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第1話 - あ

2023年09月16日

#スカッと

タナカトシキ

ユウヤ

おい、おまえ！俺に嫌がらせをしてるのか？

ユウヤ

何年、俺と一緒に生活してるんだ？

ユウヤ

そろそろ、俺の料理の好みぐらい把握しておけよ！

ユウヤ

俺は、もっと濃い味の料理が好きなんだ！

ユウヤ

こんな味のない料理なんか食えるか！

アイ

ちょっと、今日は残業で忙しいの

アイ

食べられないなら、店屋物でも注文してよ！

アイ

それに、今、食事制限するようにお医者さんから言われてるでしょ？

ユウヤ

そんなの知るか！

アイ

とにかく、今日は帰りが遅くなるわ

アイ

適当に、食べておいてよ

ユウヤ

何だよ！その横柄な態度は！

ユウヤ

俺の病気のこともあるし、専業主婦になるように約束したじゃないか？

アイ

今は無理だわ。あなたの仕事が大丈夫か心配だもの

ユウヤ

何でだよ？

アイ

病院代が心配なの。あなたが入院でもしたら、家計が回らないわ

ユウヤ

そんな会社、大して収入にならないだろ？

ユウヤ

早く辞めて、俺の世話をしてくれよ！

アイ

だから、今は無理だって言ってるじゃない

アイ

休憩時間が終わりだから、また後で

～翌日～

ユウヤ

俺の嫁って、ひどいよな

カズ

どうしてだ？しっかりしてるじゃないか？

ユウヤ

仕事をしてるから、しょっちゅう残業で、俺より帰りが遅いんだ

カズ

そのくらい、いいんじゃないか？

ユウヤ

よくないよ！家に帰っても、食事はレンジでチンして食べてるんだ

カズ

でも、奥さんは収入がいいんじゃないか？

ユウヤ

あいつ、お金を貯めこんで俺と離婚するつもりかな？

カズ

おまえ、極端だな？

カズ

何か、気になることでもあるのか？

ユウヤ

俺が専業主婦になるように頼んでるのに、まったく仕事を辞める

ユウヤ

気配もないんだよ

ユウヤ

まさか、会社に男がいるんじゃないかな？

カズ

そんな、考え過ぎじゃないか？

ユウヤ

そうかな？

カズ

そうだよ。病気だから気が立ってるだけじゃないか？

カズ

あれこれ考え過ぎずに、病気の快復に専念しろよな

ユウヤ

ありがとう

～翌日～

シンヤ

母さん。つい最近残業が多いね

アイ

ごめんね。ちょっと仕事が忙しくて･･･

シンヤ

僕のことはいいんだけど

シンヤ

父さんが、母さんの作った料理を全然食べていないんだ

シンヤ

料理を捨てて、店屋物ばかり食べてるんだよ

アイ

えっ！なんですって？

アイ

朝の５時に起きて作ってるのに、私の努力は無駄なの？

シンヤ

そうだよね。父さんのすることは見てられないよ

シンヤ

お医者さんから、食事制限されてるんだろ？

アイ

そうよ。お父さんは痛風なの

アイ

風が吹いても痛いらしいわ

シンヤ

そんなに痛いんなら、お医者さんの言うとおりにしたらいいのに･･･

アイ

痛風になったら、以前より頑固になって付き合いきれないわ

アイ

もし、お父さんと離婚したら、どっちについて行く？

シンヤ

もちろん、お母さんだよ

アイ

分かったわ。このことは、お父さんには内緒よ

シンヤ

うん。分かった

アイ

もうすぐ、休憩時間が終わるでしょ？午後からも、勉強頑張るのよ

シンヤ

はーい。了解！

～一週間後～

アイ

そろそろ、病院から検査結果は届いてない？

ユウヤ

まだだよ。何がそんなに気にかかるんだ？

アイ

何って、自分の夫のことなんだから、気にかかるわ

ユウヤ

お前、俺に黙って生命保険に入ったんだって？

ユウヤ

勝手に俺に生命保険を掛けてるんじゃないよ！

アイ

何言ってるの？あなた、同意してサインまで書いたじゃないの？

アイ

それに加入したのだって、去年の話よ

ユウヤ

まったく記憶にないね！

アイ

それは、あなたが忘れっぽいだけじゃない

ユウヤ

俺のこと、馬鹿にしてるのか？

アイ

何言ってるのよ？

ユウヤ

俺なんか死ねばいいと思ってるんだろ？

ユウヤ

不味い飯を食わしてたら、食が細くなって

ユウヤ

そのうち、あっけなく死ぬと思ってるんだろ？

アイ

呆れた。どこからそんな発想をするのよ？

アイ

シンヤに聞いたわよ。私の手料理を捨てて

アイ

店屋物ばかり食べてるそうね？

ユウヤ

