃないかと。 人間は必ず死ぬ、そんなこたァ判ってる。でも此奴だけは…此奴だけは俺より先に死なないで欲しい、と。死に急ぎ野郎の彼奴には嫌がらせになるかもしんねェ。…はっ、丁度良い。
太宰
中也
やっと仕事が落ち着き、今日は久しぶりのオフだってンのに何故俺は此奴を扶けてンだ。会いたくないって日に限って此奴に遭遇する。
太宰
太宰は躰を起き上がらせて にたにたしながら中也を見た。
中也
太宰
──は?巫山戯ンな。さっき俺が思った事はナシだ。太宰絶対ェ死なす。態々俺がオフだからと云って嫌がらせしてくるとかほんっと善い性格してンな此奴、本気で。
オフじゃなくても邪魔してくる。探偵社は暇なのか?否、此奴の事だから仕事はある癖に他の奴に任せて自殺が如何とか云ってンだろ。探偵社の奴らに同情するぜ。
中也
太宰
中也
朝起きて何時もの様に出社する支度をする。 包帯を巻くのは慣れたものだ。手際よく済ませていく。 1人で家で眠る時は包帯を外している。何も別にずっと付けている訳じゃない。勿論家に中也を呼んで一晩を共に過ごす時はずっと付けているけれど。
「何で手前はそんな毎日毎日包帯でぐるぐる巻きなンだよ。見てて暑苦しいわ」
前に中也に何度か訊かれた事がある。 何故包帯を巻いているのか、と。訊かれる度に私は巫山戯た事を云ったり話を逸らして本当の事を話した事は無かった。
別に秘密にしたかった訳じゃない。でも云いたく無かったのだ、特に中也には。それでも訊いてくる程中也は莫迦じゃない。云いたく無いのだと判ったのだろう。出会った頃はよく訊かれたけれど何時の間にか其の質問はされなくなった。
最近は異能を使い過ぎたのか、 躯が思うように動かない。 『人間失格』は無効化するだけの便利な異能じゃ無い。無効化すると共に相手の異能を体内に取り込んでいる。
それは痣となって現れ、己の躯を蝕む。年中包帯に身を包んでいるのはその痣を隠す為。 亦、自傷行為を行った時に出来た傷を隠す為でもある。
相手の異能力の威力が大きい分それを無効化すると自分に反動が必ず来る。
中也の『汚濁』は今まで無効化してきたどの異能よりも桁違いの威力だった。中也の『汚濁』を初めて止めた瞬間、余りにも反動が大きく私は吐血した。 勿論中也はその事については知らない。中也は『汚濁』を使った後気絶したからだ。私の事なんて見ちゃいない。
その後何度か『汚濁』を行うようになり少しは耐性がついた。然し反動は少なからずあり、確実に私の躯を蝕んだ。
反動の症状は様々。体温低下、目眩・吐き気、頭痛。 然してその症状は私の自殺願望を加速させるものであった。こんな苦しいならいっその事死んだ方がマシだと。 今日は出社したくない。もう死にたい。
そう思った私は国木田君に
太宰
と何時もと何ら変わりないメールを送った。此れなら体調不良だとは気付かれない。其れに、今日本当に死ぬつもりなのだから。最期はやはり入水が良い。あの川にしよう。
死ぬ事は怖くない。今まで自分を蝕んできたものから解放されると思うと心が踊るような気分に冴えなる。 あぁ。最期まで心中してくれる相手居なかったなぁ、何て思いながらもこれで死ねる。自由になれる。と川に身を投げる。
目を開けたら黄泉の国、とはいかなかった。先刻私が旅立とうとした世界と変わり無い。あぁ亦死ねなかった、と絶望する。ふと視線を横にやると君が居た。
太宰
中也
私の唯一の相棒。私、亦中也に扶けられたんだ。 不思議だ。先刻あんなにも死にたいと思っていたのに中也を見ると何故か其の気持ちが消え去る。 自殺は又今度でいいかな、なんてらしくない事を思ってしまった。
心暖
心暖
心暖
心暖
心暖
コメント
1件