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ずっと考えていた。
もしも、▒▒▒▒▒▒
そのとき私は──
チャンスの雨。
ぱり、と砕けて溶ける
甘い飴。
傘についたアメ。
繰り返すおまじない。
意味や効果があるのか、 自分が何をしたいのか
たったひとつも わからないままに
ふたりは、 ひとつの傘の下に。
糸のような雨は、 当たって弾けて粒になる。
手のひらに包み込んだアメは、
私が到着したとき、
彼は大きな木に もたれかかっていた。
スタイルのいい彼に、 そよぐ葉が絵になっている。
この人とデートなんだ。
…夢、みたい。
実際はどちらも違うけれど、 途端に緊張してきた。
昨夜、両手の爪に塗った 透明なマニキュア。
左右の小指を見つめながら、 そっと呟いた。
高鳴る心音を深呼吸で誤魔化し、 彼の元へ駆けた。
名前どおりの笑顔に、 早速悩殺されそうになる。
今日は、 同じ作家が好きな男子と 本屋へ行くだけ。
ただ、その相手が 想い人である王子だという
たったそれだけのことが
私の心臓を 思いきり狂わせていた。
空全体に、 鈍色の雲が広がっていく。
それは黒い塊と化して、 細い雫を降らせた。
声が重なって、 顔を見合わせる。
どちらからともなく 笑ってしまった。
困ったような声まで好きだ。
右手の親指を左手で包み、 一瞬瞼を閉じる。
頬の熱さを感じながら、 思いきって口を開いた。
ばちっと視線がぶつかる。
急いで、取りだした 折りたたみ傘を開いた。
焦って早口になり、 咄嗟に俯いた。
いたたまれなくなって、 耳を引っ張る。
だけど、指まで熱くて 冷めてくれない。
ちらりと顔を上げると、
彼は笑って頷いた。
不意討ちすぎる至近距離に 倒れそうになりながら
無言で何度も頷いた。
傘の柄をぎゅっと握って 首を振る。
さりげない気遣いに、 ときめいてしまう。
「少女漫画かよっ！」と 叫びたくなるくらいに甘い。
すごい徳を積んだかもしれない 前世の自分に感謝しながら
とりあえず、 溶けてしまいそうな 耳を押さえた。
時折肩が触れて、 その度に心拍数が上がる。
あぁもう、だめだ。
諦めようと思っていたのに
気持ちが抑えられない。
心の奥から、 誘惑の声が聞こえる気がする。
驚いて叫んで、 はっと我に返る。
パラパラと、 傘の上で弾ける雨。
たしかにとても綺麗で、 思わず呟いてしまった。
耳を引っ張って顔を背けて
ひととおり照れた私を、 彼の声が優しく包んだ。
無自覚な王子っぷり。
それに私は、今日何回 惑わされるんだろう。
耳をつまみながら、 視線を逸らした。
夢はいつか覚める。
現実感のない時間も、
あと少しで終わってしまう。
ずっと考えていた。
もしも、雨が降ったら
そのとき、私は──
傘についた、落ちない雨。
そっと掬うと、 ころんと手のひらを転がった。
蒼色を帯びた丸い粒は、 私だけの魔法。
雨からできた、 甘い飴。
これを渡せば、 好きになってくれる。
両想いになれる。
アメをジップロックに入れて、 バッグを開ける。
僅かに開けた隙間から ハートのクイーンと目が合った。
持ってきた、１枚のトランプ。
視線が交わる。
渡すんだ。
アメを入れた小さな袋を、彼に
魔法を、彼に
罪悪感が、 ちくりと心を刺した。
渡さないと、今しかないのに。
私は本当に、 そんなことができる？
正反対の気持ちが私を止めて、 かき乱す。
手を、バッグに滑り込ませる。
…今だけでも、
私に、勇気をください。
整った顔に収まった 切れ長の瞳が、 僅かに開かれる。
私が左手で掴んだのは、
ハートのクイーン。
荒れる心臓が 飛びだしてしまいそう。
右手の親指を左手で包み、 俯いて目を閉じた。
期待、してしまう。
眩しい太陽みたいな笑顔を、
彼は私に向けてくれた。
渡せなかったアメを、 そっと口に入れる。
ぱり、と割れた表面から 液状の飴が広がった。
溢れそうになって、慌てて噛む。
口のなかで ひんやりと溶けるそれは、
甘酸っぱくて、ほろ苦くて、 憶えのある味。
何故かとても 幸せで、苦しくて。
訳もわからず 涙が出そうになった。
明日は彼と映画を観に行く。
小指だけにマニキュアを 塗ることはなく
トランプを 持っていくこともない、
今度は、正真正銘のデート。
おまじないはもう、 必要ないから。
そういえば、あのとき渡せずに 口に入れたアメ玉。
甘酸っぱくて、ほろ苦くて
あの味は、
…そうだ。
あのアメは
まるで、
恋のような味がしたんだ。
恋味のアメ
コメント
17件
いつも通り良いお話です！ 神✨
コンテストの参加ありがとうございます～～っ まず、あらすじが素敵です！✨ 結局玲乃ちゃんはクイーンを選んだってことかな？？ ハッピーエンドを書いてばっかりの私だからめちゃくちゃ好みです！！ 最後には、もうおまじないに頼らずに、自信を持ってデートに行けてこっちまで嬉しくなりました💕 恋のような味！！🍬 もしかして、陽君との恋が叶ったからわかった味！？とか色々考えさせて貰えました！✨