それの何が悪いんだ？食べて欲しけりゃ、もっと食えるものを

ユウヤ

準備しろよ！

アイ

あなた、結婚した時とはまるで別人ね

アイ

私の作ったものなら、何でも食べられるって言ってたわよね？

ユウヤ

そんなひと昔前の話なんか、忘れちまったよ！

ユウヤ

だいたい、お前は偉そうなんだよ！

ユウヤ

俺より残業が多くても、たいした稼ぎにならないだろ？

ユウヤ

そんな会社、早く辞めて俺の食生活の管理をしっかりしろよ！

アイ

そんなに簡単な話じゃないわ

アイ

これからどんどんお金が掛かるかもしれないのに

アイ

とても辞められないわ

ユウヤ

俺との約束はどうなってるんだよ？

アイ

シンヤの学費は年々増えて行くし

アイ

あなたの通院費だって、バカにならないわ

アイ

入院でもしたら、どれだけお金が掛かることか？

ユウヤ

だから、俺の病気を治すのに専念してくれよ

アイ

すぐには無理だと言ってるじゃない！

ユウヤ

どうして会社を辞められないんだ？

ユウヤ

本当の理由を隠してるんじゃないだろうな？

ユウヤ

俺を気遣っているように振るまってるが

ユウヤ

まさか、男がいるんじゃないんだろうな？

アイ

こんなに毎日忙しくて、あなたの世話をして

アイ

どこをどうすれば、そんなことを思いつくの？

ユウヤ

会社で残業って、本当の話か？

ユウヤ

嘘をついて、男と会ってるんじゃないだろうな？

アイ

そんなに信用がなくて、結婚生活なんて成り立たないでしょ？

ユウヤ

何言ってるんだ？どうせ離婚なんてできないだろ？

ユウヤ

お前は俺がいなけりゃ、何にもできないんだから

アイ

勝手にそう思ってたらいいわ！

～三日後～

ユウヤ

アイ、今日病院に行ったら至急入院だって言われたんだ

アイ

そりゃそうよ。医者から食事制限がかかってるのに

アイ

薄い味付けは嫌だと言って、店屋物ばかり食べるんだもの

アイ

自業自得だわ

ユウヤ

そこまで言うことないじゃないか？

アイ

そうね。悪かったわ

ユウヤ

今日中に荷物をまとめて入院するようにって言われて･･･

ユウヤ

家に帰ったら、俺の荷物をまとめてくれるか？

アイ

分かったわ。足りなかったら、入院したときに

アイ

言ってくれる？

ユウヤ

ありがとう

～翌日～

アイ

あんた！入院する時はしおらしくしてると思ったら

アイ

今日、面会していた女は誰よ！

ユウヤ

なんのことを言ってるんだ？

アイ

とぼけないでよ！

アイ

あの女、いつ私が離婚してくれるのかって

アイ

聞いて来たわよ！

ユウヤ

誤解だよ。そんな女は知らないよ

アイ

名前を確認したら、あんたで間違いないって言ってたわよ

アイ

私のことを疑って、男はいないかなんて聞いといて

アイ

あんたはなんなの？

アイ

裏切ってたのは、あんたのほうじゃないの？

ユウヤ

あんな女は関係ないさ。誤解だよ

ユウヤ

ストーカーなんだよ。あの女

ユウヤ

迷惑だって言ってるのに、俺をつけまわして

ユウヤ

病院まで来てしまったんだよ

ユウヤ

俺だって、驚いたさ

アイ

そんな嘘が通じるとでも思っていたの？

ユウヤ

嘘なんかじゃないよ。本当の話なんだよ

アイ

50才近いあんたと、二十代後半の女とで

アイ

誰がストーカーだっていう話を信じると思うの？

ユウヤ

そこは信じてくれよ

アイ

色々腹も立つこともあったけど、入院するあんたが可哀想で

アイ

ちゃんと、世話をしてあげなくちゃとか考えてたけど

アイ

まったく大きなお世話だったということだったわね！

ユウヤ

そんなに怒らないでくれよ

アイ

今まで言ってなかったけど、私の稼ぎってあんたの給料の２倍なの

ユウヤ

へっ？

アイ

入院している人に対して、非情に思われるかもしれないけど

アイ

離婚してくれない？

ユウヤ

なんだって言うんだよ、急に･･･

アイ

今回のことだけじゃないの

アイ

今まで、何度も離婚を考えてたけど、日常生活の些細なことで

アイ

離婚なんて、あり得ないかなと悩んでたけど

アイ

あの女が私に話かけてきたことで、吹っ切れたわ

アイ

離婚してちょうだい

ユウヤ

ちょっと、頭を冷やしてくれよ

アイ

あんたはずっと、私の稼ぎがたいしたことないからって

アイ

安心してたみたいだし

アイ

あんたなしでは生活できないって、思ってたんでしょ？

