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それはまだ、外では茹だるような暑さが皮膚を焼き、
屋内ではゴウゴウときく冷房で外との温度差が激しい、
そんな_夏のことであった。
mob
女が家を出ようとする瞬間、 まるでそれを引き止めようとでもするかのように
中年の男は小太りの体を揺らしながらその背中に声をかけた。
藍菜
一方女は、まるで日常茶飯事だと言うかのように、 表情ひとつ変えずに男の頬に唇を当てた。
チュッ、と軽快なリップ音。 慣れた手つきで靴を履き終えると、明らかな仕草で 短いスカートを揺らした。
藍菜
家を出た瞬間、女は鞄からサッと財布を取り出し、 その中身を確認した。
藍菜
ただ夜のちょっとした「アソビ」だけで6万。 副業にしては高すぎる。
藍菜
そう。 女__もとい藍菜は、いわゆる「売春」で金を稼いでいる。
それは全て、彼女の圧倒的な美貌、スタイル、 そして自己肯定感からきているものだった。
藍菜
藍菜
どうやら相当気分が良いらしく、 鼻歌を歌いながらスキップなんかをしてみたり。
一歩踏み出すたびにそのたわわな胸が揺れ、 スカートの裾が風で揺れる。
もう完全に自分のムードに入り浸っていた彼女は、気が付かなかった。 キキーッという音と共に迫るトラックに。
藍菜
声を出した時には、もうトラックに体がぶつかる寸前だった。 誰もがぶつかる、ここから尊い命が失われるのだと、そう思ったことだろう。
しかし、そうはならなかった。 突如彼女の体から出た眩い光が辺りを照らし、 そのまままるで飲み込んだかのように彼女の体はその場から消えてしまったのである。
さて、では彼女はどこへ行ったのか。 物語の続きをお話ししよう。
気がつくと、彼女は全く知らない場所へいた。
禍々しい雰囲気が蔓延しており、 あたりにはいくつもの棺、そして鏡。
藍菜
そう言って写真を撮ろうとしたが、そこでようやく自分の鞄がないことに気づく。 スマホは鞄の中に入っていたのだ。
藍菜
彼女は急いでポケットの中を漁った。 幸いにも、彼女が命の次に大切にしているであろう財布は中に入っていた。
藍菜
ところで、ここはどこなのだろう。 先程まで……私は……
と、そこまで考えたところで、 自分の置かれた状況をようやく理解した。
藍菜
藍菜
そんな心当たり、彼女には微塵もなかった。
すると。 こつ…こつ……
ヒールのような音が、遠くから響いてくる。 心なしか、いや本当に、少しづつ近づいてくる。
どく、どくと心臓の音が段々と大きくなっていく。
藍菜
小さく悲鳴をあげた。
そこにいたのは____
「おや、やっと起きましたか。」
藍菜
部屋に着いた途端、大きく息をつき、 ベットに飛び込んだ。 軽くボフンと音が鳴る。
さて、ここに着くまで何があったのか 簡単に説明しよう。
まず、私はここ__異世界、ツイステッドワンダーランドの、 NRCという学校へ飛ばされた。
なぜかは不明だが、来てしまったものは仕方ないという。 結局、年齢やその他個人情報を聞かれ、 一旦はここで過ごせ、と言うことになった。
そして、女性ということでどの寮にいても危ないとされ、 学園の客用の部屋を一つ使わせてもらうことにもなった。
ここでひとつ大問題がある。
藍菜
藍菜
そう、この部屋には基本的な家具以外何もないのだ。
しかし、幸いなことに彼女には 学生がプチプラ製品を買うだけなら有り余るほど金があった。
藍菜
唯一の着替えであったロングのワンピースに着替え、 重い腰を上げた。
藍菜
購買につくと同時に、見たことのない物が並ぶ 壁いっぱいの棚に圧倒された。
もっと早くに気づくべきだったが、 そもそもこの学校は男学なのだ。 コスメや女性用の服なんて売っているわけがなかった。
でも正直、そんなのチャラになるくらい 目新しい物がたくさんある。
時間はまだ5時を回ったところで、 全然悩んでいる時間がある。
藍菜
手に取った惣菜パンのようなものを眺めながら、 そう、独り言を呟いた時。
エース・トラッポラ
藍菜
エース・トラッポラ
突如現れた男子生徒。 驚いて悲鳴をあげると、むしろ相手に驚かれた。
いきなりの急展開に頭がついていかない。
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
藍菜
自分でもぶっちゃけそこまでよくわかっていないので、 曖昧に流した。
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
そう言って彼、エース・トラッポラは 私が手に取ったパンを指差した。
藍菜
エース・トラッポラ
は?こいつなに、このパンの会社の回し者…?
