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ただそれだけの願いだったのに。

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ただそれだけの願いだったのに。

1 - ただそれだけの願いだったのに。

♥

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2020年05月22日

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月の光が一人の人間を照らす

その人間は静かに涙の粒を流し、青く広がる深き水へ沈んでいく

その人間の後ろでは大きな声をあげては届きもしない誰かの名を叫び続ける

嗚呼、どうか

神様が居るならばこれ以上

彼女を悲しませないで欲しかった

唯、彼女が

心の底から笑うことを

唯それだけが唯一の願いだったんだ

静かな夜に綺麗な歌声が響き渡る

僕はその歌声を知っている

軋むドアを開けて夜の冷たい風が吹く

裸足で緑の高原を歩き広い湖のほとりを歩くと

柚月

〜〜〜♪

そこには月光に照らされた歌声の主が座って湖に足を入れていた

何度も聴いてきたがこの子の歌声はとても心地よい

悠真

寒くないの?大丈夫?

幾ら夏だとしても夜の外は冷える

柚月

寒くないって言ったら嘘になるかな

悠真

だろうな

会話は短く終わってしまった

何か楽しい話は有るだろうかと探り探っていると

彼女から話しかけてきた

柚月

この湖には沢山の人魂があるんでしょ?この村のために神様に命を捧げられた人達の魂が

悠真

……そうだね

ここは自然災害が酷く古くから神様に生贄を捧げるという風習がある

唯、古くからあるにもかかわらず、自然災害が収まったことは1度もないという

そして、次の満月ーーー明日にはこの湖に命を捧げる生贄がもう既に決まっていた

綺麗な声で歌を歌う

僕とは小さな時から一緒にいた

そして今も傍にいる彼女だ

彼女が明日の満月の夜にこの湖に命を捧げる

悠真

やっぱり怖い?

柚月

怖くないはないなぁ

悠真

どうして?

柚月

この村のために命を捧げるだもの

柚月

自然災害が収まるなら私はそれで良いの

悠真

っ……今まで神様に生贄を捧げてきたのに自然災害は収まったことは1度もないんだよ?

柚月

確かにそうだね

柚月

でも、私で自然災害は収まるよ

悠真

どうして言いきれるんだい?

柚月

毎日毎日月に願っているからね

悠真

……はぁ〜

柚月

ふふっ

彼女はいつもそうだ

自分のためにではなく

常に誰かのために動いている

自己犠牲が鋭い

止めることは出来たのに

僕はその勇気さえもない

柚月

なんて顔をしてるの?笑

悠真

…………

柚月

私は悠真と話せて楽しかったよ

柚月

ありがとう

悠真

…………

柚月

それじゃ、明日は早いだろうから寝るね

柚月

おやすみなさい

悠真

……お、やすみ

これが最後の夜になるのかと思うととても心が苦しい

何故彼女なんだと

何故こんなにも時間が経つのが早いんだと

後悔しても時間は戻せない

言いたかった

幼なじみという関係ではなく

恋人という関係になりたいと

幸せに

裕福に

この変な村を出て

一緒に暮らそうって

声をかけたかった

悠真

でも、もう遅いんだよ………っ

どうか

どうか

彼女の死が無駄にならないよう

彼女で自然災害が収まりますように

悠真

どうか彼女の思うままに

明日が素敵な一日に夜になりますように

いよいよ今日という今日がやってきた

朝から大人達は今夜の儀式のために忙しそうだ

彼女は何処だろうか

彼女に会いたい

最後くらい顔を合わせて話したい

柚月

悠真……

悠真

!?

背後から聞き覚えのある声に背中を揺らし振り返る

そこには生贄が着る白い服に身を包み軽く化粧をほどかされた彼女の姿があった

その姿はとても美しく天使が舞い降りたかのように見え見惚れていると

頭に激痛が走った

悠真

い"っ?!

柚月

そんなに見ないで

悠真

だからといって叩く必要はないだろう………

柚月

変態だって思われるよ

悠真

それは嫌だなぁ

柚月

でしょ笑

悠真

…………その

柚月

何?

悠真

綺麗だよ

柚月

あはは笑笑

悠真

何笑ってるんだ!!

柚月

……そんなに嫌なの?

悠真

嫌だよ

悠真

ずっと一緒にいた人が生贄になるなんておかしいよ…

柚月

誰がどの時に生贄になるかは大人達が決めるんだもの

柚月

仕方ないよ

大人達

柚月様、準備が整いました

大人達

湖へ行きましょ

柚月

わかった

悠真

………

柚月

準備が整ったって……

悠真

そうだね……

柚月

じゃ、夜にね

悠真

………

「うん」とは言えなかった

お願いだ

さようならなんて言わないでくれ

悠真

………柚月っ

彼女の名は深い森の中へ消えていった

とうとう夜が訪れた

例の月は光り輝き湖を照らしている

湖を白い服を着た大人達が囲み湖の真ん中には生贄である柚月が立っていた

昼間とは違うその輝きは天女のようだった

こんなにも近くに居るのに

声をかけることも触れることも出来ない

大人達

では、生贄を神様に捧げる

大人達

悠真

嫌だ

嫌な予感がする

悠真

は、い

大人達

生贄を神様に捧げよ

つまり、”彼女を湖に落とせ”

悠真

……っ!!

大人達

悠真

悠真

あ………っ…

全身が震える

何故僕なんだ

これも神様の悪戯か

柚月

お願い……

ばっと顔をあげた

柚月

私がお願いしたの

柚月

最後くらい好きな人に触られたいって

彼女はそう言って笑っていた

なんでそんなことをしたんだよ

僕の気持ちも知らないくせに

悠真

……最低だよ…

悠真

柚月は最後まで僕をからかうのかい…

僕は涙を流したまま彼女の背後に立った

悠真

どうせ、無理だって言っても振り返って僕の手を掴むのだろう…

柚月

そこまでバレちゃってたのか……

大人達

悠真

柚月

月が雲に隠れちゃうよ

早く押せって言うのか

悠真

…………

悠真

ありがとう

柚月

うん

悠真

楽しかったよ

柚月

うん

悠真

もっと…一緒に…居たかった

柚月

う、ん…

悠真

一緒に幸せになりたかった

柚月

ゆ、うま

柚月

早くっ!!

悠真

っ……愛してるって言いたかった!!!!

愛してる

彼女は確かにそう言った

涙を流して微笑んで

水の飛沫が降りかかる

悠真

あ…あ”ぁ”ぁ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

悠真

柚月っ!!!!

悠真

柚月ぃぃい!!!!!!

悠真

確かに僕の名を呼ぶ柚月の声が聞こえた

悠真

柚月っ…………

あの後

彼女の代で自然災害は起こらなかった

村の人達は大変喜んだ

でも、僕は

満月の夜を見上げては

彼女の名を呼ぶ

悠真

柚月

悠真

月が綺麗だよ

「私も」

そう言って彼女が心の底から笑っているように見えた

この作品はいかがでしたか?

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コメント

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フォローありがとです♪ 素敵なお話でした!!これから、よろしくです( `・ω・´)ノ ヨロシクー

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