一覧ページ

LINE615

第1話 - あ

2023年05月13日

#恋愛

結城真矢

イチカ

おかあさま、冷蔵庫に入れておいた肉のパックを知りませんか？

イチカ

昨日の特売で、まとめて１週間分のお肉を買ったんですが。

シワコ

あら、肉なら今日の昼にニコに上げちゃったわよ。

イチカ

え、全部上げたんですか？夕飯に使う予定だったお肉が全然ないんですけど。

シワコ

あら、そうだったの？適当に持って行って、って言ったけど。

イチカ

まさか、全部上げてしまうとは思いませんでしたよ。

イチカ

おまけに、野菜やらアイスやら、色々無くなってます。

シワコ

だって、ニコのところの旦那様は大食いでしょう？

シワコ

食材をいくら買っても足りないって嘆くから、助けてあげようと思ってね。

イチカ

だからって、冷蔵庫の中身を全部上げる事はないでしょう。

シワコ

全部は上げてないわよ。もやしとかお茶とか、多少は残ってるでしょ？

イチカ

育ち盛りの息子たちに、もやしとお茶だけじゃ全然足りないですよ。あら？

シワコ

どうかしたの？

イチカ

マヨネーズや卵も無くなってます。白米も半分以上減ってる…

シワコ

あら～、あの子ったら、そんなに沢山持って行っちゃったの。

イチカ

あら～、じゃないですよ。息子たちがもうすぐ帰ってくるのに。

イチカ

これじゃ夕飯が作れません…。

シワコ

何を言ってるの。また買いに行けばいいじゃない(笑)。

イチカ

せっかく安売りの日に買いだめして節約しているのに。

イチカ

また買い物したら、余計な出費になってしまいます。

シワコ

余計な出費ってなによ！子供を援助して何が悪いって言うの！

イチカ

それは、ごめんなさい。余計な事を言ってしまいました。

シワコ

まったくよ。私はね、娘夫婦を助けてあげたいだけなのよ。

イチカ

でもニコさん、毎日のようにおかあさまの所に遊びにきますよね。

シワコ

そりゃ、まだ小さい孫もいるし、色々大変な時期だもの。

イチカ

おかあさまの所に来て頂くのは良いと思うんです。でも。

シワコ

でも、何？

イチカ

私たちの住居に入ってきて、冷蔵庫のものを勝手に持ち帰るのは如何なものかと。

イチカ

それも、ほぼ毎日何かを持ち帰られてますよね。

シワコ

勝手に持ち帰ってる訳じゃないわよ。

シワコ

あの子、ちゃんと私に聞いてから持ち帰ってるわよ。

イチカ

そうじゃなくて、ウチの食材は、私たちの生活費で買ったものですから。

イチカ

ちゃんと、私に聞いてからにしていただきたいです。

シワコ

あなたって、本当に神経質な人ね。そんなにケチじゃ息が詰まるわ。

イチカ

ケ、ケチって。ごく普通の事を言っているつもりなんですが…。

シワコ

だって、ニコがウチに来るときは、イチカさん仕事中でしょう？

イチカ

そうですけど…。

シワコ

お仕事の邪魔をしちゃ悪いから、わざわざ連絡しない事にしてたのよ。

イチカ

それならLINEでもいいですよ。休憩中に見られますし。

シワコ

あなたが休憩する頃には、赤ちゃんのお昼寝でニコも帰っちゃうのよ。

シワコ

返信を待ってる暇なんてないわよ。

イチカ

それなら、食材を持ち帰るのはご勘弁いただきたいです。

シワコ

どうして。

イチカ

こうも毎回食材を持ち帰られたら、ウチも困るんです。

イチカ

息子たちが食べるものが無くなっちゃう。

シワコ

でもね～。食材が無いならお買い物に行けばいいでしょ？

イチカ

ですから、その手間とお金がもったいないんですよ。

シワコ

お金なら持ってるでしょう？あなたもサンペイも働いているんだし。

