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「本当になんでもないから。ごめんなさい、心配させてしまって。」 そう言いながら再びゆっくり俯いた睡蘭を、本当は今すぐにでも抱きしめたかった。何があったのか分からなかったけれど、睡蘭の声が微かに震えていたから、とにかく安心させたくて。 でも僕のそんな思いは後に起こった出来事で、深い闇に消えていくこととなる。 睡蘭はまた僕の方を向いていた目線を斜め下に逸らしてしまった。 睡蘭をまっすぐ見ようと懸命に開けていた目をやっとまばたきさせた、その一瞬だった。 睡蘭が消えていた。 ろうそくから出る煙のように、冷たい空気に吐かれた白い息のように、消えた。
夜境
消えた...?どういうこと?
夜境
返事は無い。 僕の足元では置き去りにされたランタンが主人を失い戸惑うように弱々しく光っていた。 恐いくらい急速に上がっていく心拍と抉るような焦りが、不安が、僕の心を蝕んでいく。 僕はすぐに、狭間中を、雲の中の崩れた遺跡中を、天空中を、探し回った。 あんなにあっさりといなくなってほしくなかった。まだどこかに居るかもしれないという希望を、願望を、捨てきれなかった。 睡蘭はどこにもいなかった。 何も無い場所に現れ、何も無かったかのように去っていった。 いや、何も無くない......! 思い出を残したまま、何も知らせずに突然僕を置いて消えて、僕はひとりになって。 睡蘭も、ひとりになって。 言いたかったことが沢山あったのに、どうして。 頭に来た。後悔した。苦しくなった。 もっと一緒にいたかった。 感情が混濁して、目に涙が浮かぶ。 なんにもない、誰もいない目の前の暗闇が霞んで見える。
夜境
脳裏に焼き付いたままの、僕から目を逸らした睡蘭。
手を伸ばしても、もう届かない。
エピローグ
自分勝手でごめんなさい。 もう狭間と私は、終末を迎えた。 視界が光に包まれる。 大精霊様。どうか夜境に、ご加護を...
???
???
-続く-