不審な目で見られていることに気づいたのか、 彼は顔の前で大きく手をブンブンと振り、 まるで「違う!」とでも言うように更に首を振った。
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
いやだから展開早いって。勢い良すぎ。 最近の学生って怖い。
藍菜
藍菜
エース・トラッポラ
藍菜
エース・トラッポラ
相変わらず勢いはすごいけど、 少し話すうちに慣れてきた。
こういう人と裏表なしで触れ合ったのは久しぶりだ。 ここ数年は肉体関係が絡むような関係が多かったから。
エース・トラッポラ
藍菜
エース・トラッポラ
さて、そうしてレジに並び。
色々わかんないけど、この世界も普通に楽しいのでは?と なんとなーく思い始めていた時。
エース・トラッポラ
藍菜
私が会計に出したのは1万円札。言わずもがな高額紙幣だ。
しかし、エースだけじゃなく、会計の人も困惑している様子。
どうしようかと混乱していると、不意にエースが口を挟んだ。
エース・トラッポラ
別世界。
完全に忘れていた。そりゃあそうだ。 世界に無数にある日本以外の国ですら使えないこの紙切れ。 誰がこんな異世界で使えることを保証したんだろうか。
エース・トラッポラ
ほら、これ、と 彼が横長の財布から取り出した紙幣は、
一見似ているが、模様なんかは確かに 全く違う物だった。
エース・トラッポラ
そう言って何枚かの紙幣を手渡される。
1枚で何円くらいなんだろうか。 百円くらいだろうか。
とりあえず数枚出しておくと、 ぴったりだったのか会計が終わった。
店を出ても、私の心臓の鼓動は鳴りやまなかった。 私の稼いできたお金が使えない?この世界じゃ一文なし?
冗談じゃないでしょ。
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
うん、と曖昧な返事をし、 朦朧とパンの袋を取り出す。
申し訳ないが、エースの話は何も脳に入ってこなかった。 それよりも重大だったからだ。自分の稼いだ金が使えなくなるのは。
エース・トラッポラ
「美人」
ふと、現実に引き戻された。
この世界でも、「美人」という括りは変わらないのか。
じゃあ、
私のすることは一つしかない。
パンを食べようとしたエースの横をサッと立ち上がる。
藍菜
藍菜
藍菜
私は財布からサッと名刺を取り出すと、 エースの前に置いた。
どうやら、今度はエースがこのスピーディな展開についていけて いないようで、目をぱちくりとさせた。
しかし、まもなく我に帰ったのか、 輝くような表情で名刺をじっくりと見つめた。
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
そうやって純粋そうに笑う彼を見て、 私は心の中でほくそ笑んだ。
彼には可哀想だけど、 私が輝くためなら、何だってする。
藍菜
エース・トラッポラ
軽く会話を交わした後、 おもむろに時計を見て、「もう行かなきゃ」と声を上げた。
エース・トラッポラ
藍菜
エース・トラッポラ
エースは去っていく私の背中にずっと手を振っていた。
かわいそうだけど、仕方ないよね。
藍菜
お金を稼ぐ方法なんて、私1つしか知らないんだから。
過剰なほどにひらひらとワンピースをはためかせ、 「いつもの」自分の顔を作る。
藍菜
私はこの異世界で、 自分の体だけで億万長者になってやる。