「はじめまして」

高校に入学してすぐ

入院とか舐めてる？

いや、授業も置いてかれるし

下手したら友達だってできないよ？

ｶﾞﾗｯ

中に入ってきたのは

一人の男の人

…看護師とかかな？

え、めっちゃかっこよくね？

イケメンかよふざけんな

…てか

初めて見る人だな…

ﾊﾟﾁｯ

男の人は

一瞬黙ってからこっちに近づいてきた

近くで見ても

かっこよかった

気づいてしまった

男の人の頬に涙の跡があることに

僕の視線に気づいたのか

男の人は申し訳無さそうに俯く

ｶﾞﾀｯ

男の人はベッドの横のイスに座った

普段

人の話なんて聞かない

でも

あの人の目が、あまりにも悲しそうで

つい耳を傾けてしまった

俺の名前は

桃

いきなりだけど

気づけば恋人みたいな関係になってる人っているよな

お互いが想い合ってて

告白はしてないけど

友達以上恋人未満、みたいな

俺にも居たんだ

…そういう奴

…俺の学校

男子校だったからさ

男同士付き合ってる奴もいた

…俺も

想ってる奴は男だった

…男とは思えないぐらい可愛くて

意地っ張りで

からかったらすぐ照れる、

そんな奴だったんだ

…二人で帰ってたんだ

いつもみたいにふざけながら

こーやって俺らは付き合えたんだ

…でも

幸せは短かった

ﾁｭｯ

これが

最初で最後のキスだった

ｷｨｨｨｨ

ﾊﾞｧｧｧﾝ!

…事故が起きた

俺は軽症で済んだんだ

…青が庇ってくれたから

でも

青は重症だった

幸い

命に別状はなかった

でも

高校に入学してからの記憶を忘れてしまったんだ

…俺との記憶も全部

そして

それだけじゃなかった

記憶をすることもできなくなったんだ

1日経てば忘れてしまう

だから未だに1日経てば俺に

『はじめまして』を言うんだ

その度胸が苦しくなって

…泣いてしまう

俺はその後気づいた

あの人が着ていたのは

看護師の服ではなく、ただの白い服だったと

『青水　青』

ベッドに書かれたネームプレートを見ると

なぜか涙が止まらなかった