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水滴の落ちる音が、起きろと急かすように徐々に近づいてくるので、観念して目を開けた。 しかしそこはまだ真っ暗で、何度も瞬きをしたが視界は変わらない。
まだ寝てたかったのに、なんて言葉は直ぐに引っ込んだ。
全く見覚えのない真っ暗な部屋で、自分は椅子に座っていた。 他に人が居る気配は感じられない。 少し肌寒いからか、鳥肌が立ってきた。 自分を安心させるために右手を握ると、爪が食い込むほど力が入る。
背中に冷たい汗がつたうが、その汗の位置や動きが妙に分かってしまう。 唾を飲み込むと、その音だけが響いた。
現実を直視しないようふざけたことを言う。 猫背の体を何かから身を守るように更に竦め、震える腕で体を支えてゆっくり立ち上がる。 目が暗闇に慣れて、少しずつ部屋全体が見えてきた。 自分の直線上には扉があり、真上には電球が付いていることが分かった。 何も分からない恐怖が薄くなる。 自然と、肩の力が抜けた。
手を強く握り直し、深く息を吐く。 コツ…コツ… やはり自分の足音だけが反響してきて、相変わらず静かで、不気味だ。 いつも以上に、誰かに見られている気がした。 振り返って誰かがいるわけでもないのに。 ああ、いつからだろうか、そんなことを考える間にも呼吸が浅くなって酸素が回らなくなっているのか、呼吸音が大音量で頭に直接届く。
壁に手を付けて、もう一度深呼吸をする。 危なかった、完全に無意識だった、 定期的に落ち着かなければ。 壁づたいに歩けばスイッチがあるはず。 思ったよりも早く壁に付いたので、 ここから出るためにも、足早に一周することにする。 半分までくると、大分イメージがついてきた。
すると、冷たい壁をつたう指に何かが触れたのを感じた。 念のため、形状を囲むように確認してみる。
そう思うより体が先に動き、スイッチを押していた。 部屋の中央にわずかな明かりがついた。 改めて辺りを見渡すと、 目の前の扉には文字が書いてあった。
「明るい光こそ、この部屋を出る鍵がある」
いい意味で裏切られ、部屋全体の空気が軽くなった気がした。 この部屋で唯一の光。 電球のことだな、と案外直ぐに理解できた。 よく目を凝らすと、逆光で鍵のシルエットが浮かび上がっていた。
椅子の上に立つことで、何とか鍵を手に入れた。
ガチャ…
そうやって、ないと思いつつも淡い期待を抱く。 自分はゆっくりとドアノブに手をかけた。