アイ

収入はあんたより多いんだから、離婚後のことは心配しなくても

アイ

いいわよ

ユウヤ

畳掛けるように言わないでくれよ

ユウヤ

もっと冷静になってくれよ

ユウヤ

離婚なんて簡単なことじゃないだろ？

アイ

簡単に離婚できないなら、弁護士に依頼するわ

ユウヤ

頼むよ。そんなに大げさにしないでくれよ

ユウヤ

会社に居づらくなるじゃないか･･･

アイ

このことは今度じっくり話し合いましょう

アイ

ところで、あんた合併症で糖尿病になっているらしいわ

ユウヤ

糖尿病だって！そんなの聞いてないよ

アイ

食事管理ができてなかったんだから、どうしようもないわね

ユウヤ

そんな、他人事みたいに言わなくても･･･

アイ

自分でどうにかならなかったんだから

アイ

しっかり入院して、自己管理ができるようにならなくちゃね

ユウヤ

分かったよ

～一カ月後～

アイ

よかったわね。一カ月で退院できて

ユウヤ

仕事のこともあるし、そんなに長くは入院できないよ

アイ

離婚届、私の欄には署名しておいたから

アイ

書いといてよ

ユウヤ

そんな･･･

ユウヤ

シンヤは何て言ってるんだ？

アイ

私に付いてくると言ってるわよ

ユウヤ

俺の子なんだから、はいそうですかなんて

ユウヤ

引き渡せるものか･･･

アイ

あんたがごねるんだったら、弁護士に相談するよ

ユウヤ

なぁ、離婚せずに今までどうりに暮らそうよ

アイ

私の料理に文句ばかりだし、そのうえ不倫されても

アイ

黙っているなんて、性に合わないのよね

ユウヤ

そんなこと言わずに、やり直そうよ

アイ

あんたは私のことを体のいい家政婦ぐらいにしか

アイ

思ってないんじゃないの？

ユウヤ

そんなこと、思ったこともないよ

アイ

仕事を辞めて、食事管理をして欲しいだなんて

アイ

私の意見をまるで無視してるし

アイ

そんなんでやり直しなんて、無理なんだから

ユウヤ

俺が悪かったから、許してくれよ

アイ

無理って言ったら、無理なの

～翌日～

ユウヤ

なぁ、シンヤ、お母さんが離婚したいって言ってるけど

ユウヤ

お前はどう思う？

ユウヤ

そんなの反対だよな？

シンヤ

お母さんが離婚したいっていうんだから

シンヤ

僕は仕方ないって、思ってるよ

ユウヤ

お母さんに、離婚しないでくれって

ユウヤ

頼んでくれないか？

シンヤ

父さんのやること成すこと、目に余るって思ってたんだ

シンヤ

お母さんが、可哀そうだよ

シンヤ

朝早くから、食事を作ってるのに

シンヤ

父さんは片っ端からゴミ箱に捨ててるし･･･

シンヤ

浮気相手もいるって聞いたよ

ユウヤ

それはだな･･･。誤解だよ

シンヤ

父さんには悪いけど、お母さんが家を出たら

シンヤ

僕はついて行くよ

ユウヤ

お前まで、そんなことを言うのか？

ユウヤ

父さんと家に残ってくれないか？

シンヤ

父さん、それは無理

シンヤ

もう、父さんは尊敬できるような人じゃ

シンヤ

なくなったからね

ユウヤ

父さんを見捨てないでくれよ！

～後日談～

アイ

結局、夫とは離婚しました

アイ

離婚はしたくないとごねるので、弁護士を通しての

アイ

離婚となりました

アイ

息子のシンヤは親権争いにもなりましたが

アイ

私が勝訴しました

アイ

夫の言うとおりに仕事を辞めていたら

アイ

こうも上手くいかなかったと思います

アイ

夫は私が家を出たから、料理する人がおらず

アイ

宅配のお弁当を利用していましたが

アイ

通院費がバカにならないので

アイ

自炊を始めたそうです

アイ

夫は料理をしたことがないし

アイ

持病があるので、食事管理をしなくちゃいけないから

アイ

相当苦労しているそうです

アイ

あの女とも終わったそうです。夫が捨てられたんでしょう･･･

アイ

私はというと、シングルマザーとなりましたが

アイ

シンヤは協力的で、家事を進んでやってくれています

アイ

夫と離婚したことで、かえってホッとして

アイ

気苦労が減り、幸せに暮らしています

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タナカトシキ

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