イチカ

いえいえ、私、パートですよ？息子たちの習い事や塾で、ほとんど収入が消えてます。

イチカ

全然、余裕なんてないですよ。

シワコ

あら～、それじゃパートの時間をもっと増やせばいいじゃないの。

イチカ

私がもっと働くんですか？ニコさん達を援助する為にですか？

シワコ

そうよ、兄弟同士で助けあうのが当たり前でしょう？

イチカ

…私たちは、ニコさん達には何も助けてもらった事がありませんが。

シワコ

だって、サンペイはお兄ちゃんだもの。兄夫婦なら妹夫婦の援助をするものよ。

イチカ

はぁ。全然通じない…お話ししていたら疲れました。もう買い物に行きますね。

シワコ

そう、それじゃあね。

～イチカとニコのLINE～

ニコ

おねえさん、昨日もらった食材の事なんですけど。

イチカ

食材？それがどうかしたの。

ニコ

赤ちゃんがまだ食べられないような固い牛肉を買うの、やめてもらえません？

イチカ

はい？

ニコ

離乳食に使うんですよ。こんな安くてかたい肉！

ニコ

刻んで茹でても、赤ちゃんが吐き出しちゃうじゃないですか。

イチカ

えっと、ウチから持って行った肉を離乳食に使ってるのね？

ニコ

そうですよ～。だって、まだウチの娘は赤ちゃんですから。

ニコ

でも、おねえさんの所で昨日もらった肉が固いんだもん。

イチカ

うちで食べる為に買った肉ですからね。

イチカ

ニコちゃんに上げるつもりで買ったわけじゃないですし。

ニコ

おかあさんが「好きに持って行っていいよって言ってくれるから。」

ニコ

いつも素直に持ち帰らせてもらってるんだけど。

イチカ

素直に、ねぇ…ウチはそれで困ってのよ。

ニコ

なんでですか？

イチカ

昨日ニコちゃんが持ち帰った肉の中に、国産牛のステーキ肉があったでしょう？

ニコ

ええ、すごくいい肉でしたね。昨日早速焼いて食べちゃいました～。

イチカ

それ、長男の誕生日祝いの為に買った肉だったのよ！

ニコ

えっ？そうなんですか。

イチカ

子供たちがすごくガッカリしていたわよ。楽しみにしていたから。

ニコ

うーん。もう食べちゃったから、そう言われてもね。

ニコ

お母さんも、誕生日の事なんて何も言ってなかったしー。

イチカ

…謝ってくれる気もないみたいね。あとね、ニコちゃん。

イチカ

サンペイさんが単身赴任先から週末だけ帰宅するの、しってるわよね。

ニコ

ええ、もちろん。

イチカ

その少ない休日の間に、一緒に買い出しに行ってるのよ。

イチカ

サンペイさんがお金を出して、時間を潰して買ってくれた食材を

イチカ

みんな持っていかれたら、こちらの労力がムダになっちゃうわ。

ニコ

ムダだなんて～。おねえさん、冷たい言い方しないで下さいよ。

ニコ

お兄ちゃんなんだから、夫婦で妹を助けるのは当たり前でしょう。

イチカ

おかあさまと同じ事を言うのね。

ニコ

だって、小さい時からお母さんがそう言ってきてたもん。

イチカ

あのね、ニコちゃん。いいづらいんだけど。

イチカ

もう、ウチから食材を持っていくのはやめてくれない？

ニコ

え～それは困りますぅ。どうして？おねえさんの所は甥っ子達も大きいし、

ニコ

お買い物なんていつでも行けるでしょう？私は、娘もまだ10カ月ですよ。

ニコ

外に出かけるのも大変なんです！

イチカ

いやいや、ウチも息子2人が育ちざかりで、沢山食べるのよ。

イチカ

食費だってバカにならないし。

ニコ

でも、仕事もしてますよね？稼いでるんだから、いいじゃないですか～。

イチカ

毎日、食材を持っていかれたら、私も何のために働いているのか…。

ニコ

