がみとも
夜のコンビニ帰り。俺――がみともは、へくしょんと一緒に歩いていた。
へくしょん
今日は、ずっと一緒でしたね、ともさん
がみとも
そうだねぇ。まあ、付き合ってもないのに、ずっと一緒ってのも……変な話だけどね
へくしょん
付き合ってなくても、僕はずっとともさんと一緒がいいです
へくしょんの声は、いつも通り柔らかい。けれど、その言葉の温度が、ほんの少しだけ、肌に張りつくような感触を持っていた。
がみとも
へくさん、最近……なんか、俺のこと見すぎじゃない?
へくしょん
見てちゃ、だめですか?
がみとも
いや、別に悪いとかじゃないんだけど……なんか、ずっと見られてるような気がして
へくしょん
……だって、ともさん、すぐどこか行っちゃうから
がみとも
え?
へくしょん
すぐ誰かと喋るし、笑うし、僕以外の人とも仲良くするし。……僕、そういうの、あんまり好きじゃないです
がみとも
ちょ、何言って……
へくしょん
ともさんは、僕のです。僕だけが見てればいい。僕だけが触って、話して、笑わせてあげたいんです
そのとき、へくさんの目が、まっすぐ俺を捉えた。
優しいはずのその視線が、どこか狂気じみているように見えて――一瞬、息を飲んだ。
がみとも
……冗談だよね?
へくしょん
どうして、冗談だと思うんですか?
へくさんはにこりと笑ったまま、俺の手をそっと握った。冷たくも、熱くもないその手が、妙に重く感じる。
へくしょん
ともさん。僕ね、ともさんが他の人と楽しそうにしてると……消したくなるんです
がみとも
……なにを?……
へくしょん
全部ですよ。声も、名前も、記憶も。ともさんの周りにある“他人”を、ひとつ残らず
がみとも
……ちょ、ちょっと落ち着こ。ね?
俺は思わず手を引こうとしたけれど、へくさんの手は強くなる一方で。
へくしょん
……怖いですか?
がみとも
そりゃ……まあ……
へくしょん
でも、愛してるんです。僕の全部を、ともさんにあげたいだけなんです
その“愛”が、普通じゃないことは、もうわかってる。 けれど、どこかで――俺は、それすらも「俺だけを見てくれること」に、安心している自分に気づいてしまった。