カワイイ義妹と赤ちゃんの為ですよ！いつも感謝してます♪

イチカ

いや、私は夫と息子たちの為に働いてるの。

イチカ

それなのに、肉だけでなく調味料やらお菓子やら、全部あなたが持っていくでしょ。

ニコ

先週は、トイレットペーパーや洗剤まで持って帰っちゃって。

イチカ

帰ったのにトイレも行けなくて、ほんと困ったわよ。

ニコ

だって、ドラッグストアに行く暇が無かったから。

ニコ

あ、オムツもお兄ちゃんちにあれば、もっと助かるんですけど～。

イチカ

はぁ？

ニコ

でも、おねえさんの所には赤ちゃんがいないから、さすがに仕方ないですね。

イチカ

ちょっと、ニコちゃん、私の理解を超えてるわ…。

ニコ

そう？買ってくれないかぁ。残念です。

イチカ

当たり前です！うちは無料スーパーじゃないのよ。

ニコ

そんな、人をタカリみたいに言わないでくださいって。

イチカ

とにかく、うちではニコちゃんのお家の援助が出来るほど

イチカ

余裕はありません。分かってちょうだいね。

ニコ

フン、ケチ！

～２週間後、家族LINE～

ニコ

ちょっと、おねえさん！どういうことですか！

イチカ

いきなり何？ビックリするのよ。

ニコ

なんか私の家の冷蔵庫に、尋常じゃない食材を入れていったでしょう！

ニコ

こんなの食べられないわよ！

イチカ

え？なんで？

ニコ

なに？この変な食材は！カエルの肉とかダチョウの卵とか。

ニコ

牛の目なんて、食べられるわけがないでしょ！

イチカ

ああ、それ私の同僚からもらったの。外国人の同僚がいるのよ。

イチカ

珍しい食材だし、ニコちゃんが喜ぶかなーと思って、昨日届けたの。

イチカ

旦那様がいたから、ちょっと上がらせてもらって、冷蔵庫にしまったんだけどね。

ニコ

う、ウチの冷蔵庫を開けたの？

イチカ

だって、新鮮なうちに届けたかったから、直接持って行ってあげたのよ。

ニコ

ちょっと、人の家の冷蔵庫を勝手に開けないで下さいよ！失礼すぎでしょ。

イチカ

その、失礼な事を毎日毎日やっていたのは誰？

ニコ

へ？

イチカ

あなたがいつも食材を持ち帰るせいで、ウチの家計は毎月赤字なのよ！

ニコ

そんなに生活費に困ってないでしょ、大げさよ。

イチカ

大げさでもなんでもないわよ。分かってもらえないようね。

ニコ

だって、どれもセール品でしょう？

イチカ

そう言うだろうと思って、この３カ月の間にニコちゃんが持って帰った食材。

イチカ

全部家計簿に書き留めておいたの。

ニコ

え～、そんな事をしてどうするんですか。

イチカ

３か月分の食費を全部、まとめて請求する事にしたわよ。

ニコ

へ？まさか。

イチカ

本当よ。しかもその請求書は、サンペイさんが作成したものよ！

ニコ

そんな！お兄ちゃんが？信じられない。

サンペイ

本当だよ。まったく、お前はいい年をして情けない。

ニコ

お、お兄ちゃん。

イチカ

これが家族LINEだという事を忘れてた？

サンペイ

僕が単身赴任中なのを良い事に、やりたい放題だな。

サンペイ

僕たちはな、お前らを養う為に働いてるわけじゃないんだぞ。

ニコ

だって、食材を買おうにも主人の稼ぎが少なくて、良い肉なんて買えないんだもん。

ニコ

兄弟なら助けてくれたっていいでしょう？

サンペイ

あのさ、お前の旦那は稼いでいないわけじゃないだろう。

ニコ

どうしてそう思うの？

サンペイ

僕が何も知らないと思ったのか？ニコ、お前、週末になると子供を旦那に任せて、

サンペイ

朝から晩までパチンコ屋に入り浸ってるだろう？

ニコ

な、なんでその事を知ってるの？

イチカ

なんでって、駅前のスーパーの真ん前のパチンコ屋だったから。

サンペイ

ニコがパチンコ屋に入っていくのが見えたって訳だ。

イチカ

その、カエルの肉とかを持って行ったとき、旦那さんが言っていたわ。

イチカ

休みになると、ニコがパチンコに行ったきり帰ってこないって。

ニコ

そんな事を彼が喋ったの？

サンペイ

食費を浮かせて、その金でパチンコを楽しんでいたんだな。

イチカ

私たちは、ニコさんのパチンコ代を上げていたようなものね。

ニコ

そんなつもりは…。

サンペイ

食材を持っていく理由がパチンコじゃ、許すわけにはいかない。

ニコ

どうするの？

サンペイ

さっきイチカが伝えたように、ウチから持って行った分の食材３か月分、

サンペイ

全部計算しといたから、請求書を送ったよ。郵送で。

イチカ

もう届くころね…。

ニコ

そんな、いきなり酷いわ。

サンペイ

こういう事は僕たちもしたくなかったよ。

イチカ

でも、食材の持ち帰りをやめて欲しいって何度もお願いしたのに、やめてくれなかった。

サンペイ

だから二人で相談して、こうしようって決めたんだ。

イチカ

３か月分、合わせて１５万円。

ニコ

えっ？私、お金なんて全然ないよ。

サンペイ

働いて返せよ。パートやバイトでもやってさ。無理な金額じゃないぞ。

ニコ

でも、娘がいるのに…。

イチカ

赤ちゃんなら、おかあさまが預かってくれますよ。

サンペイ

ニコがパチンコにハマっているって話したら、母さんもがっかりしてたぞ。

ニコ

お母さんにまで話したの？

イチカ

まぁ、私が甘やかしたせいかもね、っておっしゃってましたけど。

サンペイ

子供の事は心配いらない。だから、働いてきちんと返せ！

イチカ

ついでにパチンコも、そろそろやめた方がいいよ。

ニコ

そうですかね…。

イチカ

必死で働いたら、パチンコなんて興味なくなりますよ～。

サンペイ

子供が小さいうちに、依存症を直した方がいい。

サンペイ

それ以上沼にハマったら、間違いなく離婚されるぞ。

ニコ

え？それだけは嫌！

イチカ

そうね、だからわかってちょうだいね、ニコちゃん。

ニコ

はい…ごめんなさい。

～後日談～

イチカ

あの話し合いの後、義妹はご主人に相当怒られたそうだ。

イチカ

義弟は、食材持ち帰りの件を知らなかったそうだ。

イチカ

義母にも、サンペイさんはきつくお灸を据えていた。

イチカ

ニコの事をこれ以上甘やかすな、と。

イチカ

普段は優しい息子から厳しく叱責されて、さすがの義母も反省していた。

イチカ

義妹は、近所の弁当工場で働く事になった。

イチカ

彼女が働いている間は、義母が赤ちゃんのお世話している。

イチカ

昼間、働く事になった為、我が家に来る暇もなくなった義妹は、

イチカ

食材を持ち帰る事も無くなった。

イチカ

彼女が反省し、パチンコ癖が治ってくれれば、それでいい。

イチカ

サンペイさんも私も、ニコちゃんが改心してくれることを心から願っている。

この作品はいかがでしたか？

0件

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう！

結城真矢

プロフィール

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

LINE615

第1話 - あ

作者の他の作品すべて見る

#恋愛の新着小説
一覧

関連するタグ

LINE615

第1話 - あ

作者の他の作品すべて見る

#恋愛の新着小説一覧

関連するタグ

#恋愛の新着小説
一覧